第5話
「しかし十手とは便利なものだな」
「おとっつぁんの形見ですからね。錆びないように毎日磨くのは面倒くさいが、それだけの働きはしてくれますよ」
「ところで両頬が赤いようだが? 『瑠璃べえ』」
「こいつはどっちかって言うと『お瑠璃』への罰ですかね。着物外行き一枚駄目にしちまった」
潮に砂まみれの着物は流石にお手上げだった。代わりに祖母たちが一式選んでくれた着物はもちろん女物で、ちりめんだとか絹だとかこれもまたちょっとした外出には向かない、大店の娘さん用だった。まあ違うとは言えないが、と、代官所で牡丹餅を食いながら蓬髪の瑠璃べえは腫れて口内炎まで出来た二人の祖母からの愛の鞭を撫でさする。さて本当にいつまで女与力など務まるものか、心配にさせられてしまった。しかし与力を辞めれば屋敷も没収だろう。そうなると路頭に困るのは小間使いも含めてあの家にいる全員だ。
「ま、おれはおれの方でどうにかしますよ。取りあえず屋敷を貸してる両祖母からの貯金もたまってるし、火事でも来なきゃそう使うもんじゃ――」
かんかんかんかん、と半鐘が鳴る音がする。
自分の長屋の方ではないが、間の悪さはぴか一だった。
この大江戸では、金など何の役にも立たないのかもしれない。
信じられるのはこの十手だけだなと、瑠璃べえは胸を抑えた。
やはりふんにょりしていて、十手を隠すには便利だったが、複雑な気持ちにさせられた。
女与力・瑠璃べえ2 ぜろ @illness24
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