杖?
目の前に並ぶたくさんの剣。それだけで満たされる気がした。
何しろ、ロクイドルの武器屋ときたら、叩く、潰す、割る、そんな武器ばっかりだったからだ。
ガセババルでも体格的にドワーフの剣士は少ないが、それでも剣は本来多数派なのだ、と実感できる光景が安心させてくれる。
武器屋の棚に並ぶ剣は、いずれも逸品揃いだ。中でも目を引くのは、中央に飾られたミスリル製の大剣。
魔法銀とも呼ばれるミスリルは、本来、鋼ほどの強度は無い。だが、魔力特性に優れ、鋼にくらべ強い魔術効果を追加させることができる。飾られた大剣に付与されていたのは“丈夫さ上昇・大”と“重量軽減・中”さらに“切れ味上昇・大”と“水属性効果・小”。
お値段は堂々の白金貨1枚と金貨50枚だ。とても手を出せる金額ではない。
ミスリルの欠点はここにある。ミスリルの素材自体は鋼よりも軽くて柔らかい。魔法効果を付与しないと素材の性能を活かせないため、効果付与の金額が加わって高くなるんだ。
買えない物をながめても仕方ないのだが、ながめずにはいられない。
「お客さん、予算はどれくらいだい?」
武器屋の主人が話しかけてきた。一番聞かれたくない質問を直球で聞かれたな。
「自分でもわからないんだ。そうだ、この剣をもし手放したらいくらになる?」
そう言って剣を外して店主に渡した。店主は鞘から抜くと、机の上に置きじっくりとながめる。
「いい剣だ。魔法付与はそこそこだが、素材の鋼がいい。ちゃんと鑑定してみないと断言はできないが、これなら金貨25枚は出せそうだ」
ぬぐッ! 金貨35枚で買ったのだが。まぁ、買取りならそんなモノか。
だが! そもそも剣を買いに来たわけではない! 冷やかしなのだ! 並んだ剣を見て、危うく当初の方針を見失うところだった。
「そうか、やっぱり予算が足りないようだ。すまないな」
再び剣を腰に戻すと、店主は少し残念そうだった。
その後も武器屋を中心に、街中を見て回った。財布の紐はしっかりと締めていたので、買い物はほとんどしなかった。
しかし、収穫が無かったわけではない。なんと言っても、たくさんの剣を見れた。1日でこれほどの数の剣を見たのは初めてだ。かなり目が肥えたと思う。今ならかなりの目利きができる……気がする。
ガセババルへ来た二日目は、それだけで終わってしまった。なにしろ店の軒数が多くて、回りきれなかったからだ。
「おかえりなさい。もう夕飯食べられますよ」
宿へ戻ると、若いおかみさんが出迎えてくれた。
「あ、じゃあお願いします」
席に座り、テーブルに突っ伏した。義足で一日中歩くのは疲れる。痛いので、おそらく皮がこすれて血が出ているはずだ。部屋に戻ったらヒールしよう。
別にここでヒールしてもいいのだが、突然に呪文を唱え出したら変な人と思われる。
「あら、お疲れですね」
「一日中、武器屋を歩き回ってね。クタクタですよ」
料理を持ってきてくれたので、体を起こしてテーブルのスペースを空ける。
「それはお疲れさまでした。何かいい物はありました?」
「いや、そもそもそれほどお金持ってないので、冷やかしというか、見物というか。いい物はたくさんありましたけどね」
料理を置いたおかみさんは、その場を立ち去らず、少し考えてから口を開いた。
「見物なら、大通りの “ナロリ魔道具店”は行きました?」
「ああ、あの高級そうな店構えの……いや、縁がなさそうだったので行ってないです」
「真面目に武器を探してる人には言えないけど、見物だけなら行ってみれば面白い物が見れますよ」
「へぇ、面白い物って何です?」
「それは行って見てのお楽しみです」
なんだろう、ずいぶんもったいぶるな。
「そこまで言われたら、明日行ってみますか」
「思ってたのと違っても、文句言わないでくださいねー」
そう言い残すと、厨房に戻っていった。気にはなるが、とりあえずは料理が冷める前に食べてしまおう。
ドワーフ料理の夕食を食べ、部屋に戻り義足を取り外す。装着部分をヒールで治し、剣や鎧の手入れをしてから日課の訓練を済ませ、眠りについた。
翌朝は朝の剣の鍛錬を済ませ、身体を拭いてから朝食を食べて街へ出かけた。
向かうのは、昨日、話に聞いた”ナロリ魔道具店”だ。大通りに立派な店が建っていて、高級感あふれる店構えは敷居が高い。
「いらっしゃいませ!」
おそるおそる入っていくと 綺麗なおじぎで店員さんに迎えられた。そういうのが敷居が高いのだ。
「何かお探しですか?」
「いや、泊まってる宿屋のおかみさんに、ここに来れば面白い物が見られるって聞いて来たんだ」
店員さんは、それを聞いただけで何の事かわかったようで、納得した表情を見せてから
「ただいま支店長を呼んで参りますので、少々お待ちください」
そんな事を言って、店の奥に入って行ってしまった。
いや、支店長とか呼ばれても困るんですが。困惑しながら待っていると、横幅がひと際立派な体格のドワーフが店の奥から姿を現した。
「あなたが私の話を聞きたいという方ですかな?」
「え? いや、私はここにくれば、面白い物が見られると聞いて来たのですが」
「なるほど、そういう訳でしたか。どっちにせよ、それを見れば私の話が必要になるでしょう。さぁ、こちらにいらしてください」
気のせいでなければ、この支店長、なんだか楽しそうだ。
案内されたのは、店の2階にある高そうな魔道具が並べられたエリア。そして、その真ん中にそれは置いてあった。
『魔道杖「マインブレイカー」』
そう銘が書いてあるのは、一目でミスリル製だとわかる薄青い輝きを放つ見事な両手剣だった。
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