新装備



「さすがに昼すぎになるとろくな依頼が残ってないな」


 冒険者定食という主に肉の食事を銅貨60枚で食べ、ギルドの掲示板を眺めたが目ぼしい依頼はなかった。


 依頼はなかったが…エルフを見かけた。

全体の線は細いが、しっかりと筋肉のついた身体つきは力強さを感じさせる。弓をかつぎ金髪碧眼で、絵画の様な整った顔の横につくのは尖った耳。まさにイメージするようなエルフだ。いるとは聞いていたが、実際見るのは初めてだ。


 まぁ、男だったけど。


 特に用事もないので当然会話することもなく、買取り所へ戻って荷車を洗ってから西の集落へと戻った。ただ、狩りだの農作業だのしていると忘れそうになるが、やっぱり異世界なんだと実感があった。


「明日も獲れたらまた貸してください」


 声をかけ荷車を返し、街へと戻る。少し時間ができたので保存食を買い足し、久しぶりの銭湯へ行った。ただし、こちらの銭湯は蒸し風呂だ。それでも汗をかくとさっぱりした。その後はもちろんエールだ。ただしぬるい。氷魔法が欲しい。水魔法の上位属性とかでありそうに思うのだが……


 しかし、いきなり高い目標を設定してもつらいのだ。工場でよく言われた。達成可能な小さな目標を積み重ねて高みを目指せと。

 そんな訳で今日も寝る前に魔力操作体操(体内)と魔力筋トレ(体内)だ。これを日課にしてみよう。ただし、昨日の反省を生かし魔力は使い切らずに1残しておく。気絶すると、なんだか疲れが取れない気がするからだ。


 翌朝も同じように西の森へ行くと、罠にかかっていたのは鹿とホーンラビットが1匹ずつだった。

この辺りが潮時か…木に吊り上げて血抜きをして、荷車を借りてギデルさんと相談する。


「今日は1匹でしたが、畑の被害はどうでした?」


「ああ、ありがたい事に今日はやられてなかった。アジフのおかげだ。ありがとう!」


「それはよかったです。依頼を完了にしようかと思うんですが、どうでしょう?」


「かまわないぞ、完了のサインするから依頼票を出してくれ」


「はい、お願いします。これからギルドに行くので、依頼票に1筆書いてもらえれば余剰金引き上げてきますよ」


「お、それもありがたいな、じゃあ”アジフに返金を渡してくれ”これでいいか?」


「ばっちりです。じゃあ鹿積んでギルド行ってきますんで」



 森へ戻ると、内臓を抜いて埋め、荷車へホーンラビットと鹿を積み罠をすべて撤去した。ギルドの買取りカウンターへ荷車を引いていって、買取りと納品をお願いする。


「今日は鹿とホーンラビットか。鹿は銀貨4枚、ホーンラビットは魔石と1匹まるごとで銀貨1枚と銅貨30だ。ホーンラビットは常設依頼だな」


「いえ、Gランクなので買取りだけでお願いします」


「ああ、そうだったな」


Fランク常設依頼の魔物はFランク魔物と呼ばれる。それ以上も討伐難易度によって冒険者ランクに準じて分類される。


 銀貨5枚銅貨30枚をもらって依頼票に鹿の駆除数を記入をしてもらう。そのまま受付カウンターへ行って依頼票と冒険者プレートを渡し、完了処理をしてもらって、鹿3頭分の依頼料銀貨6枚と余剰金の銀貨4枚を預かる。Gランク依頼あと97件。ふぅ


「アジフさんFランク冒険者より稼いでますよ」


「早寝早起きがコツです」


 実際、他の冒険者と生活サイクルが違うのでほぼ会わない。やってる事は農業と狩りで村の生活と変わらないし、冒険者感はない。

 食事をした後、荷車を洗ってから西の集落へ返しに行って、ギデルさんへ依頼金の残りを返却した。



 とは言え、今日は鎧の仕上がる日だ。新しい装備はいくつになっても楽しみなのだ。さっそく裏通りにある工房を訪ねた。


「おーい、おやっさーん」


「歳かわらんだろ! だれがおやっさんだ!」


中からおやっさんが出てきた。


「なんでしょうね? つい?」


「ついじゃねぇよ! 鎧と盾だろ。ほら、できてるぜ」


 おお! 完成品は思ったよりずっと…なんて言うか、”鎧”だ。装飾のない実用的なデザインだが、可動部は複数枚の革が重ねられて立派だ。早速装着してみると、ベルトで締める方式で一人でも着やすい。サイズもぴったりだった。


 盾は縁と中央に金属で補強が付けられ、少し重くなったがとても頼もしい。持ち手はしっかりしたものに変えられ、手の当たる部分は少しえぐられてフィット感が増している。木/革/鉄の複合盾になった。これで銀貨30枚は安い。


「それで動いてみろ」


 工房の裏手に向かい剣と盾を振ってみると、革の上着より動きやすい。しっかりとした強度なのにある程度のしなやかさを感じる。特に邪魔になるところはなかったのだが、時々動きを止められ、ところどころ鎧に印が付けられる。


 一度外して、革の角度やパーツの距離を調整し、再び装着する。着心地は変わらなかったのだが、剣を振ると違いがはっきりとわかった。ずっと前からこの鎧を着てたような気分だ。


「どうだ?」


「最高です」


「いや、まだだ。しばらく使ってやればより身体になじむ。使わないで飾っておくのが一番悪い。しっかり使ってしっかり手入れをすれば、金では買えない本当に最高の一領になるだろう」


「わかりました! おやっさん!」


「おやっさんじゃねえって言ってんだろ!」


 手入れ用の蝋もおまけしてくれた。蜜蝋ではなく、クレイシェルという南方の昆虫系魔物の素材らしい。

 さて、これでいよいよ旅に出る準備が整った。

残金の金貨1枚を払い、脱いだ革の上着を渡して礼を言った。


「いい物をありがとうございます。大切にします」


「大切にするのはてめえの命だ。そのための防具だって忘れんなよ」


 鎧の胸をトンっと拳で叩かれた。


「肝に銘じます」



 おやっさんの工房を出て、冒険者ギルドへ戻った。受付カウンターに出発の報告をするためだ。本日2回目の訪問に受付嬢が怪訝な顔をする。


「あら、アジフさんどうしました?」


「明日、街を出ることにしたので手続きに来ました」


「そうですか。では冒険者プレートをお願いします」


 プレートを渡すと奥に持っていき、返ってきたプレートは


アジフ   Rank:G

性別:男  

パーティ:

本拠地:     所属:ポワルソ


 となっていた。


「到着先のギルドで到着報告をお願いしますね」


「わかりました」


「またのご利用お待ちしております。あなたに良い冒険がありますように」


頭を下げる受付嬢に


「あ、どもども」


と頭を下げた。おっさんなんてそんなものだ。


 ギルドの酒場を覗いたが、ロイドとシッテは見当たらなかったので、門を出てロジットさんとギデルさんに街を出ると告げる。残念がられて話すうちに、街へ戻ったのは閉門のギリギリだった。


 食事をとって宿屋にもどり、宿屋にも明朝の出発を伝えた。

部屋に戻り装備を外し、身体を拭いて布団に入る。ステータスを確認するとMPは19/19満タンだ。これで気絶するまでMPを使って若返れる。年齢は42。よし、行ってみようか。



リバースエイジ5.7歳逆行!


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