第62話 下準備

◎本日の成果◎


討伐黒霊

亡国の白骨兵士×13体(剣術LV1、耐性・死LV1)

亡国の屍兵士×16体(感染LV1、剣術LV1)

失楽の屍教団員×7体(感染LV1、魔法・炎弾LV1)

彷徨う亡霊×4体(霊体LV1、憑依LV1)


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魔剣ダリウス

耐久値:40/40(+2)

威力 :30(+2)

頑強 :39(+4)[+14]

魔力 :18(+5)

魔防 :19(+4)

速度 :30(+1)[+3]

幸運 :22(+3)


霊刻印

◇剣術LV2

◇感染LV3

◇統率・屍LV2

◇格納・屍LV3


探索者装備

体  :紺青の皮鎧

足  :紺青の洋袴

靴  :紺青の履物

装飾 :縁故えんこの耳飾(右)

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 対巨狼戦に備える為、マイホームへと帰還した俺は早速能力の成長をゼラにお願いした。倒した黒霊の数は前回の倍近い筈だが、ステータスの伸びはいまいち比例していない。分かっていた事ではあるけど、霧裂魔都の黒霊ではいずれ頭打ちが来る感じだな。それでも全ステータスが30には届きそうだし、現段階でも余裕を持って戦闘ができているので、次のエリアでも十分に戦えそうだとは思う。まあ、油断した者から死ぬこの世界だ。可能な限り、死ぬまで石橋は叩く所存です。


「ゼラ、幽霊が持ってた『霊体』と『憑依』の霊刻印って、どんな能力?」

「前者は物理的な攻撃を無効化する代わりに、こちらも物理的な干渉ができなくなり、魔法に対する抵抗力がなくなります。レベル1ですと魔防が0になった上、倍以上のダメージを貰う事になってしまいます。当然ですが魔法を施さない限り、魔具による攻撃もできませんよ。霊体状態ですと足もなくなりますので、慣れるまで身動きするのにも苦労するでしょうね」


 なるほど、言ってしまえば俺自身が幽霊と同じ状態になるって事か。話を聞く限り、かなり上級者向けの能力っぽい。


「後者はその名の通り、対象に憑依し意のままに操る能力です。但し、強き力には代償がつきもの。憑依中は自身の肉体が完全に無防備な状態に、分かりやすく言えばただそこに突っ立っているだけの、人間サンドバックと化します。ベクトは黒霊達に食い千切られ、無残な死体と化すでしょう」

「何で喩えが辛辣なの!?」

「尤も、この弱点は霊体と併用する事で防ぐ事も可能です。霊体状態であれば、そもそも無防備になる肉体がありませんので」

「な、なるほど…… で、何で急に辛辣になったの?」

「……(ごっきゅごっきゅ)」


 この案内人、酒瓶のラッパ飲みで誤魔化しやがった。既に出来上がってやがる。


「ったく…… あ、そうだ。ゼラ、これも見てほしいんだけど」

「ンググ? ―――ぷはぁ! 失礼しました。なるほど、装飾装備ですか。少々お待ちを」


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司教の首飾(装飾装備)

幸運 :+3

効果 :不吉な出来事から身を護る。『呪い』と『憑依』に耐性。

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 ほう、不吉な出来事から身を護るとな? うーん、司教さんは不幸な出来事からは身を護る事ができなかったようだが、果たしてどれほどの効果があるんだろうか。


「あら? それは司教様の首飾ではありませんか?」


 首飾の効果を吟味していると、不意にイレーネに話し掛けられた。えっと、首飾について話すにしても、司教の死については触れない方が良いよな? 顔見知りだったみたいだし。


「ああ、あの偽物の大聖堂で拾ったんだ。イレーネが描いてくれた絵と同じ見た目のものだったから、もしやと思って持ち帰って来たんだけど、やっぱり司教の首飾で間違いなかったよ。ただ、そこに司教は居なかったし、あの扉の鍵もまだ見つかってなくてさ」

