第16話 イエイ

 ゼラが白の床に置いた装備一式に手を差し伸べると、それぞれの装備の真上にある情報が浮かび上がった。


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紺青の皮鎧(体装備)

頑強 :+8


紺青の洋袴(足装備)

頑強 :+5


紺青の履物(靴装備)

頑強 :+1

速度 :+3

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 何やらダリウスの能力よろしく、名前や数値がずらずらッと並んでいる。


「こちらの装備には呪いの類はなく、特に能力による制限も設けられていないようです。今のベクトにはちょうど良い防具だと思いますよ」

「わあ、やったね! イエーイ!」

「お、おお、やったっぽいな。イエーイ!」


 すかさず、満面の笑みを浮かべるアリーシャとハイタッチを交わす。勢いでしてしまったが、俺はまだこの表記について理解し切っていない。そしてアリーシャも、正直よく分かってないんじゃないかな? まあ、勢いは時に大切だよね。イエイイエイ。


「ゼラ、呪いがないって事については何となく分かったし、嬉しいんだけどさ…… 能力による制限ってのは?」

「黒檻には様々な防具が存在します。そういったものは強力になればなるほど、身につける為に一定以上の魔具の能力値を要求されるものなのです。重厚な鎧を着る為には『威力』が、魔法的な力を付与されたものであれば『魔力』が必要になるといった風に、何らかの条件が課せられるのだとお思いください」

「なるほど。って事は、今回のこの紺色一式は初心者な俺に打って付けって訳だ? 下手に強い防具があったとしても、ダリウスの『威力』が30以上! とかだったら、装備できないもんな」

「そういう事です。早速着用してみては如何でしょうか?」

「よし、そうしようか! ……着替えるけど、一応覗かないでくれよ?」

「う、うん、そうだったね。私、後ろ向いてるから! 覗かないから!」

「これは失礼致しました。ごゆっくりどうぞ」


 ゼラとアリーシャには逆の方を向いてもらう。一応、俺も気持~ち距離も置いておく。いや、だって恥ずかしいじゃん。男の子にだって羞恥心はあるのです。あっ、このボロ布脱ぎにくっ……!


『ほほう、これはなかなか』


 脱ぐのを苦労するのなら、着るのもまた苦労する。それでも俺は頑張り、数分の時をかけて新装備一式を身につける事に成功。仕方がない事とはいえ、最初はダリウスに見られてしまう。しかし、サイズはピッタリだ。こんな偶然ってある?


『ああ、黒檻の防具は少し特殊での。着用条件さえ満たしておれば、身につけた者の体格に合わせて大きさを変えてくれるのよ。それはもう、オーダーメイド並みの着心地じゃて! ワシは着た事ないけど!』


 ……それ、少しじゃなくて凄く凄い機能なんじゃないの? 確かに最高の着心地で、便利なのは良いけどさ。


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魔剣ダリウス

耐久値:17/17(+1)

威力 :4

頑強 :17(+1)[+14]

魔力 :2

魔防 :2

速度 :6[+3]

幸運 :3


霊刻印

◇剣術LV1

◇耐性・感染LV1

◇統率・屍LV1


探索者装備

体  :紺青の皮鎧

足  :紺青の洋袴

靴  :紺青の履物

装飾 :縁故えんこの耳飾(右)

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 そして、こちらが今回の探索での成長分を加算し、装備を一新した状態の能力値である。守りが比べようもなく堅くなり、速度が倍に跳ね上がっているのが一目瞭然だ。俺が着込むとダリウスが強化されるってのも変な感じだが、まあこの際細かい事までは突っ込まない。うん、装備って大切。


「お兄ちゃん、格好良い!」

「ええ、とてもお似合いですよ」

『正に馬子にも衣装じゃ』


 ありがとう! ダリウス以外の二人とも、ありがとう!


