白い粒々


 明るくなってきた頃に一度水場に戻り、エマに水をのませ、街道へと戻った。


「ふわ~」


(日が昇る前が一番眠いんだよな~)

久しぶりの徹夜だが、若返ったせいかずいぶん楽に感じる。


 馬の背に揺られていると余計に眠く感じるが、しばらく進み森が1度途切れると橋のない浅い川があったり、グラスヴァイパーって初見の魔物の襲撃があったりと眠る暇などなかった。


 グラスヴァイパーは毒を持った5mほどの蛇の魔物でEランクだ。毒で弱らせた後、巻き付いて攻撃してくる。地球にいたら超危険生物だが、コイツの対処法ははっきりしているし、難しくもない。


 それは“解毒ポーションを用意する”だ。噛まれたところで首を落としてしまえばいい。 幸いにも盾で受け止めて噛まれはしなかったが。


 取れる素材は皮と毒袋だが、解体の手間より移動の時間が惜しかったので、魔石と肉だけ確保した。

 感動的だったのが、剣術スキルの補正だ。動作の角がとれて、スムーズに動けるようになった。いままでどれだけぎこちなかったか、今ならよくわかる。


 2つ川を越えて、水辺で昼食を取っていると馬車とすれ違った。ポワルソへ向かう乗り合い馬車だろう。馬車はそのまま通り過ぎたが、護衛なのだろうか、馬に乗った冒険者らしき人物が話しかけてきた。


「よう、街道の様子はどうだい?」


「水辺でヴァイパー、森でゴブリンとウルフだった」


 串に刺したグラスヴァイパーを馬上へさし出す。塩で焼いただけだが、これ、美味い。


「この先の森でゴブリンとやった。ついさっきだ」


「ああ、そりゃ助かる」


グラスヴァイパーをほおばり手を上げて去って行った。


「さて、」


 この先の魔物が掃除されているなら距離を稼いでおいた方がよさそうだ。腰を上げて先を急ぐ。


 その後、途中で1度ゴブリンと戦闘があったが、日暮れ前には次の村へ到着できた。徒歩で3日の道程を2日で来れた、疲れ方も全然違う。エマのおかげだ。首筋を撫でて労わってやり、馬を降りて宿へ向かった。



 睡眠不足もあって、翌日は爆睡してしまった。起きたら昼前になっていた。

宿の食堂で昼食を取り話を聞くと、イルラクの街まで馬なら半日でつくらしい。今からなら門が閉まる前には到着できる。準備を整え、街へ向かう事にした。


 村を出る前に、ここでも少年が薬草を売っていたので話を聞いてみた。


「薬草をもらいたいんだが」


「お、ありがとう! どれくらい要る?」


「いくつまで売れる?」


「今あるのは130束だね、50か80か130で頼むよ」


「130で頼む。この辺りはまだ薬草が取れそうか?」


「まいどあり! 村の周りはあんまり残ってなくてさ、この季節ならしばらくしたらまた採れると思うけど」


「そうか、ありがとう」


 少年に代金を支払い、エマに積んで街を出た。


 村を出て森を一つ抜けると、すぐに畑が見えてきた。所々に集落も見える、馬で半日と聞いたが意外に民家が近い。

 丘を越えたところに見えたイルラクは想像以上に大きな街だった。高台には立派な城が立ち、広い市街地を更に広い外壁が囲っている。もう街じゃなくて都市だ。外壁の外にも、建屋はみすぼらしいが、それなりの規模の市街地ができている。


 交通量も増えてきて、街道がにぎやかだ。混雑する街道にペースが落ちてしまい、門についた頃には夕方になってしまっていた。


 衛兵に冒険者ギルドの場所を教えてもらい、街並みを進むと獣人を見かけた! それ程たくさんいる訳ではないが、ちらほらとは見かけるようだ。種族はざっと見ても犬っぽいの、猫っぽいの他、様々だ。兎耳は残念ながら見かけなかった。


