拠点設営


 冒険者との戦いで臨時収入を確保したが、余裕はまったくなかった。防具の完成を待つ間、安い宿屋に移り、図書館に行ったのだが


 地理/政治/宗教/経済/魔物/武術/スキル/魔術


 と、片っ端からナナメ読みしたが正直時間がまったく足りない。図書館も意外とお金がかかる。入館時に取られる保証金金貨2枚は退館時に帰ってくるが、それ以外にも銀貨1枚が必要だ。

 一通り読むにはかなり時間とお金が必要だ。 それに加えて宿代と厩代がかかる。このペースでお金を使っていたら、たとえGランク依頼をこなしたとしても赤字になってしまう。


負のスパイラルから脱出する経営再建策は二つ思いつく。


候補①エマを手放して安宿でコツコツGランク依頼


候補②村人から出直す



 まず候補①

一見地道に思えるが、かなり危険な選択だ。


社会カースト底辺のGランク冒険者でおまけに36歳。自分より弱い者を喰いものにしようとする連中の前に、ネギ背負って鍋にされに行くようなものだ。


と、いうわけで消去法により②となる。


村はなんといっても、稼ぎになりそうなところ。条件としては


・街から馬で半日圏内

・街道から外れている

・魔物の出現情報がある


 などで、すでに候補は絞ってある。イルラクのギルドでオークの討伐依頼が出ていた“キジドレ”という村だ。ちなみにオークの討伐難易度はE。


数日図書館で過ごし、防具が出来上がったら早速向かってみるつもりだ。


 防具を受け取り、キジドレ村に向かう前に木工用具とテントを買っておいた。木工用具は村に長居するなら必要になりそうだ。


 キジドレ村までは馬で半日弱。深い森の端にある村で、広くとられた堀と柵の内側に畑と牧場があり、頑丈な木塀に囲まれている。守りの堅そうな村だった。


 見張りが櫓に上っており、門へ向かうこちらを見つけた。手前で馬を降り、見張りに手を上げる。


「誰だ? この村へなんの用だ?」


「Gランク冒険者のアジフと言います。この村の村長へ滞在の許可をもらいに来ました」


「滞在? なんのためだ?」


「魔物の狩りと薬草の採取です」


「ふぅん? ちょっと待ってな」


見張りは櫓を降りると、しばらくして村長らしき人物を連れてきた。


「お前さんか? 魔物を狩りたいっちゅう冒険者は?」


「はい、Gランクのアジフと言います」


冒険者プレートを渡すとちらっと確認し、戻してくる。


「Gランクじゃ魔物討伐はできんじゃろ。それにもしオークを倒しに来たんなら、一昨日他の冒険者が退治していったぞい」


「討伐しても依頼にカウントされないだけです。オークを倒しに来たのではなく、しばらく滞在して薬草の採取や魔物の駆除をしたいので」


「うちの村には宿屋もないし、よそもんにうろつかれてもぶっそうじゃ、帰ってくれんかの」


「迷惑はおかけしません、村の外に置いてもらっても大丈夫です。ただ馬だけは預かってもらえれば、必要なら厩代も払いますので」


「…うむ、そこまで言うのなら馬ぐらいなら預からんでもないがの。馬は牧場に預けてくれればかまわんぞ。ただし、村の中には入らんようにな」


 おそらく村長はこう考えているはずだ。「村の外でGランク冒険者がくたばったところで、馬が手元に残るなら悪くない」、と。エマには悪いが馬質になってもらおう。


「ありがとうございます! 村の人へ柵の外に冒険者がいると伝えてもらえれば助かります、特に狩人の方に」


 牧場へ案内してもらい、エマを預けた。交渉の結果、1日銅貨30枚で預かってくれることになった。


 さて、村には泊まれなかったので、寝床を確保しなければならない。村から適度に離れた距離で、水場が近い場所を探す。あまり水場と寝床が近すぎても危険だ。


 水場近くの森があったので、枝ぶりの良い隣り合った広葉樹3本に丸太をかけて、ロープで縛り三角形の足場を作った。丸太は周囲の木を切り倒した物だ。邪魔な枝と幹を切り払い、かろうじて横になれる足場を確保する。


 ロープが全然足りないし、火も焚けない。どうしよう。


 それだけで日が暮れてしまったので、地面で火を焚き食事にした。夜は木の上で夜通し木工作業だ。夜中に1度ゴブリンが登ってきたが、両手が使えないところを突き刺して落とした。


 日が昇ると、食事をして、最後のロープを使って簡単な鳴子を作り、落下防止のロープを身体に縛って日中に睡眠を取った。

 日が沈む頃に起き出し、周囲の木の切り払いから始める。完全に夜勤体制だ。三交代シフトの元工場勤務の目が冴えわたる。


 夜の森に斧の音が響き渡るが、近所に人はいないので気にしない。ただ、魔物にはよく聞こえたようで、定期的に襲撃があった。上から明かりの魔道具で照らし、夜中でも戦いやすいように工夫した。


 丸太には切れ込みを入れ、ずれないように並べる。邪魔な枝と周囲の木を切り払うと、森の中の開けた空間に孤立したツリー床が完成した。高さは3mほど。


 今日も日が昇ってから寝にかかる。夜勤シフト継続だ。テントを張るには床がデコボコすぎるので、背負い袋とマントでゴロ寝するが、背中が痛い。それでもなんとか寝付いて、すぐの頃だと思う。


「おーい」


下から声が聞こえた。

上から覗くと、村の狩人の様だ。念の為武器を持って下に降りた。


「どうしました?」


「どうしましたじゃねぇよ! 夜中に森の中から音がするってんで様子を見にきたらこんなもんができてるじゃねぇか!? お前が村に来た冒険者なんだろ? どうなってんだ?」


「ああ、うるさかったですか?それはすいません。冒険者のアジフと言います。村に泊まれなかったので採取の拠点を作っていたんですよ」


「いや、遠くで音が響くくらいだったが、気味悪くてな。夜中はやめてくれ。しかしコレどうなってるんだ? 噂に聞くエルフの作る家みたいだが」


 エルフの樹上ハウス! 見てみたい!


「そんな立派なものじゃないですよ、家というより見張り台ですね。登ってみます?」


「いいのか? おお! なんかこう…ワクワクするな」


 やっぱりか!? 男に生まれたらいくつになっても秘密基地は基本だ。たとえそれが異世界であったとしてもわかりあえるらしい。


「わかりますか」


手を差し出す。


「当然だ」


強く握手した。


「で、これは完成なのか?」


「あとは床をならして、できれば板を張りたいですが材料が無いですね。登りやすい枝と幹を落として、ハシゴを作るとこまで予定してます」


「…村から板をもらってきてやるよ。おめぇも手伝え」


「お金払うので縄と箱も欲しいです。ですが、村に入らないように言われてまして」


「村長に話つけてやる。オレはナキ、狩人だ。かたっ苦しいしゃべり方するな」


「そう…か? じゃあ、改めてアジフ、冒険者だ。よろしく頼む」


もう一度固く握手をした。



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