「そ、そうでしたか……」


 シュン、という文字がイレーネの顔に描かれる。


「そんな顔するなって。鍵がどこにあるのか当てはあるんだ。その為の下準備をしなくちゃだから、イレーネも手伝ってくれないか?」

「は、はい! 私にできる事でしたら、喜んで! それで、何をすれば良いんです? 魔法の伝授、それとも薬の調合でしょうか?」

「いや、ちょっとものを運ぶのを手伝ってもらうだけだよ。ドワーフ殺し、次の探索でいっぱい必要になるからさ。ゼラ、今ドワーフ殺しを持ってるか?」

「もちろん」


 当然のように懐からドワーフ殺しの酒瓶を出すゼラ。もちろんと言ってから、ノータイムで出す辺りが流石である。なぜに懐にあったとか、その辺はあまり深く考えないようにする。取り敢えずはそれを借りて、見本としてイレーネに見せてやった。


「それがドワーフ殺し、ですか? え、お酒? かなり大きな瓶でしたのに、どうやってゼラさんの懐から……?」


 深く考えては駄目だ、イレーネ。頭がおかしくなってしまう。


「ベクト、まさか私に内緒で酒盛りをする気ですか? 狡いです。向こうではなく、こちらでやってください。オルカとは通信機で会話ができるじゃないですか。私はリモートでの参加もできないんですよ?」

「リ、リモート? よく分からんけど、飲み会なんてしないって。黒の空間で飲酒とか、普通に死ぬわ」


 俺が狙うは危ない橋を渡らず、一番確実に奴を倒す事である。その為にはドワーフ殺し、君の力が必要なんだ! 頼むぞ、我らが最終兵器……!


「ダリウス、ベクトが酒瓶に熱い視線を送っていますが、探索中に頭でも打ったのでしょうか?」

「いや、そんな事はなかったぞい。仮にあったとしても、白の空間に帰還すれば全快しとるじゃろ。つまり、アレは相棒の素じゃ!」

「ああ、素でしたか……」

「ベ、ベクトさん、酒場に行って来ました。この瓶のお酒、ですか……!? これ、結構重くって、あっ」


 酒場からドワーフ殺しの酒瓶を抱えて来たイレーネ。しかし、体勢が不安定であったせいで、地面に躓いてしまう。彼女の手を放れた酒瓶が綺麗な放物線を描き、狙いすましたかのように俺の方へ。熱心に手元のドワーフ殺しにエールを送っていた俺は、そんな投擲物への反応が遅れてしまい―――



    ◇    ◇    ◇    



 ダリウスの収納にドワーフ殺しを詰め込み、何度か白と黒の空間を往復する。その都度、オルカに俺が持ち込んだドワーフ殺しを手渡し、お互いの魔具の収納をドワーフ殺しで一杯に。本数にして俺が五本、オルカが七本。これにて戦いの準備は整った。


「さあ、狼との戦いをやってやろうじゃないか!」

「……ベクト、私の気のせいかもしれないが、少しやつれていないか? 言葉は勇ましいんだが、あまり士気が高いようには思えないのだが」

「いや、まあ、うん。さっき白の空間で色々あって……」

「そ、そうか。色々あったのか……」


 最終兵器を頭から被ったり、暗黒臭によって五感が死んだり、アリーシャから距離を取られたり――― 中和して何とかなったけど、このショックは俺の心身に多大なるダメージを与えてくれた。フッ、流石は我らの最終兵器。本当に凄まじいまでの威力だったよ。少しでも不吉な事から逃れようと、直後に司教の首飾を装備したほどだった。


「けど、確かにいつまでも引きずる訳にはいかないよな。よっし! オルカ、俺達のドワーフ殺しの力、あいつに見せてやろうぜ!」

「すまない。未だに状況が飲み込めていないのだが」

「こちらこそ、マジですまんのう。相棒ってば、今すっごい変なテンションで」

「……よし、日を改めよう」

「ええっ!?」


 こうして俺達は、日を改めて巨狼に挑む事になるのであった。

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