第41話 新たなる姿

 誰かの声が聞こえた気がした。この声は誰のものだったろうか。祈れ、祈ってくれと、自らが祈るように、そんな言葉を投げ掛けてくれている。俺はこんな何も見えないところで、一体何をしていたんだったか…… ああ、そうだ。俺はオーリー男爵と共に下水道を脱出して、外にあった女神像の前にまで辿り着いたんだ。その頃には五感がおかしくなっていて、耳鳴りはするわ視界はぼやけるわで、もう色々と最悪な状態だった。それで、それで――― 俺はどうなったんだっけ?


「今回もお疲れ様でした。随分と眠られていたようですね」

「………」


 目が覚めて、直後に俺の顔を覗くゼラと視線がぶつかる。あ、いや、ゼラの顔は白フードで隠れてしまっているから、俺からしたら全く目とかは見えないんだけど、何となくぶつかった気がした。


「って、ここは…… 白の空間、か?」

「はい、その通りです。私がここにいる事が、何よりの証拠ですね」

「……俺からしたら、ゼラの片手にある酒瓶が何よりの証拠かな。それで偽物じゃないって、今確信した」

「あら、私とした事が」


 ゼラが酒瓶を持ち上げる。チャプンと、酒が揺れる心地の良い音が耳に入った。視界、聴覚と共に良好、花の甘い香りも感じる。なくなった筈の左腕も――― にぎにぎ。しっかりある事を確認。


「そうか。俺、帰って来れたんだな…… オーリー男爵、ありがとうございました。また会えるかは分かりませんが、その時は改めてお礼を―――」

「―――ところでベクト、お願いしていた肴なるものは?」

「……うん、ごめん。もう少し余韻に浸らせてくんない?」

「だって私、折角重い腰を上げて、酒場からここまで歩いて来た訳ですし。それだけが私の楽しみな訳ですし」

「フッ、改めて駄目駄目だなぁゼラは」


 君はアレかな? 当初持ってた神秘的な雰囲気を、酒の深淵にまとめて全部沈めて来たのかな?


「あっ、お兄ちゃんだ! お帰りなさい! 植物の種、あった!?」

「相変わらず元気そうだね。で、ベクト、新しい食材は?」


 そうこうしているうちに、大猫の飲屋からアリーシャとサンドラが姿を現した。探索中にあった俺の苦労を知らないからだろうけど、うちの女性陣は何とも現金なものである。ならば、この言葉で対抗させて頂こう。


「本日のアイテム収穫…… なしっ!」

「「「ッ!?」」」


 一様にショックな顔を返されてしまった。俺もショックです。


「そ、そっかぁ。残念……」


 シュンとするアリーシャの追撃。おかしいな、何も悪い事はしていない筈なのに、俺の中で罪悪感が凄い事になっているぞ?


「コソコソ(ベクト、アリーシャを泣かせたら駄目じゃないか。私やゼラのお願いは後回しでも良いけど、アリーシャのお願いは最優先しなくちゃ)」

「コソコソ(ああ、俺も今絶賛後悔中だ。心が痛い)」

「いいえ、お酒と肴が最優先ですよ?」

「「………」」


 俺とサンドラのコソコソ話に、自然なノリで交じり始めるゼラ。何が何でも自分の道を通すのは分かったから、せめてコソコソと交ざってくれと。


「あー…… というよりも、今回はそれどころじゃなかったんだ。黒の空間あっちで罠に引っ掛かるわ、大黒霊と戦うわで、本当に大変だったんだよ」

「うん? お兄ちゃん、大黒霊って?」

「ん? ああ、実はな―――」


 アリーシャがよく分かっていない様子だったので、今回の探索の内容とオーリー男爵の活躍を含め、大黒霊が如何なる者なのかを説明していく。説明の引用はもちろん、オルカ&オーリー男爵だ。


