十 アマテラスの長男 天忍穂耳命

【天照大御神に可愛がられた長男坊】

 以前お話しましたがアマテラスとスサノオが誓約うけいで勝負した時、スサノオの剣から宗像三女神が生まれました。

 アマテラスの持ち物からも子供が生まれます。アマテラスが持っていた勾玉に、スサノオが息を吹き掛ける事で五人の男神が生まれました。


 その中で長男にあたるのが、今回お話する天忍穂耳命あめのおしほみみのみことです。


 さて、アメノオシホノミミは引っ込み思案なのか、他の神様達と比べると基本的に一歩引いているので、日本神話において大きな事を成し遂げる事はありませんでした。

 しかし、アメノオシホノミミの息子である邇々芸命ににぎのみことが地上に降りてくる天孫降臨てんそんこうりんを行うなうので、決して無視できない神様でもあります。


 今回はアマテラスの長男である、アメノオシホノミミがどんな神様なのか見ていきましょう。


【地上が怖くて即帰宅!?】

 アマテラスとスサノオの誓約によって生まれて以降、アメノオシホノミミはしばらく登場しませんでした。

 さて、アメノオシホノミミが登場しない間、岩戸隠れがあったり、スサノオがヤマタノオロチを倒したり、オオクニヌシが現れたりと、日本神話では色々な事がありました。


 なんやかんやあって地上はオオクニヌシが統治する事になりました。

 しかしアマテラスは「地上を統治するのは、天の神様の方がいいのでは」と、考えるようになった時、今回の主人公であるアメノオシホノミミが登場するのです。


 アマテラスはオオクニヌシに地上を明け渡すよう交渉させる為に、アメノオシホノミミを派遣しました。


 素直に従い早速地上へ向かったアメノオシホノミミでしたが、根が引っ込み思案なのかそれとも慎重なのかわかりませんが、地上に降りる前に天から様子を伺うと……

「天の神が地上を支配するなんて、そんなの横暴だー!」

「国の明け渡し反対!」

「地上はオオクニヌシ様のものだー!」

 こんな感じで地上の神々はデモ活動を起こしていたのです。それを見たアメノオシホノミミ命は……

「地上ヤベェ ((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル 」という風にビビってしまいアマテラスの所へ戻ります。


 アマテラスはその後、別の神様を何回か派遣しますが、オオクニヌシによって全員懐柔されてしまい事は上手く運びませんでした。

 最終的には武神である建御雷神たけみかずちのかみによって、国譲りは達成されます。

 

 そしてアマテラスは、新たな地上の王としてアメノオシホノミミを送ろうとするのですが、何故かアメノオシホノミミは渋ります。

 実はアマテラスの計画が難航している間にアメノオシホノミミは栲幡千々姫神たくはたちぢひめのかみという女神との間に、ニニギという名前の子供を造っていたのです。


「お母さん、地上に行くのは僕よりもニニギの方がいいですよ」

 アメノオシホノミミはアマテラスにいいました。

 こうしてニニギが地上へ降りる、天孫降臨へとつながるのです。



【やたらと長い名前とご利益】

 アメノオシホノミミというのは省略した名前であって、その本名は『正哉吾勝勝速日天忍穗耳命まさかあかつかちはやひあめのおしほみみのみこと』といいます。

 有名な落語の寿限無じゅげむほどではありませんが、かなり長い名前ですね。

 さて、この長い名前にはスサノオと誓約での勝負の際、アマテラスの心情が含まれています。


 正哉吾勝まさかあかつには『私が正しく勝った』。


 勝速日かちはやひには『勝つこと日が昇るが如く早い』という意味が含まれています。


 正哉吾勝勝速日天忍穗耳命という名前には、スサノオとの勝負に勝ったアマテラスの主張が含まれていたのですね。


 さて、アメノオシホノミミが祭られている神社は沢山ありますが、有名な所は福岡県の英彦山神宮ひこさんじんぐうで、標高1199メートルの英彦山全体が神社となっています。


 アメノオシホノミミを主祭神として、配神としてイザナギとイザナミが祭られています。

 人間社会風に例えると、おじいちゃん、おばあちゃんと同居しているようなものです。もしかしたら、介護を任されたのかもしれませんw


 さて英彦山神宮の歴史は古く、英彦山は古代ではすでに神体山として祭られていました。この信仰形式は宗像三女神の時にお話した、沖ノ島とよく似ています。

 その後、英彦山にアメノオシホノミミが現れたという伝説もあり、英彦山神宮ではアメノオシホノミミが祭られるようになったと言われています。

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