剣術修行


出現情報の多い方向へ荷車を引いて行き、森の入り口に置いておく。


 身をひそめながら辺りを探る。奴らは鼻が利くが、風向きは関係ない。気づいてもどうせ逃げないからな。森の端に沿って横移動していくと、森の奥に影が見えた。距離はあるが、かなり大きい。オークだろう。


 横移動を繰り返し徐々に近づいていくと、鼻を鳴らしてキョロキョロしている。気づかれてるな、こりゃ。


<ガサッ>

 ばっと物音を立て、姿を現して荷車の方向へ走ると……やっぱり追ってきた! 距離にして100mくらいか。

森の端に近いところまで戻り、剣を抜き木の陰から様子を見るとバタバタ走って追ってきている。それほど速くはないな。


 20mほどの距離になったところで、木陰から飛び出してオークへ向かって突撃した。


「フガァー!」


 一瞬、オークは “ギョッ”とした顔をしたが、すぐに牙を剥き棍棒を振り上げた。

だがすでに間合いの内だ。いまから振り下ろしても剣の方が速い。剣を振り抜きざまに太ももに切りつけ横を駆け抜けた。


「ブガァ! ブガッ!」


 手応えは十分、だがすぐに振り返り正眼に構える。オークの片足は両断され、地面で暴れていた。剣自体の重さと全身の力を乗せた新しい剣は、充分にオークに通用した。


だが、オークは地面に転がったまま棍棒をめちゃくちゃに振り回し近寄れない。

 棍棒の届かない位置で構えたままじっと待つ。こちらににじりよってくればその分離れる。


「ガ……」


 オークの怒り濁っていた目に恐怖が入り、ジリッっと下がった。今だ!

大きく踏み込んで首を落とした。


  片足で木に吊り下げ、血を抜きながら木陰に隠れ周囲を探る。オークは匂いに敏感だ。森の風上なので血の匂いがすれば仲間が来るかもしれない。


 森の中へ入り、しばらく様子をうかがっていると森の奥から2匹のオークがやってきた。かなり警戒しているな。

 血の匂いが濃いのか、こちらの位置までは掴んでいないようだ。

横を通り抜け、風下に回ったところでそっと距離を縮める。5mまで近づいたところで駆け出し、オークが “ギョッ”とした顔で振り向くが、その顔は今日2度目だ! 脇から剣を突き刺した。


「フガガァー!」


 すぐにオークを蹴飛ばして剣を抜くと、もう一匹が吠えながら棍棒を振り降ろしてきていた。

 脳天を目指し振り下ろされた棍棒を半身に回転しつつ盾で受け流し、そのままオークの腹を横薙ぎに振り抜いた。

 オークの腹から血が出るが、それほどの量ではない。こいつら腹の脂肪と筋肉が厚すぎて効かないんだよ!

 かと言って、身長も2m以上あるので頭も狙いにくい。お互いに距離をとり睨みあう。仲間をやられてオークの目が怒り狂ってる。そりゃそうか。


「フガガガガァァァー!」


怒り狂い、吠えながら棍棒を前に構え特攻してきた! これは避けられない!


「ガッ」


……避けられないが、大口を開けて突っ込んできたので、その口へ剣を突き刺した。

特攻するなら頭と急所守らなくちゃただの自爆でしょうに。



 その日はそれ以上のオークは現れず、荷車にオークを積んで村へ戻るととても喜ばれて、翌日から狩人のゼンドルさん親子が同行する事になった。


 ゼンドルさんの話を聞きながら、森の外周をオーク出現の多い方向に沿うように、徐々に奥へ進んで行く。血抜きと運搬と解体をピストンして、荷車の道を切り開きながら。


 4日目になるとオークの出現は無くなり、森の奥に作りかけの放棄された集落が見つかったところで依頼完了となった。3日間で駆除したオークは18匹に及び、近隣の村と王都に売る分までできたらしい。


 オーク素材と肉を王都に売りに行く馬車と共に王都に戻り、冒険者ギルドへ報告を済ませた。



「オーク18匹ですか! アジフさん凄腕なんですね!」


エイリさんはびっくりしていた。


「一度に相手したわけじゃないよ、パーティーなら集落を襲撃して殲滅できたかもしれない。結局逃がしてしまったからね」


「集落の駆除なら依頼料は跳ね上がりますし、Dランク依頼になりますよ。そもそも調査依頼もなかったんです、充分以上ですよ」


 褒められて伸びる子なのだ、もっと褒めたまえ。


金貨3枚の依頼料をもらい、ホクホクでギルドを出た。宿を取り、洗濯を済ませて、翌日は道具の手入れと消耗品の補給だ。冒険者も楽ではない。



 翌日に道場に顔を出すと、また例の女性に捕まった。この人いつ仕事してるんだ?


