第74話 血塗監獄の悲劇
新たなる仲間にハゼちゃん×3を加えた俺達は、その後もこの研究所(牢獄?)の探索を進める事にした。しかし、この吹き抜けの牢獄だけでも一つの階層に十の牢屋、つまり三層全てを合わせれば三十の牢屋があり、またその全てに扉がある。赤ゾンビの大群やハゼちゃん達はこの扉を破壊し、ここへと流れ込んで来た訳だが、さて。
「初っ端から三十も行き先があるって、探索するのに凄まじく手間だよなぁ。あ、後ろの方で全部繋がっていたりする、案外?」
「そうなのか、ハゼちゃん?」
「「「ウー?」」」
言っている意味を理解してくれていないのか、ポリポリと頭をかき始めるハゼちゃんズ。そうだった、パワーや耐久面はマジでゴリラなハゼちゃん達だけど、頭の具合はあまりよろしくなかったんだった。さっき確認したような軽い動作なら理解可能、けれど、少しでも頭を使わせるような指示はしない方が良いかもしれない。
「ホワイト、お宝がありそうな場所を臭いで分かったりしないか?」
困った時は信頼する者に頼るに限る。という訳で、ホワイトの嗅覚に期待。ホワイトは地面に鼻を近づけ、そのままこの辺をグルグルし始めた。それから少しして。
「……ゴォルル」
ピクリと耳を動かし、勢いよく顔を上げるホワイト。何かヒントとなる臭いを発見したのか、とある牢屋の奥をジッと見詰めている。
「そっちか? オルカ、どうする?」
「ホワイトがそこだと言うのなら、私から異存はないよ。よし、まずはその扉の奥を探索してみよう――― と、その前に一度女神像に戻らないか? 私達との戦いでハゼちゃんが負傷しているし、見た目はそうでもないが、少なからずホワイトもダメージを負っている。私も魔法の補充をしておきたい」
「それもそうだな、一旦戻るとしようか。このエリア、ゾンビが一杯居るって分かったし、俺もドワーフ殺しを満載にして来るよ。オルカも一緒にドワーフ殺し、どうだ?」
「わ、私は遠慮しておこうかな、うむ……」
断られてしまった。便利で頼れるのになぁ、ドワーフ殺し。
◇ ◇ ◇
今回、俺自身が倒した黒霊はいなかった為、ダリウスが成長する事はなかった。なので、大人しくドワーフ殺しをダリウスの収納に詰め込んで、再度黒の空間へとジャンプ。ゼラが「またお酒をそんなに詰め込んで、こっそり飲む気ですね!」みたいな空気を出していたが、ゼラの視線を受け続け、百戦錬磨となった俺は微塵も動揺せず。いやはや、俺も成長したものである。
あと、黒の空間の移動先を選択する事に気付いたんだが、大聖堂地下にあった女神像の場所の名前が変わっていた。以前は『クラウン大聖堂・地下』だったのが、『
―――研究所じゃなくて、監獄なのかよ!?
「はぁ、多少スッキリした」
「ん? どうしたんだ、ベクト? 何か問題でもあったのか?」
「いや、大した事じゃないんだ。気にしないでくれ」
新エリア『
だが、必要以上に案ずる事はない。忘れがちだけど、ハゼちゃん達だってレベル2の『嗅覚』持ち、行先を見定めるホワイトをフォローする形で、細かな罠を見破る活躍振りを見せてくれた。さすハゼ!
