冬季合宿


 キジドレ村にきておよそ半年も過ぎ、そろそろ秋も深まろうという頃についにその時がきた。


「アジフさんおめでとうございます。Fランクへの昇格基準に達しました」


「よっっっしっ!」


 苦節半年、永かった。

もともと金策で始めた事だったのだが、切りのいい目標としてFランク昇格を掲げていたんだ。


 キジドレ村の森で過ごす日々は当初魔物との戦いの日々だったのだが、最近では魔物の数が減ってきて稼ぎが悪くなっていた。

 それに加え、気温が下がり始めると薬草も減ってきて、ギリギリのタイミングだった。


銅色になった冒険者プレートをもらい、イルラクの冒険者ギルドを出た。



 最近のキジドレ村は魔物被害がすっかりなくなり、頻繁に魔物肉を差し入れていたので保存食作りもかなり余裕があるらしい。


 しかし、当初の目標だった図書館には全く行けていない。 獲物がいる季節に稼いでおいて、雪が降って獲物が減り、移動もつらい冬に街に籠る事にしたんだ。


 たまに泊まって、顔馴染みになった宿に長期宿泊を申し込む。一ヶ月連泊で一泊朝夕食事付きが1日銀貨5枚から銀貨4枚になる。20%OFFだ。料金は先払いで途中キャンセルしても返金はないが。


 宿に荷物を預け、エマに乗ってキジドレ村に一度戻った。


 エマを春まで村の牧場で預かってもらうためだ。街に連れてきても運動できないし、厩代高いし、冬に乗馬したくない。寒いから。


 定宿をナキへ教えておいて、翌日イルラクへ歩いて戻った。


この半年魔物と戦い続けレベルもずいぶんあがった。


  名前 : アジフ

  種族 : ヒューマン

  年齢 : 37

  Lv   : 13


  HP : 126/126(+25)

  MP : 37/37(+15)

  STR : 38(+6)

  VIT : 36(+6)

  INT : 16(+3)

  MND : 23(+3)

  AGI : 28(+5)

  DEX : 15(+3)

  LUK : 9(+2)


スキル

  エラルト語Lv2 リバースエイジLv3 農業Lv3 木工Lv2(+1)

  解体Lv4(+2)採取Lv2(+1) 盾術Lv3(+1) 革細工Lv2 

  魔力操作Lv1 生活魔法(水/土)剣術Lv2(+1)


称号

  異世界よりの来訪者 農民


 半年で驚愕の4レベルupだ。キジドレ村の周囲はEランクの魔物がそこそこいたので、効率がよかったんだと思う。その分苦戦はしたけれど、内容が濃かったせいかスキルも軒並み上がっている。


 弓もかなり使ったせいか、DEXもそこそこ上がっているようだ。やっぱり、先制で遠距離攻撃は便利。あれこれ手を出したせいか、ステータスが平均的に上がるようになってきた気がする。

 訓練すればその分鍛えられるって事だとすれば、手先の訓練もした方がいいのかもしれない。残念ながら弓スキル得られなかった。


 あと、そろそろ農民以外の称号がついてもいいと思うんだが、その気配はまったくない。どうしてなんだろうか。


 ともあれ、これでいよいよ4ヶ月ほどの冬休みの始まりだ。働かないでいいってなんでこんなにワクワクするのか。図書館には行かなくちゃならないけど。



 朝に剣の素振りをして、図書館へ向かい、夜魔力の訓練をして寝る。そんな生活を1週間ほど過ごした頃だ。


「飽きた…」


 悩んでいた。



  図書館でまず調べたのは、魔法の取得方法だ。魔法を取得する最も一般的な方法は「魔術学院で学ぶ」。次が「魔術師の弟子になる」だ、そうだ。

 魔術学院は12歳以上14歳以下のみ入学可能で、15歳以降は入れないらしい。これはスキルの成長が早い若い時期に修業するためだとか。

 具体的な方法は書いてなかったが、平均で1年ほど毎日のように1日中魔力操作の修業を、専門の教師の下で行い声に魔力を込める訓練をする。

 “魔術言語”を魔力を込めて唱えられると、「詠唱」のスキルを取得できる。魔術言語で「呪文」を「詠唱」すると、自分に適合した属性の魔法が取得できるようになる。


 回復魔法は、教会または神殿で下働きとして働くか、ある程度以上の布教を行うなど信仰が認められると「洗礼」が許される。

 洗礼された者が魔力を込めて、教会なら光の聖句を唱えると「祈祷」スキルが、神殿なら闇の真言で「祈祷」スキルが取得できるそうだが、こちらも魔力を声に込める魔力操作の修業が求められる。

