第77話 急成長

 例の研究員の記録を読んだ後、俺達は白の空間へと帰還した。来る大黒霊戦に備える為、決戦前にゆっくりと休養を取る事にしたのだ。で、これが今回の成果だ。



◎本日の成果◎


討伐黒霊

血染めの屍×24体(感染LV2)

血染めの屍兵士×13体(感染LV2、剣術LV2)

血染めの屍教団員×7体(感染LV2、魔法・炎弾LV2)

血染めの運搬者×14体(感染LV2、猛毒LV2)

這いずる血液×3体(耐性・打撃LV2、強酸LV2、吸収LV1)

爆ぜた大猩猩おおしょうじょう×2体(咆哮LV3、嗅覚LV2、耐性・感染LV2)


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魔剣ダリウス

耐久値:48/48(+8)

威力 :43(+12)

頑強 :60(+15)[+18]

魔力 :35(+16)

魔防 :33(+9)[+4]

速度 :42(+10)[+3]

幸運 :35(+8)[+3]


霊刻印

◇剣術LV2

◇感染LV3

◇統率・屍LV2

◇格納・屍LV3


探索者装備

体  :紺青の皮鎧

腕  :円盤の盾

足  :紺青の洋袴

靴  :紺青の履物

装飾 :縁故えんこの耳飾(右)

装飾 :司教の首飾

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 新エリアへの挑戦、そして幾度にも及ぶ大群の襲来を乗り越えたのもあって、今回の成長はこれまでで一番のものとなった。見ての通り倒した黒霊の数が半端なく、能力の成長も著しい。いやはや、これでもオルカやホワイトに比べれば、全然少ないくらいなんだけどな。ふふっ。


「相棒よ、頬が緩んでおるぞ」

「ですね、ニヤニヤが止まらない様子のようで」

「お兄ちゃん、何か良い事があったの?」


 俺が成果を眺めていると、いつの間にか周りに皆が集まっていた。


「え、何々? ベクトが頭を打っておかしくなったって?」

「ななな、何て事でしょうか!? 直ぐに治癒の魔法を施しましょう!」


 サンドラに嘘を吹き込まれ、慌てふためくイレーネ。いつもはほんわかとした雰囲気なのに、こんな時の彼女は俊敏だ。次の瞬間に俺は強制的に地面に寝かされ、イレーネの魔法によって全身が輝き始めていた。わあ、俺ってばこんなに眩い。つうか眩しくて目が辛い。


「待てって落ち着けって」

「ベクトさん! 良かった、正気に戻られたんですね……!」

「うん、最初から正気だったんだけどね…… サンドラ、面白がって言っただろ?」

「いや~、ほんの冗談のつもりだったんだけどね~」


 イレーネは良くも悪くも純粋で天然なんだから、是非ともその辺は気を付けてほしい。安易な行動がとんでもない事態に発展する事もあるのだから。本当に、本当に……!


「それにしても、今回はダリウスをかなり成長させましたね」

「まあ今まで戦って来た奴らの上位互換な敵を、嫌ってほど大量に倒したからな。こんだけ成長率が高いと、体を慣らさないとちょっと心配だ」

「フフッ、でしょうね。ですが能力的に言えば、二体目の大黒霊に挑戦しても良いくらいです。ついこの間に黒檻へやって来たばかりですのに…… ベクトには驚かされますね」

「お、おう……?」


 オルカ曰く、彼女の二度目の戦いでは、全ての能力値が大体40を超えたくらいで大黒霊に挑戦、そして勝利を収めたんだそうだ。その話と照らし合わせると、ゼラの話は的を射ていると言える。しかし、最近あまり目にしていなかった真面目なゼラを前にすると、調子が狂うと言うか、何と言うか……


「持ち込んで行った大量のドワーフ殺しもきっちり消費されているようですし、ベクトは酒豪としても着実に成長されています。この私が保証しましょう。その調子ですよ、ベクト!」


 グッ! と、唐突に親指を立て、別方向からの称賛もし始めるゼラ。そうそう、ゼラはやっぱりこうじゃないとなッ! 別に持ち込んだドワーフ殺しは飲んでる訳じゃないけど!


