Eランク冒険者



<シュルルルル>


 座禅を組み、手の上で連続でペンを回しながら魔力を回す。

すっかり定宿になった“王都の宿 ポム”の部屋でのことだ。王都に来てから3ヶ月が過ぎていた。


 この3ヶ月でペン回しは目覚ましい上達を見せていた。ひたすら回した結果、完全に無意識でできるようになってしまい、魔力操作の訓練にならなくなってしまった。ペン回しが上手くなっても意味がない。本末転倒だ。


 もちろん、そんな事ばかりしてたわけじゃない


「ステータスオープン」


  名前 : アジフ

  種族 : ヒューマン

  年齢 : 25

Lv : 17


  HP : 146/146(+10)

  MP : 49/49(+6)

  STR : 45(+4)

  VIT : 42(+3)

  INT : 20(+2)

  MND : 27(+2)

  AGI : 30(+1)

  DEX : 21(+4)

  LUK : 11(+1)


スキル

  エラルト語Lv4 リバースエイジLv3 農業Lv3 木工Lv2

  解体Lv4 採取Lv2 盾術Lv4(+1) 革細工Lv2 魔力操作Lv4(+2)

  生活魔法(水/土)剣術Lv4(+2) 暗視Lv1


称号

  大地を歩む者 農民 能力神の祝福 冒険者


 残念ながら、ペン回しスキルは得ていなかった。そんなスキルは多分無いのだろう。しかし、先日ついに“冒険者”の称号を得たのだ! やっと農民を脱出できた。長かった……


 Eランク任務をこなして、レベルも2つ上がった。しかもいままで不遇だったDEXがここにきて大幅アップした。これは日々のペン回しの成果だろうか。


 夕食の時間になったので食堂へ降りて行き、食事を取る。いつも通り食堂はガラガラだ。この宿に宿泊者は実のところ多いが、みな外で食べてくる。

 宿の主人がカウンターに頬杖をついてため息をついた。


「ウチのメシを毎日毎日食べるのはアジフさんくらいだよ」


「マズイからな」


 そう、この宿はメシマズなんだ。清潔な部屋、行届いたサービス、手入れのいい厩舎。にもかかわらず安い宿代には理由がある。


「その不味いメシを毎日食べるアジフさんなら何かいいアイデアあるんじゃないか?」


 ない事はないが、宿が繁盛して部屋が取れなくなったり、宿代が上がったら困る。


「アイデアでなんとかしようってのがダメなんじゃないか? 基本を見直すか、料理人を雇うかしたらどうだ」


「人を雇う金なんてないよ、宿代上げなくちゃならなくなる」


 それは困るな。


「料理人ではなく教えてくれる人でもいい、主人が腕を上げればいいんだからな。プロじゃなくてもその辺りの奥さんに頼んでもマシだと思うぞ」


「ウチの嫁は太鼓判押してくれてるんだ、よその奥さんになんか頼めねぇよ」


 そこがこのメシの元凶か。


「嫁さんの理解と協力が必要だと思われまする。ごちそうさん」



 華麗に戦略的撤退をして、部屋に戻る。


 朝の素振りと朝食を済ませ、道場へ向かうと、道場からはすでに訓練の音が聞こえる。朝の準備は住み込みの門弟さんたちがやってくれる。道場に挨拶をして入り、素振りから修練を始める。素振りが二度手間なのだが、時間調整で必要なんだ。


「やっ」<キンッ>

<カン>「はっ」

<ガンッ>


 すでに覚えた型は、声かけなく受けられるので、リズムよく進めていく。単調にならないように、つねに型を入れ換えながら続けていく。当然、寸止めも手加減もなしだ。刃引きの武器だが、骨折などは日常茶飯事だ。ポーションが水のようになくなる。


