闇魔法
ときおりあらわれる魔物に連携を確認しながらも、2日目の目的地まで到着した。
そばに水場のある開けた広場だ。馬に水を飲ませながらも、それぞれが野営の準備をはじめた。
「みんなのごはんも作ってあげるからねー」
紅一点のセッピが声を上げた。それはありがたい。今日の獲物のホーンラビットもセッピが馬車の上から弓で仕留めたものだ。
ナレンは薪を拾いに行き、オリオレはかまどを作って火を付けている。水でも汲んでくるか。
次第に美味しそうな匂いが漂ってきて、魔物を呼ばないか心配になる。
「魔物、来ないといいが」
「その時は頼む。メシが不味いとセッピが怒り狂う」
パーティリーダーも大変だな……
夜の見張りは常に2人態勢だ。時間を半分ずつずらして、最初の人は半分で済むが、最後も起きなくてはならない。ただ、もっとも長い間隔で寝れるので、セッピが担当することになった。
自分の順番でオリオレと火のそばで暗い森を見つめる。暗視のおかげである程度は見えるが、それでも暗い。
しかし、暗い森の中で、焚火に照らされた端麗な顔のエルフと2人でいるとファンタジー感がすごい。
色々聞いてみたいが、他の皆は寝ているので、べらべらしゃべっていると迷惑だ。
「なぁ、オリオレ」
「なんです?」
「依頼終わったら酒でもどうだ?」
「!ええ、必ず」
焚火に照らされたエルフの顔が「むふー」に変わった。ファンタジー感が台無しだ。
<ガサッ>
「!」
森の中で物音が! 見落としたか? とりあえず剣を抜いた。
しかし、改めて暗視スキルで目を凝らすが何も見つからない。だが、何かいる、間違いない。
その時、背後でオリオレが呪文を唱えた。
「ルー・レレ・ビーデ・ロット・レム! ナイトサイト!」
背後で見えないが、目が一瞬<チカッ>とした後、急に視界が開けた。噂に聞く暗視<ナイトサイト>の魔法か!
見える! 木の陰にシャドウスパイダー!
真っすぐに走り寄って行くと気付かれたとわかったのか、木の上から跳び掛かってきた。
<カインッ>
シャドウスパイダーは軽い。盾で打ち払うと、自ら跳ぶように跳ね返った。逃がすものか!
再び木に着地したシャドウスパイダーに向けて飛び上がり突きを放った。届いたのはギリギリで2本の足のみ。それでも足を2本切り落とされ、バランスを崩して木から剥がれ落ちたそこに
<ダンッ>
バスタードソードを叩きつけ、真っ二つにした。あ、素材の糸袋ダメになった。
明るくなった視界で周囲を見渡すが、見える範囲に魔物はいない。シャドウスパイダーから牙と魔石を抜いて、死体を森の奥に投げ捨てる。
「ありがとう、助かった。しかし凄いものだな」
「夜の闇はメムリキア様の安寧の帳の内ですので」
暗視のスキルとの相乗効果もあるのだろうが、周囲がまるで昼間の様に見える。神官の闇魔法、想像以上だ。
オリオレが口にした呪文は、魔力が込められた言葉が祈祷スキルによって変換されたものだ。どんな言語を使っても同じ音になるのだとか。
焚火に戻って聞いてみた。
「あの呪文、どんな意味なんだ?」
「普通に言えば、<安寧たる闇よ、暗闇を見渡す導きよ有れ>ですね」
音だけマネしたり、意味だけ知ってもスキルが無ければ魔法は発動しない。修業が必要なのだ。
<ガサガサ>
「!」
「なんだよ、うるさいなあ」
またか、と思ったがナレンだったか、浮きかけた腰を降ろした。しゃべり過ぎて起こしてしまったようだ。
「すまない、シャドウスパイダーが出てな」
ナレンはちらりと時を測る道具を見た。砂時計のように経過した時間を測る道具だ。砂時計の粘度のある液体バージョンで、これをひっくり返して交代時間を決めている。
「交代まではもう少し間があるな。けど、起きちまったからなぁ。付き合うか」
「すまないな、助かるよ」
なんだかんだ言って面倒見がいい。こういうところがパーティリーダーなんだろうな。
翌朝、野営を片付けて出発だ。
「みなさん、目的地まで夕方前には充分に着くと思いますが、これから森が深くなります。警戒をお願いします」
出発前に、依頼主のキビエさんから注意が入った。確かに、この先は道が狭くなって森が近いので奇襲されやすい。馬車の横も馬で走れないので、隊列も変えないといけない。
こんな時は、スカウトのセッピがいるのが頼もしいが、まかせっきりにするわけにもいかない。
「ヒューガも頼むぞ」
「ブルル」
撫でてやると、やる気充分のようだ。
「ブギャァァー!」
ナレンの振るった両手剣が、オークの棍棒を持った腕を落とした、よしっ! あと一息!
