新人


 暗い部屋を“ライト”の魔法の灯かりが照らしていた。


「ステータスオープン」


  名前 : アジフ

  種族 : ヒューマン

  年齢 : 27

  Lv : 27(+4)


  HP : 196/196(+20)

  MP : 24/99(+28)

  STR : 56(+4)

  VIT : 56(+5)

  INT : 35(+6)

  MND : 43(+8)

  AGI : 36(+2)

  DEX : 32(+3)

  LUK : 16(+3)


スキル

  エラルト語Lv4 リバースエイジLv4 農業Lv3 木工Lv4

  解体Lv5 採取Lv2 盾術Lv8 革細工Lv3 魔力操作Lv12(+2)

  生活魔法(光/水/土)剣術Lv13(+1)暗視Lv1 並列思考Lv2

  祈祷 光魔法Lv3(+2)


   称号

  大地を歩む者 農民 能力神の祝福 冒険者 創造神の祝福



 ロクイドルへ来てから半年が過ぎ、レベルは4つ上がっていた。


 半年、いや祈祷の修行が終わってから実質3ヶ月で4レベル、かつてこれ程の勢いでレベルが上がった事はない。レベルが上がるほどペースは落ちているとはいえ、それだけロクイドル周辺での効率がいいって事だ。

 毎日ヒールをMP限界まで使い、光魔法のスキルレベルは2つ上がった。最初の方は上がりやすいので、それもあるのだろう。



 だが、大切なのはそこではない。


 年齢: 27


 これが大事なんだ。


 今までは毎年4月にリバースエイジのスキル上げを兼ねて少しずつ若返っていたので、リキャストタイムが明けていなかった。その4月がもうすぐ来る。


 そこで“年齢”の可能性に気が付いた。これまでは考えたこともなかったが、足を失ったあの時の“26歳”より年齢を逆行させたら足は元に戻るのか?という疑問が浮かんできたんだ。


 正直にいえば、年齢を逆行させて足が元に戻る可能性は低いと思う。今までこのスキルが年齢以外に効果を発揮した事はなかった。


 だが、それでも。足を失って少しでも元に戻る可能性があるかもしれないなら、可能性にすがりたい。身体の一部なのだから。


 もちろん、不安はある。27歳から25歳は、ごまかしが利く年齢差だと思う。

だが、もし足が戻ったらごまかせる訳がない。


次の日はどうするのか?

「足が生えてきましたー!」とにこやかにあいさつするのか

全てを打ち明けて事情を話すのか

もしくは街を出るのか


 少なくとも、全てを話すつもりはない。こんなスキル持っていると知れたら、何に利用されるかわかったものではない。

 教会の人はみんないい人だが、人の口に戸は立てられないし、秘密を知られても同じようにいい人とは限らない。信用するしないの問題ではないんだ。

 

 朝、足が生えてきて問い詰められない訳はない。いっその事、教会を辞めて街の外で試すのはどうだろうか?

 始めはつらかったロクイドルの環境も、今となっては回復魔法の使い手が増えて、最近はローテーションも前ほど辛くない。何より、光魔法を教わった恩がある。人手の足りない教会を簡単に辞めるのは、あまりにも不義理だ。

 なんの根拠もない分の悪い賭けで、教会の皆に迷惑をかけてまで辞めたくはない。


「はぁ」


 希望でもあり、悩みでもある。このところ頭を悩ませる問題にため息をついて、ステータスを閉じベッドに潜り込んだ。



「アジフさん、最近元気ないですね」


 翌朝の礼拝でリネル君にそう言われてしまった。

ああ、心配をかけてしまったか。しかし、誰かに相談できる話ではないんだ。


「大丈夫、ちょっと疲れたのかもね」


「レベル上げも大事ですけど、たまには休まないとだめですよ!」


 リネル君の優しさが染みるっ。



 <パンッ>

 礼拝の片付けをしていると、ゼンリマ神父が手を叩いて皆の視線を集めた。


「皆、聞いてくれ。アジフが見習い司祭として成長した事で、大教会がウチの教会を見直してな。追加で神学校出の見習い司祭が派遣される事になった。来月からの予定だ。皆もそのつもりでな」


 新入社員か、それはありがたい。


 ……ん!? そうか! これだ! 新人を育てて余裕ができてから街を出るんだ! これなら教会にかかる迷惑も最小限で済むはずだ。

 しかし、その為にはゼンリマ神父の筋肉の魔の手から新人を守らなければならない。なんとしてもだ。


「ゼンリマ神父! その見習いの教育、私も手伝わせて下さい!」


「む、アジフよ。確かにお前は見習い司祭としてよくやっている。だが、最近のお前の筋肉には陰りが見えるぞ」


 祈祷のスキルを習得して以来、筋トレはほとんどしていなかった。その時間は素振りと型稽古にあてて、剣で使う筋肉に絞ることにしたんだ。鎧の寸法も合わなくなってきていたし。