「にしても、今のところエリアの構成は殆どが牢屋、もしくは血がべったりな部屋か。黒ずんだ赤色の景色ばかりで、見ているだけで気が滅入るよ。まあ黒の空間で滅入らない景色なんて、今までもなかったかもだけど」
「確かに、日誌にあった研究施設らしき場所はまだ見当たらないな。最初に起こった大規模な黒霊の襲来以来、敵の大量発生がないのも気になる」
「あー、それも確かになぁ。敵が出て来たとしても、多くて二体三体のグループだし、出現頻度も疎らだ。最初の襲来で、
「だと良いんだが…… ん?」
オルカが何かに気付いたような声を上げ、同時に先頭を歩くホワイトの足も止まった。何だ何だと、俺もホワイトの横から顔を出し、前方方向を確認。今や見慣れてしまった牢屋が、三部屋ほど並んでいる。
「おっ、宝箱! 最近運が良いな、俺達!」
そしてそれら牢屋のうち真ん中の一室には、木箱なれど、それなりに雰囲気のある宝箱が置いてあるではないか。更にはご丁寧な事に、その牢屋だけ鉄格子が破壊されている。荒んだ俺の心に、気持ちの良い春風が舞い込んだ気分だ。 ……が、何やらホワイトの様子がおかしい。
「ゴォルルルルゥ……!」
「ホワイト、そんなに唸ってどうした? あの宝箱の周りに罠でもあったのか?」
「いや、宝箱の周りにというよりも、宝箱自体が罠なんだろう。宝箱型の黒霊だ」
宝箱の形をした黒霊――― 所謂、ミミックという奴だろうか? ああ、遂に宝箱までトラップになってしまうのかと、俺の心は荒んだものに戻ってしまった。
「言われてみれば、閉じた箱の隙間から舌みたいなのが、微妙に出てるな…… もしかして、結構ドジっ子?」
「単にその種として低級で、擬態が不得手なんだろう。上位の者達はもっと上手く化けるからな。だが、奴が所持している霊刻印はそれなりに使えた筈だ。『収納』といって、魔具に入れられるアイテム数を増やす事ができるぞ。通常の宝箱と同様に、何かしらのアイテムを所持している場合もある」
「お、ワンチャン宝が入っている可能性があるのか! それに、その霊刻印は便利だな。つまりさ、もっとドワーフ殺しを持って来る事ができると!」
「……そうだが、ベクト、何だかその酒に毒されていないか?」
「大丈夫、毒されているのはうちの案内人で、俺は正常そのものだよ」
「そ、そうだろうか……?」
オルカが何とも言えない表情を浮かべている。はて、どうしたんだろうか? 探索者にとって、ドワーフ殺しは必需品と言っても過言ではないのに。
「まあ、確かに異様なほどに便利じゃからのう、あの酒…… それはさて置き相棒よ、その霊刻印が欲しいのであれば、ワシでしっかり倒すのじゃぞ?」
「分かってるって。オルカ、ここは俺に任せてくれ」
「ああ、任せた。箱の外側は見掛けによらず、かなり頑丈だから気を付けてくれ。弱点は箱の中身、言ってしまえば口の中だ。ただ、普通の宝箱の要領で開けようとはするなよ? そうしようとした途端に、大口で喰らおうとして来るからな。まずは箱の外側に、何でも良いから衝撃を与えてやれ。驚いて口を開くぞ」
なるほど、もう倒し方が確立されているのか。このミミックな罠、他のところでも結構頻繁に出て来ているのかね?
「んー、何かしらの衝撃か。いつもならその辺に落ちてる石を投げるんだけど、ちょうど良い感じのがないな。ドワーフ殺しを投げるのは、ちょっともったいない気がするし……」
「驚くほどのドワーフ殺し中毒じゃのう…… その盾投げれば良くね? 投げたら戻って来るんじゃろ?」
「あ、そういやまだ黒霊相手に試してなかったか。よし、試運転がてらにこいつを投げてみようか」
思い描くは盾投げの名手、アリーシャ先生の完璧なフォーム。 ……よし、いける! そう確信した俺は『円盤の盾』を構え、渾身の投擲を放つのであった。しかし、ここで予想外の出来事が起こる。
―――バキバキバキバキ!
投擲した盾の威力が半端でなかったようで、外側に衝撃を与えるどころか、宝箱の中身ごと全てを粉砕してしまったのである。えええっ……
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