アンデッド殲滅戦(前)


 聖水を2瓶追加で購入し、教会を出た。

念の為ステータスを確認すると、称号の欄を見て思わずにやついた。


(メムリキア様、イビッドレイム様ありがとうございます)


 称号にあった“異世界よりの来訪者”が“大地を歩む者”に変わっていた。この世界の住人として認めてもらえたのかな。称号の効果はやっぱりないみたいだけど。


 その後、市場へ行きマッス村のジフトンさんを探して依頼票を見せ、明朝一緒に馬車に乗せてもらう約束をした。

 ポーション類も薬屋で購入し、翌朝空荷となった馬車で村へと向かう。道中に一度コボルトが現れたが馬車の上から弓を放つと、当たらなかったが散っていった。



 日も暮れようという頃に、マッス村へ到着した。村長の家を訪れ、依頼票と冒険者プレートを提示する。


「お一人ですか、大丈夫ですかな?」


 村長はやや訝しげな様子で尋ねてきた。


「慎重に行動するつもりですが、日数をいただくかもしれません」


「どのように過ごすおつもりかお聞きしても?」


「明日、日中に森の様子と周囲の地形を確認するつもりです。おそらく夕食を取ってから討伐に出ると思います。夜間に門は通れますか?」


「村の北と南の2つの門に不寝番を立てておりますな、北門は夜は閉じておりますが、南門は声をかけてもらえれば開けられます。周囲に危険が無ければですが」


「村のどこかに野営をする許可を下さい」


「小屋がありますので、そちらを使ってもらってよいですぞ。後で案内と、今夜の食事を運ばせましょう」


「おお! それはありがたい。ところで、来る途中コボルトを見ましたが、村の周辺はどうですか?」


「うちの村は牛も羊も飼って無いので、それ程でもありませんな」


「なるほど」


 案内された小屋は、小さいながらも必要十分な設備の整ったものだった。このすべてが手の届く感じ、すばらしい。こんな家が欲しい。


 食事をもらい、装備の手入れと準備をする。アンデッドの出現は夜がメインだが、昼間も少数出現するので準備はかかせない。



 翌日はしっかりと寝坊して、村の周辺の調査から始める。

森に入るとすぐに何かの気配がする。


「グルル…」


 唸り声を上げていたのはコボルトだった。村長さん、報告は正確にお願いします。


 二本足の犬が棍棒を持って迫ってくる。大きさはゴブリンと大差ない、ほんの少し小さいかも。今日は盾を持っていないので、いつもの盾を前にして斜に構える形ではなく、剣を前にして斜に構えている。


「フッ」


 間合いに入る直前、コボルトが攻撃の為に棍棒を振り上げたので大きく踏み込んで突きを放った。

 

「ギャウッ」


 狙い違わず喉元に突き刺さり、踏み込んだ足で大きくバックステップして剣を引き抜く。冬の間に見たレイピアの動きをまねてみた。

 もう一匹が攻撃してきた棍棒を、剣で打ち払おうとして棍棒ごと頭を切り落としてしまった。


 ゴブリンよりも動きは速いが、力は弱いな。フォレストウルフより遅いが武器を使う、と言ったところか。

 証明部位の右手首と魔石を取って、袋に放り込む。


 暗い中でも動けるように周辺の地形を見ながら回っていると、時々コボルトに遭遇する。あと、薬草が豊富だ。普段森に入っていない様子が見て取れる。周囲を一周したら採取をしてもいいかもしれない。


