六五 謎多き女神 白山権現~後編~

【権現となった女神】

 古くからあった白山信仰は神仏習合の時代、泰澄たいちょうによって修験道の霊場となったとされています。

 

 泰澄といえば、愛宕権現のお話にも登場しました。役小角と一緒に山を登っていたヤングですね。


 さて、泰澄はある日、夢に妙理菩薩みょうりぼさつが現れて、白山山頂で修行するように言われました。

 その言葉に従い山頂で瞑想していると、池から龍が現れました。


龍「私の本当の姿は十一面観音であり、イザナミ神の化身である」

 と言ったのです。


 こうして泰澄が白山山頂にて白山権現を祭る社をつくったのが、始まりという訳です。


 さて、観音や菩薩、龍とイザナミ神は出てきましたが、菊理姫神は現れていません。

 というのも、白山にて元々の信仰されていた白山姫大神と菊理姫神が同一視されるようになったのは、江戸時代からだとされています。


 その経緯は少し複雑で、白山頂上には白山権現を祭る社があり、麓には白山権現の本当の姿である十一面観音を祭る白山寺がありました。


 白山寺は南北朝時代に最盛期を迎えウハウハでしたが、室町時代に起きた加賀一向一揆(武力行使)に巻き込まれて、寺は全焼して残念な結果になります ( ノД`)…


 一応、三ノ宮という所に移転するのですが、全盛期のような盛り上がりはありませんでした。

 

 その後、白山寺本宮は100年以上、廃寺だったのですが、転機が訪れたのは豊臣秀吉が天下をとった安土桃山時代です。

 有名な戦国武将である前田利家によって修繕がおこなわれたのです。


 やったね! 白山寺!


 さて、お寺を建て直したら、今度は教義を復活させなければいけません。そこで、吉田兼倶よしだかねもとという、戦国時代の神道家がまとめた資料、『大日本国一宮記だいにほんこくいちのみやき』を元に教義の建て直しをはかったところ……


『下社(本宮)にはイザナミが、上社(三ノ宮に移転したお寺)には菊理姫神が祭られているよ』という記述がありました。


 このように若干ややこしい事が書いてあり、私もまとめていて「どういうこっちゃねん!」とツッコミをいれましたw


 このように記述がややこしく、当時の人は移転した三ノ宮に菊理姫神が祭られているのではなく、白山山頂に菊理姫神が祭られているんだ! と勘違いして、白山姫神や白山権現は菊理姫神という説が流れるようになったのです。



三馬場さんばばと現在の白山権現】

 馬場ばばと言っても名字や、競馬場の事ではありません。修験道などで、山にこもって修行する時に通る山道を禅定道ぜんじょうどうと言います。

 修験道では、禅定道の起点とばる場所を馬場と言います。


 白山は石川、福井、岐阜の3県にまたがるように位置しています。

なので石川県の白山寺本宮、福井の平泉寺へいせんじ、岐阜の長竜寺ちょうりゅうじがそれぞれ、白山へ登る起点(馬場)となっており、『三馬場さんばば』と呼ばれていました。

  さて、この三馬場が、仲良く手を取って信仰を広めていった……という訳ではなく、それぞれが独立して信者と社寺を増やしていました。

 同じ神様を信仰しながらも、ライバル同士で競っていた訳ですね。

 このように白山信仰を全国に広めていったのです。


 その中でも、泰澄にゆかりがある白山寺が一番大きくなるのですが、もはや“お約束”になってきた、明治時代の神仏分離令がやってきます。


明治政府「修験道は呪術っぽいから禁止ね。社殿を残したかったら(以下略……)」

 このように、修験道の神様である白山権現は廃止されました。


 白山寺は白山権現から元々祭っていた、白山姫神と伊邪那岐神と伊邪那美神を祭る白山姫神社となりました。

 そして三馬場である平泉寺は存続が難しくなり、平泉寺白山神社になりました。

また、長滝寺は寺院として残りましたが、白山神社と寺に分けられてしまいます。 


 こうして白山権現は廃れていくのですが、石川県の那谷寺なたでら、京都府の醍醐寺だいごじなど、現在でも白山権現を祭るお寺はあります。

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