「―――という訳で、オルカは不在だったが、たまたま出会ったオーリー男爵と協力して、何とか生還する事ができたんだ。男爵には感謝してもし切れないよ」

「へえ、すっごい冒険をして来たんだね! 男爵さんすっごいけど、お兄ちゃんもすっごい!」

「そ、そうか? へへっ」


 そんなに手放しに褒められると、いくら俺でも照れてしまう。


「なるほどね~。というか、またそんなトラブルに巻き込まれたんだね、ベクトは。いや、自分から巻き込まれに行ったのかな?」

『うむ。それについては諸説あるからのう』


 そこの君達は、もっと俺の事を褒めてくれても良いと思うんですが? あと、諸説とかないから。偶然な出来事がたまたま重なっただけだから。


「なるほど、大黒霊を倒されたのですか…… ベクト、黒檻の案内人として、貴方の偉業に祝意を表します」

「お、おう!? ありが、とう……?」


 いつの間にか酒瓶を地面置いていたゼラが、唐突に初期の頃の雰囲気に戻って、如何にもな台詞を言い出した。本当に唐突だったので、俺は完全に虚を衝かれてしまったよ。


「大黒霊の討伐に伴い、此度の魔具成長は劇的なものとなる事でしょう」

「劇的、というと?」

「直接目にした方が早いかと。早速なさいますか?」

「おー、何だか期待しちゃうなぁ。じゃ、お願いするよ」

『遂にワシも成長期か。ここまで長かったわい。さあて、少し背伸びでもしようかの?』


 へいへい、そうですね。


「承知致しました。■■■■―――」


 ゼラがダリウスに触れた瞬間、ダリウスから眩いばかりの光が溢れ出した。ただ、眩しくはない。強い光は感じるのに、その中を凝視できるというか…… ううむ、上手く言語化できない。取り敢えず、光の中でダリウスナイフのフォルムが変わっていくのを、俺はこの目で見る事ができた。


 俺からはダリウスナイフ、男爵からは小剣と呼ばれていたダリウスであったが、今のあいつの姿は全くの別物だった。短かった刃が嘘みたいに伸び、まるで騎士が帯剣するかのような――― そう、ダリウスは長剣といっても差し支えのない、立派な剣となっていたのだ。光が収まり、成長を終えたダリウスがその姿をお披露目する。


「うむ、うむ、馴染むぞ……! フッ。どうじゃ、ワシの新たなる姿は?」


 つか、何か普通に喋り出してるんですけど?


「しゃ、喋った!?」

「ベクト、アンタの剣喋ったよ!? 魔剣になったの!?」

「うん、喋っちゃったなぁ」

「相棒、反応薄くね? もっとこう、腹の底から驚いてくれても良いんじゃよ?」


 ああ、そうか。そういや大黒霊を倒して魔具が成長すれば、いつか普通に話せるようになるって、いつか聞いたっけ。まあ、これでダリウスも皆と意思疎通ができるようになったと考えれば、良い事ではあるのかな? もちろん、余計な事を言いそうな心配もあるけどさ。取り敢えず、改めて挨拶だけはしておこうか。


「改めてよろしくな、ダリウスソード!」

「微妙にダサくなってない!?」



◎本日の成果◎


討伐黒霊

せる屍×4体

せる屍(鍬)×2体

屍荒し×1体


討伐大黒霊

死病振り撒く鼠災LV1(感染LV3、格納・屍LV3、増殖LV3)


大黒霊を討伐した事により、所持霊刻印が成長

剣術LV1⇒剣術LV2

耐性・感染LV2⇒耐性・感染LV3

統率・屍LV1⇒統率・屍LV2


大黒霊を討伐した事により、霊刻印の所持上限が成長

霊刻印数3⇒霊刻印数4


大黒霊を討伐した事により、魔具のアイテム収納上限が成長

アイテム枠3⇒アイテム枠5


大黒霊を討伐した事により、魔具の通常会話機能が解禁


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魔剣ダリウス

耐久値:36/36(+5)

威力 :25(+4)

頑強 :31(+2)[+14]

魔力 :8(+2)

魔防 :11(+2)

速度 :25(+6)[+3]

幸運 :18(+3)


霊刻印

◇剣術LV2

◇耐性・感染LV3

◇統率・屍LV2

◇無


探索者装備

体  :紺青の皮鎧

足  :紺青の洋袴

靴  :紺青の履物

装飾 :縁故えんこの耳飾(右)

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