相棒との出会い



 しかし……冒険者プレートを見る限りポワルソで出発手続きはしていないのか。


 気になったので馬に積んであった2人の荷物をぶちまける。気にならなくてもぶちまけるが。

 ……依頼票がないな? 依頼で外に出たわけでもないのか。それに街の移動にしては荷物が少ない。Dランクで常設依頼でもないだろう。なんのために街道を進んできたのか。


ん~ひょっとして…狙われたか?

東門の衛兵の腑に落ちない態度がちらりと頭をよぎる。


「ま、今更だしな」


 もしこれがポワルソで真面目に冒険者してたら、酒場辺りで「最近、東の街道で盗賊の被害が出ているが、盗賊がみつからない」みたいな伏線があったりするのだろうか。それで「Gランクのくせに稼いでるみたいじゃねぇか」みたいな絡まれかたをして、森で「お前らが犯人だったのか!」となって……


「ま、今更だな」


 2人の装備はまあまあのものだった。さすがDランクだ。片手剣は今使っているものよりグレードが高そうだ。とはいえ、使い慣れた主武器をいきなり変えるのは怖い。予備にもらっておこう。

 槍は良さそうだけど、目立ちそうなので森の中へ。そのうち妙に立派な槍を持ったゴブリンが出現するかもしれない。

 足防具グリーブは正直羨ましいが、職人にちゃんと作ってもらった物が欲しい。


……やってることが完全に強盗殺人犯なんだが。生きるのは綺麗ごとではないってことで見逃してもらおう。


 今回の収穫(?)は

・着火の魔道具

・ライトの魔道具

・指輪2点

・腕輪1点

・金貨12枚 大銀貨7枚 銀貨8枚 大銅貨2枚 銅貨6枚

・保存食数点

・良さそうなナイフ

・剣鉈

・HPポーション4つ

・ポーションベルト

・その他小物


 足が付きそうな(やましい事はないが)装飾品やスライムが分解できそうにない物は土の中へ。

 死亡した冒険者のプレートは本来ギルドへ報告が義務付けられているが、今回はなかった事にしたいので土の中へ。


 ポーションベルトを装着してポーションを挟み、残りの荷物を背負い袋へ放り込む。


 さて、残こされたのは馬が2頭。

もうだいぶ落ち着いてきているが、それでもまだちょっと興奮気味だ。そっと撫でてやる。なかなか落ち着かないほうの一匹の手綱を解いてやり、逃がした。魔物の森で生き残ってくれるのを願うばかりだ。


 残った一匹に手で器を作り生活魔法で水を出すと、すぐに飲み干した。気が合いそうだ。濃い茶色の毛をしたかわいいやつだ。

 荷物を載せ、手綱を解きまたがるとおとなしく乗せてくれた。馬の乗り方はルヤナ村で教わっている。棚ぼたではあったが、旅の相棒が手に入った。これはありがたい。



 森を出て街道に戻り馬任せでトコトコ進んで行く。 時間的には昼だが、流石にまだ食事をするような気分でもない。

 途中に水場があったので、休憩し馬が水を飲んだり草を食べるのを眺めていると、ささくれた気持ちが癒される気がした。


 返り血を水で流し、青銅製の鏡で確認する。


 何か食べなくちゃな。


 馬を眺めていたらそんな気持ちになれたので、パンを1個かじった。女将さんが用意してくれたスープは、冒険者の顔にぶちまけてしまった。もったいない事をしたものだが、あれのおかげで勝てたともいえる。


(女将さん、ありがとうございます)


 心のなかでポワルソに向かってお礼を言っておいた。


 そのまま街道を進んで行くと、村が見えてきた。そろそろ陽も傾いてきたことだし、今日中に次の村にはたどり付けそうにない。今夜はここで泊まらせてもらおう。 門の前で馬を降り、手綱を引いて門へ近づく。


「こんにちは」


 手を上げて見張りにあいさつをして立ち止まった。


「ああ、泊まりかい?」


 こちらの様相を見てすぐに察してくれた。街道沿いにある村は話が早い。


「厩と宿があれば助かります」


「村の中程に”宿屋ヒユユ”ってのがあるぜ」


「ありがとうございます」


 礼を言って中へ入った。冒険者プレートは確認しないみたいだ。

村へ入ると、街道沿いに家が立ち並んでいる。宿場町って感じだ。店も2~3軒ある。軒先に気になる物が置いてあった。


“薬草1束銅貨4枚 50束セット 冒険者御用達”


