峠越え:援護
獣人の耳は音をよく拾う様にできている。
そこにハーピー・クイーンの衝撃波を喰らったのだからたまらない。混乱する周囲の中でなんとか立ち上がったものの、目はチカチカするし頭はガンガンする。
頭を押さえてフラフラしていると、アジフの奴が荷馬車の囲いから飛び出して行くのが見えた。
「おいっ!」
声をかけるが、止まりゃしねぇ。飛び出すなって言ったのに聞かねぇ奴だ。
クイーンの気を引いてくれるのは正直助かるが、あれじゃ、一人だけ的にされちまう。
そこにロドズが話しかけて来た。
「グナット、聞いてくれ。俺はアジフの援護に行ってくる。必ずクイーンの動きが止まる瞬間があるはずだ。そこに魔術師に伝えて
言うだけ言って、飛び出していきやがった。勝手な事言いやがるが、そういえば自分もアジフに、「クイーンの動きを止めろ」とか言った気がしなくもない。
“北風の峰”と“ロドン警備隊”の魔術師を捕まえて、ハーピー・クイーンを指差した。
「クイーンを狙うぞ! 詠唱は合図する、火の槍に続いて合わせろ!」
その時、上空でクイーンが止まり、翼を振るったのが見えた。せっかくの機会だったが、今からでは詠唱が間に合わない。
何かの攻撃をロドズが受けるのが見えた。
風の刃を受けても、ロドズは倒れない。さすがリーダー、頼りになるぜ。それを見たクイーンが、再度攻撃する軌道に入った。攻撃する時こそ狙い目だ。
「詠唱始めろ!」
3人が詠唱を始める。
ん? 3人? 思わず振り向けば、レリアネまで唱えてやがる。お前のMPは回復に……
だが、クイーンは既に攻撃体勢に入っている。言ってるヒマはない。
クイーンは上空で動きを止めて翼を広げた。今だ!
「撃てー!!」
「ファイヤージャベリン!」「ダークボール!」
「アースアロー!」
完成した魔術からクイーンを目指す。意識を2人に向けていたクイーンは、避けるそぶりも見せず2発目の風の刃を放った。
そこに、まず火の槍が当たり、クイーンが苦痛の叫びをあげる。そこに闇玉と土の矢が追い打ちをかけた。
3つの魔法の直撃をくらい、クイーンが地に墜ちる。ここしかねぇ!
「今だ! 突っ込めー!!」
言いつつ、荷馬車を越えてクイーンを目指す。だが、そうはさせないと、上空からハーピー共の突撃が降ってきた。
それは今までのような、一撃を加えて離脱する攻撃じゃなかった。身体ごとぶつけ立ちふさがるハーピー共と、クイーンを目指す冒険者が激突する。
「がはっ!」
最前線で突っ込んでいたので、激突に巻き込まれて吹っ飛ばされた。
2本の
くそっ! 人のこと全然言えねぇじゃねえか。
倒れて、起き上がるところに、ハーピーが襲い掛かって来た。来るんじゃねぇっ!
迫るかぎ爪を、横からジロットが繰り出した槍が弾いた。なんとか立ち上がって短剣を振るってハーピーの翼を切り裂く。
「ケェェェーー!」
ハーピーが苦痛の叫びをあげ、胸元にジロットの槍が突き刺さった。
「助かったぜ」
「らしくないぞ」
ジロットが槍を抜きつつ言って、ハーピーへ向かって行く。わかってらぁ。
「バカねぇ。ルー・メス・ロット・リム ダークヒール!」
「レリアネ! 回復はありがたいが、お前こそMPは大丈夫なのかよ?
「MPポーションを飲んだわ。まだ大丈夫」
あんな高い物を……って言ってる場合じゃねぇか。
「こっからは怪我人が増える。回復に専念してくれ」
「わかってるわ」
そう言ってレリアネも、ハーピーと冒険者がぶつかる正面へ向かう。
オレも戦いに戻らなくちゃならないが、斥侯の戦場は正面じゃない。一旦後方に下がって、火魔術を使う魔術師へ話しかけた。
「おい、まだ
「他の魔術が使えなくなるが、あと一発なら」
「上出来だ。他の雑魚はいい。クイーンを狙ってくれ」
「無理だ! こんなにハーピー共に飛ばれたら狙えないし、射線が通らない!」
ロドズとアジフが、クイーンを相手にしているはずだ。アイツらの所まで届かせてみせる。そう覚悟を決めて、魔術師に言った。
「オレが必ず通す。射線が開けたら撃ってくれ。頼むぞ」
「わ、わかった」
こっちの決意に負けて、魔術師が首を縦に振った。よし、これで後は道を拓くだけだ。
と、張り切ってはみても、正面から突っ込んでもお荷物になるだけだ。
<ヒュン>
「グケッ」
突っ込んで来るハーピーの顔面に石を投げて気を散らす。
「やっ!」
「クェー!」
冒険者を襲うハーピーの横腹にナイフを飛ばし。
「はっ!」
「キュェェッ」
地面に墜ちたハーピーに止めを刺す。
正面に立つ連中が前だけ見れるように、横から後ろから援護をかける。それでも全員の援護が出来るわけじゃない。
翼を広げるハーピー共の隙間から、ちらちらと見えるクイーンと戦うロドズとアジフ。その戦場の方向へ向かって行く。
クイーン方向の一番前まで辿り着くと、一人で3匹ものハーピーを相手に、鬼の形相で槍を振るうジロットの姿もあった。頭から、手足からも血を流し、それでも交互に襲うハーピーの攻撃を必死にさばく。
その激しさに、レリアネも近寄れず回復もできていない。
最後のナイフを投げ1匹の肩に刺さるが、奴らも必死だ。構わず攻撃を続ける。だが、もう投げる物がない。
ああ、もう、ジロットの言った通りだ。全然、これっぽちもオレらしくねぇ。
「だりゃあぁぁぁ!」
空中からジロットを囲む、その中の一匹の足に短剣を振りかざして飛び掛かった。
ハーピーの足に突き刺すが、刃が短すぎる。かぎ爪が突き出され、鎧を削り肉に喰い込む。
「クェェェー!」
構わずにしがみついて、もつれ込む様にハーピーと共に地面に落ちる。そこに、もう1匹のハーピーのかぎ爪が襲い掛かって来た。あ、これは無理だ。
「やあぁぁぁー!!」
諦めが脳裏によぎった時、戦場に似合わない若い声が響き、赤い髪が襲い来るハーピーに向けて槍ごと突っ込んだ。
ナロスか!? 無茶しやがって!
意表を突かれたのはオレだけではない。ハーピーも不意を付かれ、腹部に槍が刺さりナロスと共に地に落ちた。
その背後に見えたのは、残り1匹のハーピーをジロットの槍が貫く光景。
3匹ものハーピーが一気に倒され、戦場にできた空白から灰色の空が見えた。
「撃てーー!!」
めいっぱい叫ぶ。しかし、狙いを付けて詠唱が終わるまで、この空白を保たなきゃならない。
地面で絡み合うハーピーを押さえにかかる、上を見ている余裕はない。
それでも、暴れるハーピーを必死に押さえつけていると、明るい何かが頭上を通過し、ハーピーの瞳に光が反射するのが見えた。
頼むぜ、届いてくれよ。アイツらのところまで!!
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