Fate・・・? さけられない瞬間
そこから先のことはあまり覚えていなかった。
ジョーンズの一言を聞いた瞬間、なにかに追い抜かれてそれにすべて任せてしまっていた。気が付くとぼくの目の前には尻餅をついて後ずさりするジョーンズがいた。
喉がカラカラに乾いて息苦しい。
目の周りがヒリヒリしてチクチクする。
大きく口を開いた瞬間、舌先に塩辛さを感じた。その時、ようやくショッピングモールの真ん中で声を荒げていることに気が付いた。その後にぼくの腰に回された腕の存在に意識が向いた、それはお母さんの温かくて優しい腕のはずなのに。その瞬間だけは誰のものでもない、いかつい男の腕に感じられて拒絶感が胸を占めた。
「やめて!?」
ぼくはお母さんの腕から逃げていた。
走り出したぼくを呼ぶ声が響いた。でもぼくは止まることはできなかった。ぼくの後方へ過ぎ去っていく景色が鮮やかな色彩を失って喧騒から遠ざかったころ、ぼくはそのまま逃げ込むように濃い影になっている隅に隠れた。
真っ暗な壁際に寄りかかって座っていると世界から切り離されたような気がして気持ちが楽になった。ジョーンズの目線もお母さんの回した腕を払った記憶も、そしてあの言葉もぜんぶ忘れてしまいたかった。
ぼくはつないだ両腕の間に顔を埋もれさせて世界からより一層離れたところへ逃げ込んだ。しばらくそうしていると走った疲れのせいか、浅い眠りに入ってしまっていた。
はじめてその姿を見たとき、大きなお母さんだと思った。
お母さんが女の人じゃないって知ったとき、可笑しいと思った。ぼくのお母さんはどんなきれいな女の人よりもお母さんだったから、それを変だっていう人が不思議だった。
ぼくが二人の間から生まれた子じゃないって、はじめから知っていた。
ぼくに本当の両親がいないことくらい、知っていた。
お父さんとお母さんの愛のカタチを、同性愛っていうことも知っていた。
でも、お母さんのことをあんな目で見る人をまじかで見たことがなかった。
ぼくのことを、お父さんを、お母さんを馬鹿にするような感情にぶつかったとき、胸に湧き上がる怒りや不安や気持ち悪さにぼくは、右も左も分からないまま走り出していた。
そのなかでお母さんの手を払っていたことに気が付いたときには、ぼくはもう一人だった。またあんな目を見るかもしれないと思うともう誰にも会いたくなかった。
このまま一人でいたほうがいっそ・・・
その時、ぼくの肩に触れる感触があった。
「みつけた・・・、よかった無事で」
それは、ぼくのお母さんだった。
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