 とまあ、いつもの交流もそこそこに、今回の探索で入手した霊刻印について整理する。レベルの高い霊刻印揃いであるが、初めて入手したのは、赤スライムが持っていた『耐性・打撃』、『強酸』、『吸収』の三種だろうか。


「『耐性・打撃』はその名の通り、打撃系の物理攻撃に対して耐性を持つ霊刻印です。拳やハンマーなど、そういった攻撃に効果を発揮しますね。逆に剣や爪など鋭利な攻撃には無意味ですので、その辺りは注意してください」

「あー、その霊刻印を持ってたスライムも、ダリウスで普通に斬れたからなぁ」


 ゾンビ系の敵には意味なさそうだけど、ハゼちゃん(敵)には一定の効果がありそうだ。大黒霊次第では、霊刻印構成の候補に挙がるかもしれない。


「『強酸』は対象を融解させる液体を放出する能力です。生身の敵はもちろん、強固な装甲を纏った相手にも効果的で、毒の如くじわじわとダメージを与えていきます。但し魔法ではありませんので、霊体には全く効果がなく、また元から溶けている敵にも意味がありません。『吸収』は触れた対象から耐久値を奪い取る能力です。こちらもじわじわ系、それも触れ続けていないと効果を発揮しない霊刻印なので、そのまま使うのはなかなか難しいでしょうね。霊体になった状態で使うなど、何かしらの工夫が必須です」

「なるほど……」


 どちらも持久戦用の能力って訳か。スライムみたいに敵に纏わりつく事ができるボディだったら、この二つも使いやすかったんだろうけど…… 今のままじゃゼラが指摘する通り、『強酸』は兎も角『吸収』は使えそうにないかな。あの赤スライムはいつでも狩れそうだし、この二つは見送るとしよう。


「ゼラ、『感染』を『耐性・感染』に入れ替えてくれないか? キンちゃんに預けていたレベル3のやつがあったろ?」

「承知しました」


 ハゼちゃんズを仲間に迎えた今であれば、もしもの時の防御面を固めた方が良さそうだ。今回の探索でオルカもハゼちゃん(敵)を倒していたから、新たに耐性の霊刻印を手に入れた筈だ。一先ず、これで敵から受ける感染対策はオーケーかな。後は研究所の大黒霊と実際に対峙してみて、その都度対策を更新! 黒ネズミの時と違って、次の戦いは出直す事ができるんだ。確実な勝利を目指していこう。


「……よし! サンドラ、今日は激励会って事でひとつ、とっておきのご馳走を作ってくれないか? 俺もより頑張ろうって思えるからさ」

「私の料理はいつもご馳走だよ! って冗談はさて置き、それは構わないけどさ。激励会ってベクト、何かするのかい?」

「ああ、次の探索で大黒霊に挑戦して来るからさ。お祝い事を先に済ませておこうと思って」

「「「大黒霊?」」」


 サンドラ、アリーシャ、イレーネの三人が声を揃え、同時に首を傾げる。思わずズッコケそうになってしまったが、そうか、そうだよな。俺だってつい先日に知った情報だし、サンドラ達が知らないのも当然だ。


「えっとだな…… こう、すっごい敵を討伐しようかと……」

「よく分かりませんが、何か偉業を成そうとしているのですね。そういう事でしたら、私もお手伝いさせて頂きます。こう見えても、お料理は結構できるんですよ」

「アリーシャもアリーシャも! えっとね、ちゃんとお姉ちゃん達をお手伝いできるよー!」

「うん、まあ…… そういう流れってんなら、私も本気の本気を出さないとだね! よっし、期待以上の料理を作ってやるからね、ベクト!」


 そう言って三人は、早速酒場の調理場へと向かって行ってしまった。 ……俺も手伝った方が良いかな?


「それにしても相棒よ、なぜ先に祝い事を済ませるのじゃ? 普通そういった宴は、終わってからするものではないか?」

「うん? ああ、できるだけ死亡フラグは折っておこうと思って。後におめでたい事が控えているとさ、色々と危ないだろ? 結婚とか良い店で一杯やるとか、そういうの」

「いや、よく分からんのじゃが……」


 ダリウスはよく分かっていないようだが、一方でゼラが何度も頷いている姿を俺は見逃さなかった。それはそれでゼラ、なぜに知っているし?

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