アンデッド殲滅戦(後)
「何かあったか?」
戻ってきた俺をみて、不寝番が門の上の見張り台から声をかけてきた。
「休憩だよ、今夜の様子はどうだ?」
「今夜は静かなもんだ。あんたが森に入ってるからかもな」
「確かに、森の中はアンデッド祭りだ。時はわかるか?」
「夜の半ばまであと少しってとこだな」
「わかった、ありがとう」
パンと干し肉をお湯で流し込み、座り込んでいた腰をあげて、門番に手を上げ森へ戻っていく。あと半分ってとこか、気合を入れなおそう。
その後もアンデッドの波は途切れなかった。単調になりがちなほぼ作業だが、無心になってしまうと時々ジャイアントバットが現れる。
「キィ! キキ」
ジャイアントバットはアンデッドではないFランクの魔物で、噛みつくしか攻撃手段がないので落ち着いて迎撃すれば対処できる。
「おりゃぁ!」
だが、突然変わるリズムと、白いゴーストとの対比で見失ってしまう。だが緊張し続けても続かない。どこがFランク依頼なんだ!
どちらがアンデッドかわからないほどふらふらと森をさまよった。
そんな中、唯一の清涼材はスケルトンだ。カシャカシャした軽い音と、わかりやすい攻撃を練習台にする時に癒しを感じる。
<カイン!>
「パリィっと!」
ついに骨の魔物に安らぎを見つけてしまった。末期かもしれない。
いつまで続くともわからない、時間がどれだけ過ぎたのかもわからない中で、それでも確かに時間は流れているようで、ゴーストの出現が減ってきた。
すると、聖水の使用量も減ってきて、いままで一撃だった他のアンデッドに二撃、三撃必要になってくる。
「グ…ギ…ガ…」
ほんの少し増える手間が積み重なって体力を削っていき、体が悲鳴をあげる。いったいどれだけのアンデッドが出現し続けるのか。
水分がわりにポーションを飲み干し、重くなった剣を振り上げれば手元が狂う。
仕方ない、聖水を常時使おう。
「ホォォォォ」
そして忘れた頃にやってくるゴースト。時々確認していた鞘に残る聖水が残りわずかになった頃、夜が明けた。転がり込む様に村に戻り、門の横にへたり込んだ。
「おつかれさん」
不寝番の門番が声をかけてくるが、返事をする気力がない。手を上げて応えておく。一休みしてから朝食を取り、村長宅へ向かった。
「依頼完了しました」
依頼書を差し出した。
「もう終わったと?」
「森の中はアンデッドだらけでしたので、普段の様子はわかりませんが、Fランク依頼の範ちゅうではなかったですね」
「じゃからギルドにはパーティ推奨と伝えていたはずだが?」
そう言った村長に昨晩の成果の魔石を鞄から出し、ジャラジャラと転がした。
「ジャイアントバットが数個混ざってますが、70個以上あります。これでもFランク相当だと?」
「これを一晩で?」
「ええ」
村長は考え込んでしまった。
「うむ、確かにこの量はおかしいですな。じゃが、これだけ討伐すればかなり減ったと思う。そこで頼みがありましてな。もう何日か森の様子を見てくれないじゃろうか。もちろん依頼料は払いますので」
あれをまたやれと。お断りしたい。でも、条件次第では譲歩できるかも。
「1日につき夜の半ばまで。魔石はこっちに下さい。あと、消耗品が心もとないので聖水を村負担で補充してください。ポーションはお金を払います。それで1日銀貨5枚。この条件ならやります」
「夜の半分で銀貨5枚と聖水か。悪くありませんな。とりあえず3日ほどお願いできますかな?」
「3日だと保存食が足りないです。食料を分けてもらえませんか?」
「わかりました。小屋まで運ばせましょう」
「では受けます。差し当たって、聖水が2瓶欲しいです」
「食料と一緒に届けるようにしますじゃ。よろしく頼みましたぞ」
交渉成立。そして限界だ、眠い。小屋にもどると、倒れる様に寝てしまった。
目を覚ますと、すでに夕方になっていた。遅刻してしまう。手早く装備を整え、門番にあいさつをする。
「今日から3日間、夜の半分まで森に入ることになった。戻ってきたら中に入れてほしい」
「村長から聞いてるよ。夜番の交代の時に門を開けるから、少し早めに戻ってきてくれ」
「ああ、わかった」