……ほほぅ。ギルドの買取りが銅貨5枚。冒険者は50束で銅貨50枚の収入しか得られないが、依頼を1件済ませられるわけだ。村人はわざわざ街まで行かなくても薬草が売れ、宿に冒険者が泊まれば村にお金が落ちる。おそらくこの村の周囲は、村人によって薬草が採取されてしまっているのだろう。


 冒険者がズルいとは思わない。片道1日往復2日かけてもこれだけではあまりにも儲けが少ない。だが魔物の常設駆除依頼のついでならどうだ?

 冒険者は効率よく依頼数を稼ぎ、微量だが収入も増える、村は依頼料を払わなくても周りの魔物が駆除される。誰も損しない、まさにwin-winってやつか。


 ギルドは“ランクは依頼達成能力の評価”と言っていた。こういった情報の集め方も依頼達成能力に含まれるのだろう。


 宿屋はすぐ近くにあった。“ヒユユ”ってのは確か花の名前だったはずだ。宿の前に馬をつなぎ、受付へと声をかける。


「1泊と厩を頼みます」


「素泊まりなら銀貨2枚、朝夕食ついて銀貨3枚、厩は銀貨1枚だ」


「食事と厩付きで」


「馬は裏の厩舎に回してくれ。部屋は16番だ」


 銀貨4枚を払う。宿の名前に似合わないでっかいおっさんだ。

馬を廻して、厩舎へ連れて行き世話を頼んだ。


「この子の名前はなんて言うんで?」


 聞かれたが、名前付けてない。


「お前なんて名前なんだ?」


 馬に聞いてみたが返事はない。

う~んどうしようか。オスかな? メスかな?

確認するとメスだった。


「よし、今日からお前は“エマ”だ」


 絵馬から取った。メイドさんからではない。


 部屋へ行き、装備を外し部屋着に着替えた。血の付いた服を洗濯し、干しておく。明日に乾くか微妙なところだ。鎧も汚れをふき取り手入れをし、剣の手入れをしているとドアがノックされ


「夕食できましたよー」


 女の子の声がした。

食堂へ行くと、まだそれほど人はいない。


「16番です」


 部屋札を示し空いているテーブルで待っていると、食事が出される。メニューは肉と野菜のスープとパンだ。内容も味も量も普通だが、空っぽの胃には美味しく思えた。


 部屋に戻り、空気を入れ換えて考える。

水魔法が空気中の水分を集めているなら、洗濯物の近くで使えば早く乾くんじゃないだろうか? つまり人間除湿機だ。

 桶を置いて中にコップを置き、空気中の水分を集めるイメージで呪文を唱える。


「水よ、ウォーター」


 コップの縁ぎりぎりまで水が出る。洗濯物を触ったが、乾いた感じはしなかった。

 おそらく空気中からしか水分を集めなかったのだろう。コップの水を桶にあけ、次は洗濯物を含めた周囲から水を集めるイメージで呪文を唱える。


「水よ、ウォーター」


 コップに注がれた水はさっきより少なかった。洗濯物をさわってみても変化は見られない。

 なるほど、つまり…


『集められるのは空気中の水分だけ』

『物質の含む水分は集められない』

『正確ではない魔法のイメージは効果を減少させる』


…って事か。それでも空気が乾燥していたほうが早く乾くはずだ。


 MPギリギリまで水を桶に出してその水で体を拭き、水を捨てに行って

からいつも通り魔力操作をしてみると、いつもより軽く動く気がする。いつもはがんばってゆっくり動く程度なのに、今日はぐーるぐーると回せる。まるで粘度が落ちたみたいだ。


 ステータスを確認しても魔力操作はLv1のままだった。う~ん、どういうことか。いつもとの違いと言えばMPの残りが1なくらいだ。それが原因なのだろうか? 明日にでもMPの減る前後で検証しよう。


 ベッドに横たわって目をつむると、今日の惨殺現場が浮かんできた。このままでは今夜は寝付けそうにない。仕方がないので。


「土よ、アース」


 布団に潜ってMPを使い切り、気絶して眠りについた。


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