第15話 耳飾り
若干考えなしな返答になってしまったけど、この選択はあながち間違いではなかったと思う。まず第一に、この世界の死亡率は尋常でないほどに高い。オルカの話を聞く限り、この世界はスタート地点から離れれば離れるほどに、理不尽な罠や黒霊が出現する傾向にある。どんなに警戒して進もうとも、運が悪ければ次の瞬間には死んでしまう、そんな不条理な世界なんだ。ならば、俺は僅かにでも生存率を高めておきたい。オルカの事を完全に信用した訳じゃないが、一方で今のところは問題のある素振りもない。やろうと思えば、出会った時点で俺を殺せていた事だしな。そんな彼女が味方でいてくれるのなら、これ以上心強い存在はないだろう。
そして、二つ目の理由も重要だ。俺と同じく自身の記憶を失い、こんな世界に放り込まれた探索者という点、これが大きい。拠点にいるアリーシャやゼラ、相棒のダリウスは俺にとっての光であり、なくてはならない大切な仲間達だ。ただ、俺と同じ境遇にいるオルカの存在は、また違ったものになってくる。目標とするものが同じで、探索の際に隣に立ってくれる。そんな存在がいるといないでは、精神的負担が大分違ってくると思うんだ。この狂った世界で生き抜いていく為には、平常心と冷静な判断が必要不可欠。その為にも俺は、オルカの提案を喜んで受けたのだ。
『色々理由を並べておるようじゃが、要はアレじゃろ? 美人とチームを組めてひゃっほい! って事なんじゃろ? んん? 正直に言ってみい?』
そう思わない事も、ない事はないッ! 否定はしないッ!
「ベクト、私から言うのもなんだが、本当にこんな礼で良かったのか? その、色々と不便をかけるかもだぞ?」
「何が不便になるっていうんだ。オルカとチームを組めるのなら、これ以上心強いものはないよ」
「……そうか、私を受け入れてくれるか。ならば、改めてよろしく頼むよ、ベクト」
「こちらこそ」
差し出されたオルカの手を握り、握手を交わす。こうして俺達は探索者のチームを組む事になった。
「あれ、でもちょっと待てよ?」
「どうした? やっぱり止めるか? うん、それが正しい判断かもしれない」
「いやいや、そういう意味じゃなくてだな!」
のだが、オルカは自己評価が低いんじゃなかろうか? あんなに強くてこんなに美人だというのに。
「思ったんだけど、この黒の空間から白の空間に帰って、またここに戻って来るとしたら、数時間から数日間のランダムなタイムラグが発生するんだろ? それって、俺とオルカが再度合流する妨げにならないか? この安全なエリアで待つとしても、下手したら数日待つ事になるような……」
「フッ、やはりベクトは優秀だな。ああ、ベクトの言う通りだ。そしてだからこそ、普通であれば探索者同士が手を組む事は殆どない」
「だよな。でも、何か考えがあるって顔をしてるぞ?」
「ああ、これを使う」
自らの長剣から、オルカが何かを取り出した。ペッと吐き出されるような感じで、冷静になって考えてみるとおかしな光景だよね、これ。ダリウスに霊薬を出してもらう時も、傍から見ればこんな風だったのか。
「それは…… 耳飾り、か?」
オルカの手に平には、銀色をした一対(?)のイヤーカフのようなものが置かれていた。右と左で多少デザインが異なってはいるが、シンプルであまり目立たないタイプのように見える。
「これはひと昔前に、私が黒の空間の宝箱から発見したものでな。二人で片方ずつ耳につけて使用するんだ。ベクト、どちらの耳飾りでも良いから、試しに片耳につけてみてくれないか?」
「あ、ああ。なら、こっちの右側のやつを…… 悪い、これってどうやって取り付けるんだ?」
「どれ、貸してみろ。こうやって耳のくぼみに引っ掛けて―――」
圧倒的経験不足故に、耳飾りをオルカにつけてもらう俺。こそばゆくて恥ずかしい。
「よし、装着完了だ。おお、想像以上に似合っているじゃないか。うん、とても良い」
「そ、そうか?」
鏡がないからよく分からないんだが、本当に似合ってる、のか? 見られる事を気にしている訳じゃないけど、いや、帰ったらアリーシャ達にも見られるからやっぱ気になる……!
『……プフッ』
おい相棒、今笑ったな? 絶対笑ったな? お前の刀身を鏡代わりにするぞこら。
「では、私ももう片方をつけて、と…… よし、これで準備完了だ」
悪戦苦闘した末に手伝ってもらった俺とは違い、オルカは手慣れているのか、一瞬で耳飾りをつけてしまった。何か悔しい。
「さあ、白の空間に戻るとしようか」
「えっ、もう戻るの!? えと、この耳飾りの効力について、俺何にも理解してないんだけど?」
「装備さえしていれば問題ないから、そこは安心して女神像に祈ってくれ。それに、実際に
「そうなのか? ま、まあオルカがそう言うのなら……」
オルカがあまりに自信満々なので、俺は彼女の言う通り、いつもの形だけの祈りを女神像へと捧げるのであった。
◇ ◇ ◇
「―――お兄ちゃん、おかえりなさい!」
視界が開けると、笑顔のアリーシャの顔がいの一番に目に映った。花畑拡大の為に土いじりをしていたせいなのか、両手や頬がうっすらと茶色く染まっている。
「ただいま。良い子にしていたか――― って言うのは変か。アリーシャはいっつも良い子だもんな」
「うん、頑張ってお花植えて、ゼラお姉ちゃんともいっぱい遊んでもらった~」
「お、ゼラと遊んでもらったのか。そいつはご機嫌な一日だったじゃないか。ゼラもありがとな」
「いえ、アリーシャの話し相手をしていただけですから。それよりもベクト、魔具を成長させますか?」
「あー、つっても今回はそんなに黒霊を倒してないんだよな…… ゼラ、先に黒の空間で発見した装備を見てくれないか? 装備するならゼラに見てもらってからの方が良いって、ダリウスがそう言っててさ。ダリウス、例のブツを出してくれ」
『任せておけ。ほいほいほいっと!』
収納していた紺色装備一式を吐き出すダリウス。それをキャッチする俺。一式といっても装備は別々の扱いになるようで、上半身装備と下半身装備、そしてブーツの順に出て来た。何気に収納限界数ギリギリである。
「何それ何それ? あ、ひょっとしてお土産?」
「ああ、偶然見つけた宝箱に入っていたんだ」
「へ~、変わった色をしてるんだね? でも、今お兄ちゃんが着ているのよりずっと強そう!」
「ハハッ、これ以下の装備はなかなかないんじゃないかな……?」
「あっ、お兄ちゃんの耳にあるその飾りは? とっても綺麗、それにお洒落!」
「お洒落、なのかな? 俺にはよく分からないけど」
物珍しいってのもあるんだろうが、アリーシャは俺の新たな装備に興味津々&大喜びだ。ああ、ゾンビの衣服が土産にならなくて、本当に良かった。
「なるほど、道理で新品同様な訳ですね。では、こちらの装備情報を確認致します。少々お待ちください」
「了解、期待して待ってるよ」
「私も期待するね」
『ワシもワシも』
めっちゃ期待されてるぞ、新装備。どうかこの集まった期待に応えてくれよ。
にしても、オルカが言っていたこっちで体験するって話、どういう事なんだろうか? 今のところ特に変化らしい変化はないが…… ま、何かが起こるのを待つしかないか。俺は今できる事をやっておこう。
「お待たせ致しました。それでは、映し出します」
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