 ギルドへ到着し、馬をつないで馬番の少年に大銅貨を渡す。こうすると勝手に連れていかれないように見ててくれる。

 馬番の少年に買取りカウンターの場所を教えてもらい、魔石と素材と薬草を買い取ってもらった。


「魔石がゴブリン7・フォレストウルフ8・グラスヴァイパーとシャドウスパイダー。素材がシャドウスパイダーの牙が銀貨8枚、糸袋が銀貨12枚。薬草が130束。全部で銀貨35枚と銅貨20枚だ。薬草は常設依頼処理するか?」


「頼みます」


 Eランク以上になると、薬草では常設依頼にならない。装備が立派なので聞いてきたのだろう。買取り金と薬草の依頼票を受け取り、受付カウンターへ向かう。夕方でカウンターは混みあっているが、ポワルソよりもカウンターが多く列も早く進んでいく。獣人の冒険者も数人見かける。


「次の方どうぞ」


「到着と依頼処理お願いします」


「ようこそイルラクへ、プレートお返しします」


「街の案内はありますか?」


「案内はこちらです。次の方どうぞ」


 街の案内をもらい、宿の場所を探した。

 

 宿は案内に「☆ギルドおすすめ!」と書いてない所を選んだ。冒険者だらけの宿はご遠慮したい。1泊銀貨7枚に厩が銀貨3枚とかなりお高めだが、食事が美味しい。客層は商人が多いようだ。


 明日は街を探索しよう。新しい街にきたらまず売っている物をチェックしなくては! それに、街の案内によるとこの街には気になる物がある。それは“図書館”だ。知識はできるだけ欲しい。

 そして今日は、寝る前に魔力操作の確認をしなきゃならない。昨日は寝てしまったから。


 まずMPがほぼ満タンの状態で動かそうとしてみる。うん、やっぱりじんわり動く程度でがんばらないと動かない。

 次にMPを1まで減らしてやってみると、軽くなってぐーるぐーる回せる。


 だがMPを減らしてから訓練したほうがいいかというと、どうもそんな気がしないんだ。軽くするとどうにも“がんばった感じ”がしない。魔力を動かす感覚はわかりやすいんだが。


 どっちが正解かわからないので、とりあえず両方やってみるかな。重い方を魔力体操第一、軽い方を魔力体操第二として、魔力体操第一→MP減らす→魔力体操第二のローテーションでしばらくやってみる事にしよう。


 翌日は部屋を引き払って、ギルドへエマを預け街へ出かけた。


 なんと言ってもまず必要なのは下半身の防具だ。工房エリアへ行き、防具を扱う工房を探して回った。数軒の防具工房が立ち並ぶエリアで尋ねてみると。


「どんな装備が欲しいんだ?」


「下半身の防具を、できれば音のしない革で」


「革でグリーブを作ってもブーツと変わらねえぞ。音がするのが嫌で速さ重視ならブーツ。防御力なら魔物素材グリーブがいいんじゃねえかな?」


「どんな魔物素材があります?」


「まぁ待て、魔物素材ならあそこの工房で聞いてみなよ」


オススメされた工房へ行くと、


「魔物素材なら今はキラーアント・ジャイアントセンチピード・ホーンドビートルかな? それ以上は高いよ」


「高いのは無理。グリーブでオススメと金額は?」


「キラーアントは軽い、金貨2枚。センチピードは重くてしなやか、金貨4枚。ホーンドビートルは軽くてしなやか、金貨10枚。それぞれ良し悪しかな」


「例えばキラーアントをベースにセンチピードで甲まで覆えます?」


「端材があれば、ちょっとまって…ん、行けそう。金貨3枚かな」


「それでお願いします」


 採寸をしてもらい、仕上がりは5日後となった。



 宿屋をいろいろ見回りながら、薬屋でポーションを補充し、保存食の補充に来た時、それはあった。


 店先に袋詰めされた茶色がかった白い粒々…間違いない、米だ!


「それはクルンっていう南方でよく食べられてる穀物でね、調理にコツがいるから素人さんには勧めてないよ」


「へぇ~そうなんですね」



ま、パンの方が好きだし料理しないからな、そのまま通りすぎた。


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