「私は自分にあった筋肉を探しているだけです。陰りなどありません」


 視線がぶつかり、火花が幻視できた。なんの勝負だ。だが、最初に視線を緩めたのはゼンリマ神父だった。


「グハハ、自分の筋肉を探すか。アジフよ、言うようになったな。いいだろう、お前も見習いの先人として手伝うといい」


 よしっ! まだ見ぬ新人たちよ、君たちの筋肉地獄は回避してみせるぞ!


 神学校の入学資格は12歳以上14歳以下。卒業には人によるが、2~3年かかるという。幅はあるが、14歳から17歳の間くらいの若者になるはずだ。街を出たらいっそのこと17歳くらいまで若返るのもいいかもしれない。ぐふふ



 4月に入り、リバースエイジのリキャストタイムが明けた。だが、まだだ。まだ我慢だ。


「今年神学校を出ましたガイロです。ゼンリマ神父の勇名をお聞きしてこちらの教会を希望しました! 15歳です。よろしくお願いします」


 そしてついに待望の新人が来た!


 1人目の新人は金髪に緑眼の男の子。線が細いわけではないが、まだまだがっしりするほどの年齢ではない。しかし、ゼンリマ神父のファンか。作戦を変える必要があるかも?


「ルットマです。去年、神学校を卒業して1年間冒険者をしてました。Fランクに上がったところで、教会からの斡旋できました。18歳です。よろしくお願いいたします」


 2人目は、ペコリと頭を下げた茶色の瞳と、赤よりの紫の髪が法衣調の帽子から覗く女の子……いや、もう女性というべきだ。思ったよりお姉さんが来たな。そうか、新卒とは限らないのか。それは考えてなかった。


「二人とも、よく来たな。ワシがロクイドル教会神父のゼンリマだ。2人にはまず教会の仕事を覚えてもらいたい。光魔法を使える即戦力だ。期待しておるぞ」


「「はいっ」」



 その日から2人の教育が始まった。始めは教会の仕事について回りながら覚えてもらい、慣れれば夜番や治療院のローテーションにも入ってもらう予定だ。


 その中で、見習い司祭の先輩としての最優先任務は、ゼンリマ神父の邪魔をする事だった。


「のう、アジフ。そろそろ筋肉を鍛えてもいいと思うんだが」


「いいえ、ガイロはまだ体格ができていません。余計な筋肉は成長の妨げとなります。ルットマはパワーよりもまずは武器の扱いに慣れさせるべきです」


「レベルを上げさせた方がいいのではないか?」


「この先のレベル上げの為にもガイロには冒険者として登録して、まずはGランク冒険者として街の事を知るべきです。ルットマは参加する冒険者パーティを探すのが先決です」


「アジフ、お前ワシに厳しくない?」


「とんでもありません。一般論です」



 とはいえ、ほぼ普通の事しか言ってないはずだ。



 もちろん、直接指導することもある。


「ルットマ、武器は何を使ってるんだ?」


「杖です」


「ガイロは?」


「もちろん、メイスです! ゼンリマ神父と一緒です!」


メイスはいいとしても、杖だけってのはつらいな。


「よし、ガイロは訓練用メイスで革袋に打ち込みだ。中身は砂だが、手首を痛めるなよ」


「わかりました!」


「さて、ルットマ。ロクイドルの魔物は硬い甲殻を持つものが多い。この先MPを上げるなら杖以外にも武器が必要になる。何か選んだ方がいいぞ」


「前衛の皆さんにお任せできないんですか?」


「光魔法は治癒系が多い。仲間が怪我するまで何もしないわけにはいかないだろ? 自分の身が守れるのが最低限だが、攻撃手段も持っておくべきだ。司祭として無難なのは魔道杖を兼ねるメイスだな」


「私、直接叩くのって苦手で……。こんなのはどうですか?」


 そう言って教会の予備武器から取り出したのは、柄の先に鎖とトゲ付きの鉄球のついた武器。フレイルだった。凶悪な武器だと思うんだが、それは直接に入らないのか。


「う~ん、扱いを練習しないと自分で怪我するよ?」

 

「いっぱい練習します!」


 女性を主張する胸の前で、両手を揃えて“ぐっ”と力を入れた。



 その両手に持った物騒な武器がなければ、かわいいんだけどなぁ。



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