 しかし、コボルトに出会い続け、森を一周した頃には日が傾いていた。総勢12匹だ。村に近い森としては異常に多い。村長に報告しておこう。


 早めの夕食を取り、夜戦の用意をして門が閉まる前に村の外へ向かった。


「これから夜の森に入る。何かあったら戻ってくるからよろしく」


「わかった、気を付けてな」


 門番にあいさつをして、森へ向かった。装備は左手にライトの魔道具。剣は聖水鞘に入れている。ライトの魔道具は前方範囲のみ照らすようにフードを取り付けた。


 森に入り、しばらくすると<カチャカチャ>と音がする。これは来たな。

夜の森で明かりに照らされたのは剣を持った骨だった。


 覚悟はしていたが、想像以上に心臓に悪い。


「キンッ」


 スケルトンが振り下ろす剣を弾く、手応えが軽い。すぐさま横薙ぎに振るうと骨はバラバラに崩れた。


「弱いな」


 速さはそれなりだが、力は弱いし一撃が軽い。何より脆い。骨の山から魔石を拾い、鞄に放り込む。


 剣はいつの時代の物なのか、かなりボロいが森に捨ててコボルトあたりに拾われても面倒だ。一か所にまとめて置いて後で回収しよう。


 しばらく森を進むと、森の中に人影が見えた。明かりで照らすと、ぼろぼろな服に肉の腐り落ちる頭、眼窩は虚ろ、ゾンビかな?明かりを嫌うように後ずさったので、近寄って剣を振るうと崩れ落ちた。


「弱すぎじゃない!?」


 その後もゾンビを倒していると、4匹ほど倒した頃に、切りつけても崩れない個体に出会った。


「はッ」


 頭を落とすと動きは止まったが、それでも今までの様には崩れない。魔石を取り出すと身体が崩れ落ちた。


<ガサッ>


 後ろで音がした。コイツらは気配を消したりしないのでわかりやすい。

振り向くとゾンビ……だが、今までのヤツより速い!が、一直線に突っ込んできたのでそのまま袈裟切りに迎え撃った。


「ガ…ガッ」


 胴体がずれ落ちるが、まだ動いている。口には牙が生えていて、噛みつこうとしているが、剣で地面に縫い付けると動きを止めた。コイツがグールか。


 ゾンビより動きは速いが、力は弱い。グールの爪や口には麻痺毒があり、麻痺すると生きながら食べられてしまう。同じFランクでもグールの方がはっきりと危険だ。倒すのは楽だが。


 夜が更けるにしたがって、数が増えている気がする。周囲を見渡すと宙に白い影が見えた。ゴーストか!

 剣を一度鞘に戻し、聖水を含ませてからもう一度抜く。


「ホォォォォ」


意味不明な声を上げながら飛び回る。動きが速く不規則だ。釣られて動くと隙をつかれそうだな……近づくまで待って……今!


「ヒィィィ」


剣で切り裂くと、叫び声ともなんとも言えない声を上げて霧散し、魔石が落ちた。


「え!? ちょっと?」


 魔石を地面で探さなくちゃならない。面倒だ。

幸いすぐに見つかったので周辺の警戒に戻ると、すぐにグールを見つけた。


「やっ!」


 切りつけると、一太刀で崩れ落ちた。あれ?


「あ!ひょっとして聖水の効果か!」


 聖水のご利益すごいな! だけど、聖水の量は限られている。ゴーストには必須だし、使わないで済む時は使わないようにしよう。


 そう思っていたのだが、夜が更けるにしたがってゴーストの出現頻度は上がっていった。


 ゴーストが出れば聖水を使う、聖水を使えばアンデッドは簡単に倒せる。その循環が出来上がり、討伐が単純作業になっていく。

 アンデッド討伐は想像以上に大変だ。確かにアンデッド一体一体の強さはさほどでもない。だが、この単調さが罠だ。一回でも失敗すれば命が危険なのに、緊張感が薄れていく。

 

 そして数が多すぎる。もう何体倒したかわからないのに終わりが見えない。一時撤退するべきだ。

 そう判断したときに、ゴーストが出現した。


「ホォォォォ」


これを倒したら村へ一時撤退しよう。

鞘から剣を抜き、ゴーストを引き付けて振りぬいた。


「ヒュヘェェェ」


 剣はゴーストをすり抜け、ゴーストが身体をすり抜ける。それと同時に身体に悪寒が走り、力が抜けて膝をついた。


「な、何が…はっ!聖水切れか!?」


 すり抜けたゴーストが戻ってくる。確認しているヒマはない。剣を手放し、鞄の中の聖水を出して……もうゴーストが近い 。剣に塗ってるヒマはない!


 蓋を口で引き抜き口に含んで噴き出した時、ゴーストは目の前だった。


「ヒィィィ」


 聖水をかけるとゴーストが消え、ステータスを確認するとMPは31/40となっていた。生活魔法も少し使ったので正確なダメージはわからないが、MPはHPより低いので大きなダメージには違いない。


 剣を鞘にしまって抜いてみると、濡れた感じがしない。やっぱり聖水切れか。

少し減った残りの聖水を鞘へ注いで一度村へ戻る事にした。



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