「ナレン! 後方ヘビに!」
後ろのオリオレから声がかかるが、ナレンはオークの正面だ。オークの気を引きつけなくちゃならないな。
「おりゃぁ!」
「フゴッ」
大振りな一撃を声を出して放ち、オークを退がらせる。
そこに矢がオークの分厚い皮膚に弾かれ、オークの気がそれた。セッピか!?
一歩退がったナレンが踵を返し後方へ向かった。
「グガッ」
大して効きもしない腹を軽めの一撃で薄く切り裂き、一歩退がらせつつ 素早く上段へ切り返した切り降ろしを肩口へ叩き込んだ。
「グギャァァァァー!」
血しぶきと絶叫をあげ、オークが地面をのたうち回る。あの出血量だ、距離を取って動きが鈍るのを待つ。
「グ……ガ……」
今だ!
飛び込んで首を落とした。周囲は? 見渡すと皆、警戒に移行している。剣の血糊をふき取って鞘に納めた。ふぅ
「オークはどうする?」
「村へのいい手土産になります。持っていきましょう」
依頼主の意向には従いましょう。三人がかりでオークとグラスヴァイパーを吊り上げ、血抜きと内臓を抜き取りながら話した。
「オリオレ、あそこはナレンじゃなくて俺だったんじゃないか?」
「すいません、咄嗟の状況にいつもの癖が出てしまいました」
「無事に倒せたんだからいいじゃねぇか、アジフがヤツの気を引いたのはさすがだったぜ?」
「いや、あれはセッピが巧かった」
とりあえずの処理が終わり、馬車の
途中の小川で、馬たちに水を飲ませつつ昼食となった。昼はグラスヴァイパーの塩焼きだ。うまいんだよな、こいつ。
「まずまず順調だな」
「ええ、村まであと一息です。ドレイン・リーチの駆除は済んでいると聞いてますが、頭上の警戒も緩めないで下さいね。降ってきますので」
セッピが両手で身体を抱いて身震いしている。ゾゾゾったのか。
曇り時々ヒル、いやな天気だ。
「もう少しって時こそ気ぃ張れよ!」
「「「おう!(おー!)」」」
ナレンの檄とともに出発だ。
だが、休憩から出発した先の森は妙に静かだった。いつもはうろちょろするホーンラビットやフォレストウルフも姿を見せない。
「やな感じがするよ」
「同感だ」
セッピがさかんに周囲を気にする。しっぽがピンと伸びてさきっぽの毛まで警戒している。
この森の空気がいつもと違う感じ。ろくな予感がしない。馬たちも感づいたのか、神経質になっているようだ。
「グガアァァァァー!」
少し離れた森の中で何かの鳴き声と地響きが響きわたる。デカいな。
「行くぞ!」
馬車にムチが入り、隊列のペースが上がる。
<バキバキバキッ>
雑木をなぎ倒しながら馬車のやや後方に姿をあらわしたソイツは、4mほどもあろうかという巨大な灰色の熊だった。
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