聖句、あるいは真言で「呪文」を「祈祷」すると、教会なら光魔法が、神殿なら闇魔法が獲得できる。そのための「神学校」もあるそうだ。

 闇魔法はイメージと違い、回復魔法に分類されている。より強い回復は光魔法のほうが得意だが、闇魔法は「眠り」「麻痺」「障壁」などの補助魔法が豊富だとか。

 光魔法を獲得すると「司祭見習い」、闇魔法を獲得すれば「神官見習い」の資格を得るのだそうだ。


 正直、魔法ナメてた。

生活魔法みたいに「えいっ! やっ!」って取得できると思ってたよ。スキルの習得が早い若い子が1日中訓練して平均1年って何!? 寝る前だけじゃダメなのか!?


 魔力操作のスキルレベルが上がらない理由がわかった気がした。


 ふてくされて雪がうっすら積もった街を歩き、暇つぶしにギルドへ来てみた。何か気晴らしになりそうな依頼でもないかとぼんやり掲示板を見ていると、受付から声をかけられた。


「アジフさん、お暇ですか?」


「お暇です」


「冬になると働かないダメな冒険者のための訓練があるのですが、いかがですか?」


 にっこり笑って言いやがった。受付嬢は美人が多いだけによく刺さる。


「どんな訓練なんだ?」


「戦闘訓練と、冒険者技能訓練です。どんな訓練があるかは、その日の教官によります。教官はギルドが依頼した上位冒険者です」


 上位冒険者に教えてもらえると! それはいい!


「ただなのか?」


「半日で銀貨3枚です。教官と訓練内容は前日に掲示板に告知していますので、希望するなら朝ギルドへ来て下さい。明日は…Bランク冒険者のギュンテルさんの剣と、同じくBランク冒険者のニッコウトさんの弓ですね」


 半日銀貨3枚、結構するな。だがこれはいい機会だ、是非とも参加しよう。


 翌日装備を整えてギルドへ向かった。剣の訓練参加者は5名。年齢がバラバラの少年が3人に、20代ほどの若者が1人。そしておっさんが1人。


「おっさんも参加者か? 無理しないほうがいいんじゃねえか?」


 少年の一人が話しかけてきた。


「おっさんも無理はしたくないが、それ以上に死にたくないんでな」


「そうかよ、せいぜい頑張るんだな」


 どうやら年上を励ます優しい心の持ち主らしい。ギルドの職員と一緒に2人の冒険者がやってきた。訓練が始まるようだ。


「今日の訓練を始めまーす! 剣の参加者は自分にあった木剣を選んでください。弓の参加者は練習用の矢を持って的まで移動してくださーい!」


 ギルド職員の指示に従って木剣を選ぶ。見た目に反して重く、剣身に革がかぶせてある。鉄心でも入っているようだ。


「Bランクのギュンテルだ、それぞれの実力を見たい。順番は構わないからかかってきてくれ。同時でもいいぞ」


 ギュンテルは上背があり、がっしりとした体格の堂々たる剣士だ。両手剣の木剣を片手で持ち、いつでも来いと構えた。


「やぁ!」


 少年の打ち込みを片手で受け、軽くさばく。方向を変えた打ち込みも事も無げに受け切る。大振りになった一撃を剣で巻き込んで弾き飛ばし、少年が倒れこんだ。


「一撃が軽い。手で振るな。踏み込みと全身の力を剣に伝えろ。素振りからだ、次!」


 青年が横薙ぎの斬撃を繰り出すが、<カィンッ>と軽い音をたて剣が飛ばされた。


「見え見えの力のないフェイントは相手に利用されるだけだ。流れのないフェイントも殺気のないフェイントも無駄だ。次!」


 これは役者が違うな、胸をかりるつもりで全力で行こう。まずは相手の剣を狙い全力で巻き込むような切り払い


<ガンッ>音をたてて剣が弾かれる、のは予定通り。1歩踏み込み受けた剣の下に、盾を肩ごとねじ込んで――そのまま潰された。


「駆け引きもフェイントもねぇ、力づくすぎだ。次!」


 2巡ほどした後、それぞれにアドバイスをくれる。


「あんたの剣は典型的な魔物を相手にした剣だ。一撃の重さはいいが、技術がないから人には通用しない。そのままじゃいつか人に殺されるぞ」


「どうしたらいいですかね?」


「人を相手に訓練するか、殺し合うかだな。師匠を見つける、道場に通う、戦争に行く、闘技場に参加する、そんなとこだろ。正直、あんたの歳じゃどれも厳しい。剣を捨てて人と争わないのがオススメだ」



ですよねー



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