昼食
鎧の修理や馬の世話に時間を取られ、ラナロンワアへの滞在は2週間にも及んだ。その間に武器や道具、義足の手入れなどを済ませながらも、剣と光魔法の鍛錬を行なって過ごした。
「ステータスオープン」
名前 : アジフ
種族 : ヒューマン
年齢 : 23
Lv : 30(+1)
HP : 221/221(+5)
MP : 137/137(+6)
STR : 61(+1)
VIT : 60(+2)
INT : 40(+1)
MND: 46(+1)
AGI : 40(+2)
DEX : 33(+0)
LUK : 17(+0)
スキル
エラルト語Lv4 リバースエイジLv4 農業Lv3 木工Lv4
解体Lv5 採取Lv2 盾術Lv8 革細工Lv3 魔力操作Lv14
生活魔法(光/水/土)剣術Lv14 暗視Lv1 並列思考Lv3
祈祷 光魔法Lv4(+1)
称号
大地を歩む者 農民 能力神の祝福 冒険者 創造神の祝福
ようやく光魔法のレベルが上がったので、ステータスを確認した。ハーピー戦で1つ上がったレベルは30の大台に達し、レベルだけなら中堅冒険者でも上のほうと言ってもいいだろう。
義足というハンデで落ちていた戦力も、取り戻せている。実際、ハーピー戦ではかなり動けたと思う。久しぶりに多めに上がったAGIがそれを示すようだ。
対して器用さを示すDEXはすっかり伸び悩んでいる。弓の訓練でもするべきだろうか。
白蛇の鱗の面々は装備を整えた後、依頼をこなしながらまた商隊を募集するそうだ。あれ以来、冒険者ギルドにパマル峠での被害は伝わってきていないので、大丈夫だとは思うが。
ここラナロンワアは南に向かえばラバハスク帝都、東に向かえばルスナトス神国に向かう街道の分岐点だ。ルスナトス神国は神殿勢力が強い国で、エルフの森と隣接している。
当面の目的地と言ってもいいルスナトス神国へ、出発する日の朝を迎えていた。
「今日からまた頼むぞ」
馬具を付けたムルゼの首を撫でると
「ブルッ」
と身ぶるいした。
修理した鎧の革紐を縛り直して、宿を出る。朝の空気はひんやりとしていて、肌に気持ちいい。
手綱を引いてパマル峠から入って来たのとは逆の門へと向かった。
人通りの出始めた通りから門までつくと、門の前にこちらに手を振るいくつかの人影が見えた。
「アジフ!」
待ち構えていたのは、白蛇の鱗の面々だ。見送りに来てくれると聞いていた。
「みんな、わざわざありがとう」
「共に戦った仲間の旅立ちだからな」
ジロットはそう言ってくれたが、冒険者にとって出会いと別れは日常茶飯事だ。それなのにこうして来てくれたのは、白蛇の鱗にとってもあの戦いが特別だったからなのだろう。
「ジロットと一緒に戦えてよかったよ」
固く握手をして、肩を叩き合う。
「私も短い間だったけど、一緒に旅ができて嬉しかったわ」
「アジフさんは凄かったよ!」
レリアネとナロスは、こうして並ぶとやはり姉弟なのだと思う。近くに肉親がいるというのは、それだけで心強いものだ。
「レリアネ、こちらこそありがとう。ナロスにも世話になった。二人とも元気でな」
レリアネは胸の前で両手を交わし、こちらは両手を組む。神官と司祭の挨拶をそれぞれにして、ナロスとは握手して肩を叩き合った。
「おい、アジフ。これ持ってけ」
グナットがそう言って渡してきたのは、弁当だった。母親かっ!
「俺の母さんにアジフの事を話したら、渡してやれって言われてな」
母親だったよ!
