狩人ですか?いいえ、冒険者です。



 翌日はまだ暗いうちに起き出した。目覚ましはないが、昨日は早く寝たのでしっかり寝ている。

身支度をして食堂へ降りると、宿屋の女将さんが朝食の仕込みを始めるところだった。パンを2つ売ってもらい、外に出ると伝えると扉を開けた。


 空を見上げると白み始めている。北門へ向かうと、門はまだ開いてなかった。日の出と共に開門するらしい。待っていると、出発を待つ馬車や人が集まりはじめた。空が明るくなると、門番が石塔へ上って行った。しばらくすると外の扉が開かれた後、キリキリ音がして格子戸が上がっていった。


 門の外では入門を待つ順番が道を左右に分けて待っている。中には野菜を積んだ馬車も見える。

 む? もう野菜を運んでいるとは。これは出遅れたか?

少し急いで北の集落へ向かうと、ロジットさんはすでに畑に出ていた。


「すいません、遅くなりました」


「ああ、おはよう。なに、こっちもこれから始めるところだ。問題ないよ」


「すでに野菜を積んだ馬車が入っていったけど?」


「ああ、あれは村から来てる連中だな。こちらは採れ立てで鮮度が違う。あわてる必要はないさ」


 なるほど、それぞれに需要があるということか。朝の収穫を手伝い、前日の収穫とあわせて馬車に積み込んだ。朝市へと到着すると、場所は決まっているようで店を開き野菜をおろした。


「ありがとな、助かったぜ」


 依頼票へサインをもらい、1度宿に戻り遅い朝食にまじって昼食を取った。


 冒険者ギルドで依頼完了の処理をして、買取りカウンターへ魔石を出す。

ゴブリンが72個 フォレストウルフが36個 ホーンラビットが32個 ファングボアが2個。ファングボアは、村の近くにでた個体を村人で囲んで倒した時にもらったものだ。 それぞれ袋にわけてあったそれを、どさっとカウンターへおいた。


「またずいぶんもってきたな」


 面倒くさそうに職員が数える。


「魔石の値段はゴブリンが銅貨50、ウルフが40、ラビットが30、ボアが銀貨1だ。合計で銀貨62枚だ」


 くっ! 安い! だけど実際は魔物の肉を食べたり、素材にしたりしてるわけで、魔石だけならこんなものなのだろう。


「依頼ならEランクになってるな」


 職員が笑いながら大銀貨6枚と銀貨2枚をわたしてくれた。くやしくなんてないんだからな!

 受付カウンターへ向かい、依頼完了の処理をして銀貨2枚をもらう。昇格までGランク依頼あと98件だ。ふぅ、


 西門から外に出て、ギデルさんへとあいさつに向かう。


「おう、明日からかかるんじゃなかったのか?」


「今夜から罠を仕掛けます。かかるかどうかは明日以降ですね」


「なるほどな、今朝もヤツらにやられててな、頼んだぜ」


 背中をバシっと叩かれた。痛い。

 森に入り、足跡を探す。畑に入るルートは2つあるようだ。罠の仕掛けやすい場所を探し、浅い穴を掘って罠をしかける。罠はズーキに教えてもらった簡単なハネ上げ罠だ。隠した穴に獲物が足を入れると、たわませた木につないだロープが絞め上がる。間違って人が踏んでも怪我する事はないだろう。転ぶくらいはするだろうが。


