新スキル


「キャァーーー!」


 森の中に響き渡る悲鳴の方向に走っていた。Dランク依頼のオーク集落討伐の最中の事だ。


 オークが引っ越してきた森に入るなんてどこの馬鹿だ!?  依頼してきた村から立ち入り禁止が連絡されてるはずなんだが。

 森を走る人影が見えた。男1、女1、格好から見るに冒険者だな。追いかけるのは……やっぱりオークか、複数だな、2いや、3か?


「ネビ! がんばれ!」

「ハァ、ハァ」


「フゴッフッ」


 進路を調整して、こっちへ逃げてくる冒険者のルートの先に潜んだ。そうだ、あと少しだ、がんばってくれよ。


 2人の冒険者がこちらが潜む茂みの横を走り抜け、直後にオークが迫った。


<ガサッ>


 茂みから飛び出し、不意をついた先頭のオークを


「ハァッ!」


 はす切りに両断し、続くオークも


「らァッ!」

「ブギャァー!」


 逆袈裟に切り裂いた、ちょっと浅かったか。

それでも血を噴き出し倒れるオーク。さらにその後ろからやってきた最後のオークと正対した。


「フガ!」


 剣を目の前に掲げられ、オークが足を止めた。つい最近、大枚をはたいて買った新しい剣は、くせになりそうな切れ味を見せる。


「せやぁぁ!」


 気合と共に上段に剣を掲げ一歩踏み出せば、オークの棍棒が迎え撃った。 だが、こちらは剣を構えただけで振ってはいなかった。がら空きとなったオークの横腹を薙ぎ払……おうとするが、さすがに重い!


「ハアァァー!!」

「グギァァァー!」


  それでも身体ごと巻き込むように回転し、無理やり振り切って両断した。その背後に見えたのは、二匹目の浅く切った血まみれのオーク。やっぱり浅かったか。


「ガ…!」


 回転した勢いをそのままに、袈裟懸けに切り降ろして止めを刺す。周囲を警戒するが、後続はいないようだ。血糊をふき取り、剣を納めて振り返った。


「大丈夫か?」


「あ、ありがとうございます」


 木の陰に隠れる2人に問いかけると、冒険者はおずおずと礼を言った。二人ともかなり若いな。17歳…までは行ってないか。


「2人か?」


「もう一人いたんですが奴らにやられて」


 すでに犠牲者が出ていたか。間に合わなかったのは残念だが、そもそも救出に来たのでもない。


「そうか、ここを離れるぞ」


「オークは持ち帰らないんですか?」


「ここはオークの集落から近いし、奴らは鼻が良い。解体する間はない、行くぞ」


 残念そうにオークを見つめる2人を強引に先導して、現場を離れた。




 王都へ来てから修練と依頼を過ごすうちに3年が経過していた。


 Eランクの依頼件数を達成し、Dランクへ昇格するのは時間の問題だった。

その後はDランクとしては珍しいソロ冒険者として活動していて、今回もそんな依頼の中の一件だったんだ。



 安全圏まで退避したと判断し、2人に話しかける。


「それで、なんであんなところにいたんだ?」


「この村でオークが出たって聞いて、アイツらの肉は美味いから狩りに行こうぜってビレドが。い、一匹なら倒したことあったんだ! それで……」


 そう話す少年は、ようやくあどけなさの消えかけた目元を地面に向けた。


「君たち、ランクは?」


「Fランクのフォシッテとネビです」


 FランクでEランクのオークに挑むか、パーティなら無理じゃないが……


「そうか、Dランクのアジフだ。オーク集落の話は聞いてなかったのか?」


「たくさんいるなら、一匹くらい狩れると思ったんです。そしたら、すぐに戻るつもりだったのに……」


「その無謀が仲間を殺した、忘れるなよ。もう陽も落ちる、村へ戻るぞ」


 本来はこのまま夜襲をかける予定だったので、森の中はすでに暗い時間帯だ。だが、あの騒ぎでは今日の夜襲はもう無理だろう。 うつむき唇をかみしめる少年の背中を押した。



 3年の修練とDランクをソロで過ごす日々は、確実な成長をもたらした。


 Dランク依頼の報酬はEランクと比べ格段に高く、しかもソロで独り占めなので生活費に困らなくなって、依頼を達成するペースはますます遅くなった。そのせいもあって2年前と比べてレベルはそれほど上がらなかった。ただ、その分訓練の時間は増えて、スキルは格段の成長を見せた。


  名前 : アジフ

  種族 : ヒューマン

  年齢 : 26

Lv : 22(+3)