「そ、そうか。ありがたく、ぷつ、くっ、アハハハハ」
「んだよっ。笑うんじゃねぇ!」
「ハァ、ハァ、ああ、すまん。いや、まさか弁当とは、不意打ちでな」
「うるせえなっ。わかってんだよ! いらねぇんなら返せ!」
弁当に伸ばしてきた手を<ヒョイ>っとかわした。
「ありがたくもらうよ、グナット。最高の土産だ」
「ったく。そうならそうと、最初からそう言いやがれ」
改めて固く握手を交わす。
「つまらねぇ所で死ぬんじゃねぇぞ」
「そっちこそ。またクイーンが出てもやられるなよ」
お互いの肩に拳をぶつけ合った。
「アジフ、俺達は冒険者だ。道が交わればまた会う事もあるさ」
ロドズが言う。正直、この先年齢がどうなるか分からない。会えるかどうかはわからないが、またコイツらと会いたいって気持ちに嘘はない。
「そうだな、そうであれば俺もいいと思うよ」
これまで、リバースエイジは若返る事だけを考えてきた。スキルレベルはもう十分上がっている。選択肢はもう十分に広がった。これからは、有効な使い方を考えなくてはならないだろう。
ロドズとも握手を交わし、肩を叩き合う。
「皆、達者で」
「「「「「アジフの旅の無事を」」」」」
冒険者にとって、別れは特別な出来事ではない。これぐらいあっさりしてていい。
門をくぐって振り返ると、こちらに手を振る皆が目に入った。拳を突き上げてそれに応え、前を向いてムルゼに飛び乗った。気持ちのいい連中だったな。
「さぁ、行こうか」
ムルゼの足を進めて街道を進む。もう一度、今度は後ろを見ないで手を上げた。
ラナロンワアの街から離れるほどに、周囲は林へと姿を変える。均等に並ぶ木の間隔、不自然に真っすぐな立ち姿は、この辺りが林業が盛んだからだ。
この辺りの建物は木造建築が多く、材木の需要は多い。材木林は見渡す限り続いていた。
昼前まで馬を進めると、街道の先から炊事の煙が上がっているのが見えた。丁度いいので近づいて行くと、街道脇の広場で食事の準備をしていた。一緒させてもらえるだろうか。
「お邪魔してもいいですか?」
馬上から声をかけさせてもらった。
「空いてる場所ならかまわんよ」
気軽に返事をしてくれたのは、木こりの恰好をした男だった。周りに数人いる男たちも、似たような服装だ。
「どうした、きょろきょろして」
「護衛はいないのですか?」
「ああ、この辺りは領兵がレベル上げを兼ねて巡回している。魔物は滅多に出ないよ」
おお、領兵も大変だ。訓練だけではレベルは上がらないからな。おかげでこうやって、安全な旅路のおこぼれにあずかれるのだが。
とは言っても、人の生活圏外まで領兵が回ることはほぼない。この辺りの林も生活圏内と認識されているのだろう。
馬を繋いで水を飲ませてやり、空いた場所に腰を掛けた。荷物から取り出したのは、グナットからもらった弁当だ。
弁当は、この辺りでよく見るスタイルの、大きな緑の葉っぱで包まれていた。なんでも、香りが良くて長持ちするのだとか。
編み込まれた葉っぱを解くと、中から汁が少しこぼれた。
「おっと」
あわてて手を浮かせて、いったん草の上に弁当を置いた。まったく、たのむぜグナットのお母さん。
ハっと気付いて荷物の中を確認すると、荷物の中にはこぼれていなかった。よかった、この葉っぱ、なかなか優秀だな。
弁当の中に入っていたのは、黒パンと漬け焼きの肉と、焼いて皮をむいたらしい小さな芋がいくつか。家庭的とも言えるし、普通とも言える。
この付近は米っぽいクルンがよく食べられているが、汁物と一緒に食べることが多く持ち歩き向きではない。持ち運びに便利な黒パンは、どの地方でもよく食べられていた。
おそらく肉の汁が染み出したのだろう。黒パンを取ると、汁がすこし染み込んでべっちゃりとしていた。
パンを手に取る時に編み込まれた葉っぱが揺れ、その隙間から二つ折りにされた紙が落ちた。
なんだろうと思って拾い、肉汁が少しついた紙を開いてみる。
『息子と一緒に戦ってくれて、ありがとうございました』
中の紙には、一行だけそう書いてあった。
ふやけたパン、冷めて硬くなった肉、少しパサついた芋の入った弁当。それは、とても暖かい昼食の時間を与えてくれた。
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