さて、今夜も夜勤と行きますか。
森の中は今夜もアンデッドでいっぱいだった。しかし、昨日と違い昼間休んでいたし、聖水も遠慮なく使っている。湧き続けるアンデッドを淡々と処理する。主な流れはこうだ。
①見つける
②近づいて魔道具で照らす
③嫌がって避ける隙に切りつける
ライトの魔道具の光を嫌がるのは光属性だからだろう。作業が最適化され、身体が勝手に動く。
稀に空中に影が走ればジャイアントバットだ。しっかり引き付けて両断する。
翼が素材だったはずだが、魔石以外の解体はしていない。夜の森で視界を狭めればアンデッド共の餌食だからだ。
聖水鞘が軽くなってきたところで村に戻った。小屋で数えると魔石はジャイアントバットを含め29個だった。装備の手入れと食事をして、しっかりと休みを取った。
翌日も夜勤だ。すでにジャイアントバットも音だけで切れるようになってきた。照らすために必死で明かりで追いかけていたころが懐かしい。
夜の森ももはや歩いていて不安な感じがしない。慣れは油断を生む、気を付けよう。あいも変わらず湧いていたアンデッドだが、夜が深くなる頃にピタリと出なくなった。
「とうとう打ち止めか?」
俺はやり遂げたのか? いいや、こういう時こそ気を付けなくては。
気持ちを切り替えて集中を上げ、警戒を再開する。しばらくすると、森の開けた一画の真ん中に、一匹のグールかゾンビかわからないが、月光に照らされて立っていた。
こちらに背を向けているが、いままでのアンデッドより大きい。上位個体と思われる。
事前に調べた情報では、この辺りの野良上位アンデッドはEランクのレブナント、Dランクのレイスがいる。
おそらくはレブナント。初見だが、Eランクなら行けるはず。 森の切れ目で構え、ソイツに向かって駆け出した。
グールよりも素早い動きで振り向いたその顔にライトの明かりを突きつける、が構わず腕を振るってきた。
「なに!?」
<ガシャンッ>
振った腕が魔道具を叩きつけ、ライトの魔道具が壊れてしまった。
「それ高いのに!」
おのれ、許すまじ。だが、幸い月明かりに照らされた一画は十分に明るい。だからこそ見えてしまった。森の中から現れる3匹のグールが。
撤退か? いやレブナントは足が速い。暗い森の中では危険すぎる。お互いに間合いを詰めればあっという間に交戦距離になり、少し遠い間合いで身を沈め足に切りつける。
「やッ!」
「グ、キガ…」
飛び退いてかわされてしまったが、返す剣で近づいたグールの一匹を仕留めた。
グールやゾンビは攻撃を避けるなんてしないで突っ込んで来るだけなのだが、さすが上位種だ。
「はぁっ!」
しかし、グールは仲間がやられてもお構い無しに迫ってくる。退がりながら上段から唐竹割に、だが、迫るもう一匹とその背後にレブナントが見える。
「てりゃあ!」
下に振り切った反動から低い姿勢でグールを蹴り飛ばし、レブナントにぶつける。さらにたたみかけたいところだったが、一度距離を取り剣を鞘に納めた。
さっき真っ二つにしたグールが崩れなかった、聖水切れだ。もう一度剣を抜き、濡れた剣身を確認。
レブナントがグールを跳ね除け、こちらに走って来ている。1対1なら好都合だ!
正面から向かい合い、上段から切り降ろす。見え見えなので当然かわされるが、こちらも予定通り。避けた方向へ剣筋を強引に曲げ、受けようとした腕を切り飛ばす。
だが、そんな事はお構い無しに反対の腕を振り降ろしてきた。バックステップするが、鋭い爪が鎧をかすめる。
まったく、アンデッドはリアクションが無いからやりにくい。だが、片腕ではさすがに隙だらけ、剣を振り込もうとして
「おっとッ」
グールが立ち上がって迫って来ていた。横っ飛びでかわし、立ち上がり様に横薙ぎに両断した。さらに迫るレブナントへ切り返したが避けられた。
「おりゃぁ!」
すかさず、一歩踏み込み、前に出た足でもう一度、腕ない方に踏み込んで、横っ飛び気味に横薙ぎに切りつけた。
横腹の半ばまで剣が突き刺さると、レブナントも崩れていった。
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