 道場の隅でコソコソしている影を見つけた。


「おはよう、ジリド今日こそ1本取らせてもらうぞ」


「昨日も相手してやったじゃねえか! せめて指南役から一本取ってからにしろ!」


「ほぅ? 言質は取ったからな」


 近くにいた指南役はコヒセミさんだった。


「ちょっと! ジリドさん!?」


「おや、コヒセミさん、いいところに」


「アジフさんはしつこいから嫌です!」


「照れないでいいですから、ほら、始めますよ」


 コヒセミさんが豪快に振り回す両手剣は、盾で受けれないし、容易に受け流せない。いい練習になる。



「アジフさんは殺気がぎらついて怖いです」


 コヒセミさんがそう言う。日常的に命を奪う冒険者と、王都で道具屋を営む違いだろうか。


「殺気を抑えて殺すにはどうしたらいいですかね?」


「殺すのは結果です。当然の様に最適の剣を振るい、結果として命を奪うだけです。まずは最適の剣に集中するといいですよ」


「おおー!」

パチパチパチ


 通りすがりのシメンズ師範代がさらにアドバイスしてくれた。


「強い殺気は相手に自分の動きを悟らせてしまう。アジフは見え見えだな。フェイントにも使えるが、殺気を剣に潜ませるのと同じくできなきゃ意味がない」


「さすが師範代」


「いや、おれも師範代なんだが?」


ジリドがなにか言ってるが無視だ。



 連地流には2人の師範代がいる。剣のシメンズ師範代と槍のジリド師範代だ。

師範はレイナード・テレルヒ。どんな武器でも使えるが、両手剣を得意とする。一度演武を見たが、ストップモーションのコマ送りみたいで意味がわからなかった。


ときどき、剣が分身したり消えたり燃えたり剣戟が飛んだりする。



宿題をもらったので、打ち込みから始めてみる。


まずは最適の剣を探してみる。


中国拳法や現代スポーツの動きをイメージするのだ。


大地を踏みしめた足から筋肉で力を増幅し、関節を螺旋の動きで伝わって、ねじれ、円を描き、手の延長となった剣でインパクトを――


「おうらあぁぁぁー!!」

<<ドカッ>>


「野生ですね」

「野生だな」

「野生だ」


「アジフ、お前当分打ち込みな」

「なぜだー!」



 修練だけでなく、依頼もこなさないと生活は続かない。


 Eランクの依頼はFランクの常設依頼のように数で件数を稼げることは滅多にない。

 出現頻度がとても低いレア素材魔物を大量捕獲でもしないかぎりは。


 そのため、一件一件積み重ねていっている。3ヶ月で処理した依頼は9件だ。剣の修練を優先しているので、少ないほうだと思う。


Eランク依頼は大まかに分けて


・Fランク魔物で数が多い

・Eランク魔物で数が少ない

・その他レアケース


に分けられる。


 Fランク魔物が多いケースはEランク魔物が混じることが多くて、金額も高めに設定されている。

 パーティ推奨な場合が多いが、依頼達成率100%を誇っているので強気に受注している。

 Eランクで依頼達成率100%は珍しくない。Dから上がるほど難しくなるようだ。


そんな中、今回選んだのはこちら


 ゴブリン集落の殲滅  Rank: E

 森にできたゴブリン集落を潰してください。

 ゴブリン集落:金貨2枚

 魔石は冒険者へ

 殲滅した集落を依頼者と確認。

 ジデン村 村長 アチス


 無心で剣を振れそうな依頼を選んだ。


 馬で片道2日の道程を進み、翌日から駆除にかかる。初日は集落から出ているゴブリンを潰していきながら、集落の状況を確認した。

 2日目には集落へ突入する。あまり日を置くと、気づかれて逃げられる。


 DEXが上がっても相変わらず当たらない弓で見張りをなんとか仕留め、集落の裏から仕留めて回る。


「グギャ?」

「……」


「ギャ!」

「……」


今回は殺気を抑え、剣を振ることに集中する。


こちらに気づくことなく切られていくゴブリン。普段なら騒ぎになっている頃だ。


「ググギャ!」


気付いたゴブリンのいた場所が剣の通り道だっただけ……


「ギャ」


殺すのは結果……


ぶはぁっ!


 物陰に隠れ息をついた。何だか暗殺でもしてるみたいだ。この戦い方、すごく向いてない気がする!

 未熟なのはわかるが、方向性が間違ってる気がする。とは言え、今は実戦の場。検討は後にしないと。


「ギャギャガー!」


 10匹ほど仕留めたところで、さすがにゴブリンが気付いて騒ぎになった。集まるゴブリンの中に跳び込んで行く、こっちの方が好みだ!


 とは言え、剣のイメージを修正しているヒマはない。ゴブリンのいる場所に最適の剣を通す。


「シッ」 「ギャ」

<カンッ>

 ゴブリンの武器の通り道に盾を置き、受け流した先と他のゴブリンを重ねる。


「ギャギャー!」「せいッ」


 お!? なんか噛み合ってきた?


「グギャギャ」

「ハッ」


マジシャンの火球など見え見えだ。

アーチャーの射線には他のゴブリンを挟む。

常に動いて狙いを絞らせない。



気付いた頃には動くゴブリンは数えるほどだった。



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