「おい、この間はなんで逃げた」


「逃げてませんよ、約束なんてしてなかったでしょう?」


「道場の外で話すって言ってただろ!」


「違うからって言ってたじゃないですか。ところでそろそろお名前をお聞きしても? あ、私はアジフと言います。Eランク冒険者です」


「ミジット、Dランクだ。アジフ、違わないぞお前に聞きたい事がある」


 そろそろ逃げられないか、仕方ない。


「そうですか、では伺いましょう。どんな用件ですか?」


「王都では見ない顔だよな? どこからきた?」


「フィア王国ですが」


「王都に来たのはいつだ」


「先週からですね」


「なぜ王都に来た」


ん? 質問がおかしな方向に行き出したな。ひょっとして見覚えがあってもどこで見たのか思い出せてないのか?


「ここで剣を学ぶためです」


「・・・・・」


「あの~?」


「悪かった、行っていいぞ」


首を傾げながら行ってしまった。満足しただろうか。



ミジットさんが行った後、周りで様子をみていた獣人の門人が話かけてきた。


「おい新人」


そりゃあ言われるよな


「はい、なんでしょう」


「ずいぶんミジットと仲がいいようだがどんな関係だ?」


「あなたと同じ、連地流の先輩と後輩ですね」


「ほぅ、とぼけるのか…いい度胸だ。今日の修練は特別にこのジリドがみてやろう。準備して道場に出な」



 その日の修練は過酷を極めた。槍使いのジリドの型の相手を果てしなくさせられた。


「ほらほら、反撃したっていいんだぜ?」


 迫るジリドの槍に反撃の隙なんて見えなかった、が、そこまで言われちゃ行くしかない!


「なら遠慮なく!」


槍の間合いに入り、柄を払い剣を振るう。


「おっ! いいじゃねえか」


 反動で戻る柄に剣が弾かれる。なるほど、この型にそんな意味が。何度も叩かれては立ち上がり、打ちのめされてはポーションを飲む。


「なかなか根性あるじゃねぇか! ミジットに色目を使うヒマがあったら鍛錬したらどうだ!」


「はぁはぁ…こっちは剣の修行に来てるんだ! 鍛錬に色事を持ち込むような連中には負けられねえんだよ!」


剣を振ってもかわされる。相手も疲れているが、こっちはすでにふらふらだ。


<バキッ>


「そりゃあお前のことだろ!」


吹き飛ばされて倒れるが、腕に力が入らない。脚だけで立ち上がる。


「ならこれはなんの鍛錬だ! そうやって槍を構えていろ! いつか必ず俺がぶちのめしてやる」


 ぶっ殺す。目線に本気の殺気を込めて四肢に喝を入れる。盾を小さく構え、全力の踏み込みから首筋へ斬撃を放つ。


<カン>

 思わず受けにまわった槍から狙い通りの軽い音と手応えが返ってくる。


「なっ!?」


 上半身の力を抜いたフェイントだよ!  力を温存して、最速で剣を切り返した斬撃を叩き込むつもりだった。だがその直前にジリドの身体が沈み込み、回転した槍があごを跳ね上げた。



 まさかその型にそんな使い道があったとは……


 そのまま意識を失った。

 

 

 翌日は身体が動かなかったので、宿でペン回ししながら魔力を練って過ごし、次の日も素振りで精一杯だった。


 2日休んでから道場に顔を出すと、再び激しいシゴキにあった。せっかく先輩方が時間を割いてくれているので、積極的にシゴキに参加するとしよう。


 再起動するのにまた2日かかり、再びしごかれに行く。この日は身体がよく動き、気絶する事なく鍛錬を終えられた。


 1週間で3日ものシゴキに付き合わされ、叩く度に起き上がられてはジリドも疲れがたまってきているようだ。そろそろ勘弁してやるか。


「依頼でしばらく空けるが、戻ってきたら再開するからな! 逃げるんじゃねえぞ!」


 道場から帰る前に捨て台詞を吐いてやった。ジリドはうんざりした顔をしていたが、


「生意気なことは1本取ってから言いやがれ!」


 と、吠えた。



 ほぅ? まだ生きが良いようだな? よしよし、帰ってきたら相手をしてやるとしよう。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る