  HP : 171/171(+15)

  MP : 67/67(+9)

  STR : 51(+4)

  VIT : 41(+5)

  INT : 27(+4)

  MND : 33(+4)

  AGI : 33(+2)

  DEX : 27(+2)

  LUK : 13(+2)


スキル

  エラルト語Lv4 リバースエイジLv4(+1) 農業Lv3 木工Lv3(+1)

  解体Lv5(+1) 採取Lv2 盾術Lv8(+3) 革細工Lv2

  魔力操作Lv9(+3) 生活魔法(光/水/土) 剣術Lv12(+5) 暗視Lv1 

  並列思考Lv1


称号

  大地を歩む者 農民 能力神の祝福 冒険者 創造神の祝福


 初めの一年に比べれば剣術スキルの伸びは鈍いが、上達するほどに上達の速度が落ちるのは仕方ないと思う。だが、剣士として“一人前”とされるLv10を突破し、連地流の初伝を得るに至った。今では新人の指南役のローテーションにも入っている。


 木工は教会の慈善活動で色々修理したり、子供たちの木剣を作ったりしているうちに上がった。おかげで “創造神の祝福”の称号を得て、無事に光の生活魔法を得ることができた。

 

 問題なのは“並列思考”だ。この獲得は劇的だった。道場で訓練中に、魔力操作と剣術の型を同時かつ普通にできるようになったのだ。

 ついに“身体強化”か!? あるいは何か魔術スキルか?と、期待してステータスを開けてみたら得ていたんだ。


 始めはがっかりした。両手でペン回したり、動いたりしながら魔力操作したのは魔力の訓練になってなかったのか、と。

 だがこのスキル、得てみれば実に便利なスキルだ。歩きながら魔力操作の鍛錬だってできる。ただ、一度に二つのことを同時にするといつも以上に疲れるようだが。




「あ、あの」


 少女が話しかけてきた。立ち止まって顔を向けると


「助けてくださってありがとうございます。ちゃんとお礼が言いたくて。オークたちをあっという間に倒しちゃったの凄かったです!」


 少女……ネビだったか。ネビはそう言って、水色と言ってもいいほどの明るい青い髪をした頭を深々と下げた。


 やれやれ、これはFランクでもGランク上がり《ニュービー》かもしれないな。 魔物の潜む暗い森の中で警戒しながら進んでいる最中だ。世間話は後にして欲しい。


「ビレドがもう少し粘ってれば俺たちだってやれたんだ!」


 フォシッテのその赤い髪は気の強さを示しているのか、強い声をあげた。オークを倒したことがあるらしいが、この様子じゃまぐれかもしれないな。


「そうやって簡単に警戒を怠る、大きな声で魔物を呼ぶ。その未熟さが周囲を巻き込むんだ」


 言いながら剣を鞘から抜いた。


「まぁ手遅れだがな」


 フォシッテに向けて上段に構える。


「「え!?」」



<ギインッ>

 フォシッテの頭上を襲う影に向けて剣を振るうと、それは硬質な音をたてて後ろに飛び退いた。この剣を弾くか、硬い、そして手応えが軽すぎる。


 暗闇の中に黒く潜むのは2mほどもある巨大なクモだった。そんな巨体が頭上から降ってくれば、後ろに弾き返せる程度の手応えになるはずがない。


 ”ジャイアントスパイダー”初見だが、周辺の地域で恐れられる有名な魔物だ。たしか牙に毒があったはず。討伐ランクはD、強敵だ。


 呆然とするフォシッテを押しのけ剣を向けると、ジャイアントスパイダーは後方に軽々とジャンプして木に張りついた。


 やっぱり軽すぎる、動きに重力が感じられない。見えないがクモなんだ。たぶん “糸”だろう、厄介な。


<キンッ>

 ジャイアントスパイダーは木々の間を飛び回り、剣と黒い影が交わる度に高い音が森に響く。着地した木から何度も跳び、その凶悪な牙を剥く。四方からの攻撃に打ち払うだけで精一杯だ。

 

「シィィッ」

 だが、突然ピタリと木の上で動きを止め、こちらに口を開きそんな音を発した。

 嫌な予感がして盾を掲げると、盾が何かに“グンッ”と引っ張られた。


「おおお!?」


 不意に引っ張られ、“ととっ”と足が前に出たところでなんとかこらえた。見れば木の上で首をよじっている。口から糸を吐いたのか!



 …ん? 蜘蛛の糸って口からだっけ?



そう思ったのは並列思考スキルのせいではないはずだ。



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