ある人形の一生

ぴぴぴ

起床

午前5時。学生にしては少し早すぎるようなこの時間にいつも通り、目が覚めた。

が、何かがおかしい。

体がなんだか動かしづらい。それに、きぃきぃ音が鳴る。関節鳴ってるだけなんだろうけど、あまりにもうるさい。寝ている所だって、普段はちゃんとベッドで寝ているというのに、今日は謎の箱の中で寝ていたようだ。やたらと関節の鳴る体を引きずるようにして謎の箱から脱出する。

棺桶? どうやら棺桶の中で眠っていたらしい。吸血鬼じゃあるまいし。と笑ったところで気がついた。周りの景色がぐにゃぐにゃしている。え? こんなのどうするのが正解なの? 


叫ぶ前に気を失った。

あれ、死ぬのかな。まだやってないこと、たくさんあるんだけどなぁ。


目が覚めた。人が多い。東京かと思ったけど違うみたい。色々な種族がいて、人間と吸血鬼が話していたり、龍と悪魔が話していたり。ここはどこなんだろう。

「すみません。」

「はい! なんでしょう? 」

「ここはどこですか。」

「……大丈夫ですか? 頭とか打ったり? 」

心配させてしまったようだ。

「ちょっと道に迷ってしまって。」

今度は困惑させてしまったようだ。

「一体どう迷ったらここに……あ、とりあえず役所にご案内しますよ」

親切な人だ。ありがたく甘えさせてもらおう。


「ここが役所です。きっとわからないことがあったら大抵はここで教えてもらえますよ」

「親切にありがとうございました。」

親切な人は、では、と言って役所から出ていこうとする。咄嗟に、彼女の手を掴んだ。またもや困惑させてしまった。

「もしよろしければ、お名前を教えてもらっても? 」


なるほど、と彼女は頷いた。私の名前は、といいかけ、

「うちの事務所、きます? 」

私の名前はそこで教えます。と妖しく微笑んだ。


道中、親切な人は常に話していた。私が喋るすき間を与えないくらい。

「お人形さんなんて初めて見かけたのでテンション上がっちゃいましたよ〜! どういう仕組みでお話できてるんですかね? 意志はちゃんとあるというか、今お話できてるので存在していると思うんですけど、中は実は人形じゃなくて機械だったりして!? って、それを確かめるには一回壊さなきゃいけないようなのでとてもできませんが! あ、そうそう! うちの事務所で働きません? かわいくて自分の意志をもって話すことができるお人形さんなんて売れると思います!!  」

聞き捨てならない言葉が聴こえた。というか大分スルーしてたのに決定打を打たれた。

「あの、」

「……あ! ごめんなさい、私ばっかり喋ってしまって! 」

「人形って、私が、ですか? それに、事務所って……? 」

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