「照れるけど、褒められると素直に嬉しいもんだよなぁ。あ、ちなみになんだけど、最初に俺が纏ってたあのボロ布、あれにも耐久性の向上だとか、何かしらの恩恵はあったのか?」

「いえ、何もありませんよ。ベクトの裸を隠せる程度の性能です」

「あ、そう……」


 そりゃ裸よりはマシだけど、本当にそれだけの初期装備だったのか。もう着る事はないだろうな……


「それとですね、こちらに戻った際に既にベクトの耳にあった装飾についても、お調べする事ができるのですが、如何致します?」

「ああ、そういやさっきの装備一覧にも、何気に並んでたっけ。あっちで知り合った他の探索者からの借り物なんだけど、いまいち効力が分からないんだ。お願いできるかな?」

「承知致しました。では―――」


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縁故えんこの耳飾(右)(装飾装備)

効果 :対となる縁故えんこの耳飾(左)を身につける者との通話が可能となる。

    また、白の空間から黒の空間に移動する際、移動時間を合わせる事ができる。

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 へえ、これが効果ですか。ん、通話とな?


「あ、あー、ベクト、聞こえるだろうか? 私だ、オルカだ」

「うぉえあっ!? オ、オルカっ!?」


 俺の右耳から聞こえてきた突然の声に、思わず飛び上がってしまう俺。恥ずかしながら、物理的にマジで飛び上がってしまった。


「お兄ちゃん? 急にどうしたの?」

「えっ? アリーシャにはこの声が聞こえないのか? 結構な音量なのに、ゼラも?」

「ううん? 声?」

「はい、私には全く」

『ワシも直接は聞こえんが、相棒を通して理解はしたわい。先ほどの娘っ子じゃな?』


 なるほど。つまるところ、この耳飾りは通信機の端末なのか。そして通信機から流れてくる音や声は、実際に装備している俺にか聞こえないと。


「想像以上に高性能な耳飾りだぞ、これ…… 音が漏れないから、敵の黒霊に聞かれる心配もないのか。ええと、通信機の向こうにいるオルカには、どうやって返答すれば良いんだ?」

「フフッ、一度手で触れさえすれば、それ以降の言葉は筒抜けだぞ? 尤も、相手側である私が同じように連絡をすれば、自動的にベクトの耳飾りも作動するのだがな」


 って事は、最初の俺の驚き声から全部素通りですかい……!


「通話を切る時も同様に耳飾りに触れてくれ。 ……おい、ベクト? 急に静かになってどうした? 聞こえているのか?」

「あ、ああ、ちゃんと聞こえてる。大丈夫、こういったショックにも、最近は耐性ができてきたんだ」

「耐性? よく分からんが、それは良かった。今後もその調子で励むのだぞ」


 はい、次回は情けない声を出さないように、あと飛び上がらないように頑張ります……


「連絡が遅れてしまって、すまなかった。少々準備に手間取ってしまってな」

「準備?」

「ああ、次の探索の準備だ。さあ、再び黒の空間へ向かうぞ!」

「えっ、もう行くの!? あの、さっきの今で、ろくに休憩もしていないんだけど……」

「鉄は熱いうちに鍛えるものだ」

「へ?」

「思い立ったが吉日、私はこの言葉がとても好きだ」

「………」

「他にも、好機逸すべからず、旨い物は宵に食えという為になる言葉があってだな―――」


 なるほど。恐らくこの問答、俺が首を縦に振るまで続くぞ。オルカは次の探索に行きたくて行きたくて、仕方がない状態のようだ。


「分かったよ。でも、一つだけ気を付けてほしい。さっきの武具店で見つけた装備に着替えて行くから、合流する時は違う格好になってる。また出合い頭に俺を襲わないでくれよ?」

「ベクトも冗談を言うのだな。まるで私がドジな天然みたいじゃないか。当然、そんな過ちはもうしないさ。しかし、フッ…… なかなかに面白い冗談だったぞ」


 お、おう……?

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