 2つのルートに合計6ヶ所罠をしかけると、すでに日が傾いていた。 ギデルさんに森に罠をしかけたことを伝え、西の集落の住人に注意するよう伝えてもらうのをお願いする。


 街へ戻り、早めの夕食を屋台ですませ、宿へ戻った。今日も魔法の実験だ。

しかし、昨日と同じ過ちは繰り返さない。小さめの声で呪文を唱える。


「土よ、アース」


 無事に小石ができた。声の大きさは関係ないようだ。よしよし。

ステータスを確認すると、MPは16/19になっていた。屋台で買い食いしてる時に使ったからだが、森で水分補給した分は回復しているようだ。


 今日の確認はMPを使い切った時に、魔力ステータスは成長するのか? だ。よくある話だと思うのだが、正直期待はしていない。


 異世界へきてからというもの、たるたるだった身体はすっかり筋肉で締まった。しかし、いくら筋肉を鍛えてもSTRが増加することはなかった。

 だけど、鍛えたのが無駄だったかと言うとそんな事はない。同じレベルでも力は間違いなく強くなった。冒険者達も、戦士職は立派な筋肉をしている。


 つまり、ステータスは補正値じゃないかと思うわけだ。実際の力に対してステータス分強化されるのではないかと。では魔力はどうか。

 魔術師ギルドのマスターは「魔力はただの力」だと言っていた。力なら鍛えれば増えるのではないかと。ただし、ステータスの増加は期待できないかもしれない。その確認をするのだ。


あ、でもその前に魔力操作の訓練をしておいたほうがいいかな?


―――もみもみぐいぐい―――


 しばらくやってみたが、まだ魔力が回るところまでは柔らかくならない。でも少しだけ昨日より柔らかくなった気がする。

 さて本番だ。まずは小石を15個作る。もちろん小声だ。


「土よ、アース」×15


 ステータスを確認して革切れに書いておく

MP1/19 INT:11 MND:19

 MPが残り少ないせいか、かなり気怠い。ふらふらする。ランプを消して布団に入り最後の呪文を唱える。


「土よ、アース」


そして意識を失った。



……はっ!


 目をさまして確認すると、辺りはまだ暗い。窓を開けると夜空がほんの少し白んでいる。丁度いい時間に起きられたようだ。よかった。


「ステータスオープン」


 確認したステータスは

MP15/19 INT:11 MND:19


 MPが回復した以外変化はなかった。まぁ、予想通りだ。MPは寝れば全快するわけではなさそうだが、時間経過にしては回復量が多い気がする。時計がないからわからないんだよなぁ。


 ゆっくりと支度をして食堂へ向かったが、朝食の仕込みはまだ終わっていなかった。今日もパン2つを買ってかじりながら日の出にあわせる様にのんびりと西門へ向かう。 門を出て森へ向かい、罠を確認すると鹿がかかっていた。


「よしっ」


 暴れる鹿の頭を鞘に入ったままの剣で殴りつけ、弱ったところを短剣で喉を引き裂く。ロープで木に吊るし、他の罠も確認しに行くともう1匹かかっていた。同様に血抜きをしている間に全部の罠を確認したが、獲れたのは2匹だった。

 吊るしたまま順番に内臓を抜いておく。


(この森はスライムが薄い、念のため内臓は埋めておくか)


 しかし手持ちのスコップは旅のお供サイズなので、穴を掘るのが大変そうだ。ギデルさんの家に向かうと、途中の畑で見つけたので鹿が獲れたのを伝え、荷車とスコップを借りた。

 森へ戻り内臓を埋め罠を仕掛けなおして、台車に鹿を乗せ西の集落へと戻り報告をした。


「さっそく2匹も捕まえるとはやるじゃねえか! どうする? 依頼完了にするか?」


「いえ、たぶんまだいると思うのでまだ続けます」


「ますますありがたい! しっかり頼んだぜ」


背中をバシバシ叩かれる。

だから痛いって。


 荷車を引いて門を入りギルドの買取りカウンターへ鹿を持っていった。


「冒険者が鹿とは珍しいな。狩人なのか?」


「手ほどきは受けてますが本職ではないですね」


「そうかい、だが処理もしっかりしてうまそうな鹿だ。1匹銀貨4枚でどうだ?」


お? 今日はいい値だな。


「それでお願いします」


 依頼票に記録してもらい銀貨8枚をもらった。


 昼を少し回ってしまったが、その分今日はしっかりと収入があった。ギルドの酒場で昼食を取ることにしよう。



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