生活魔法と魔道具



「せっかくじゃ、魔法習得まで見てやろう」


ギルドマスターがそう言って指をさしたのは4つ並んだ水晶だった。


「水晶に触れれば適性のある属性の水晶が光るぞ」


 簡単だな。端から順番に触っていくと、光ったのは水色、茶色だった。全属性適性とかじゃないのか。


「ほう、水・土2属性とは優秀じゃな。魔法を発動するときは必ず発動する部位と方向を意識すること。腹がびしょ濡れになったりするぞ」


 それは嫌だな。教えてもらった呪文を唱える。


「水よ、ウォーター」


突き出した手から水がちょろちょろ流れる。おお! 魔法だ!


「これ、床を汚すでない。水は手の平で受け止めるか入れ物を準備して下向きに発動するのがふつうじゃな。土は手のひらを開き上向き」


「土よ、アース」


手の平に小石が出現する。確かに横や下向きだとどこかに転がっていくな。


「石はこのまま残るのですか?」


「魔力で生み出したものはしばらくすると消えるの」


「飲んだ水はどうなるのでしょうか?」


「水は不思議な事に消えん。さまざまな説があるが、神の御業と言われておる」


 神の御業ねぇ。ふぅん。


「砂漠で使うと出る水が少なかったりします?」


「その通りじゃ。かの地は水の精霊の働きが弱いからの」


 水の精霊ねぇ。ふぅん。


 しかし、気になる。属性が足りない気がする。具体的には”光”と”闇”それに”無”はあるんじゃないか?


「基本属性は4つしか無いのでしょうか?」


「光属性は教会の、闇属性は神殿の管理じゃな」


 光と闇はあるのか、ふむふむ


「光と闇の生活魔法も適性があれば得られるのでしょうか?」


「光と闇は特殊でな。適性がなくとも洗礼が許されれば得られるぞ。ただ、この2つの属性は反発しあっての。光を得れば闇は得られず。闇を得れば光は得られん」


「どんな生活魔法なんです? 洗礼をお願いしたらやってくれるのですか?」


「光は“ライト”、明かりの魔法じゃ。闇は“ダーク”、安らかな眠りをもたらす魔法じゃな。洗礼はそんなにほいほいするもんじゃないぞ。神父や神官長にしっかりと信仰を示して認められなきゃだめじゃ」


「なるほど…ちなみに属性の無い属性とかありませんか?」


「ふむ? おぬし…?」


 あ、突っ込みすぎたかな。


「いや、魔力を属性に依らずに使えないものかと」


「素人にしては面白い事をきくのう。魔力はただの力じゃ属性として方向が決められてはじめて現象として顕現する。属性が”無”ければ現象も”無い”これでよいかの?」


「なんとなくわかりました。ありがとうございます」


 ふぅ、あまり踏み込まないでおこう。とりあえず他に何か属性がある可能性は高そうだ。



「いや~まさかギルドマスターまで出てくるとは。今回も笑わせてもらったぜ」


 魔術師ギルドに金貨2枚を支払い、ギルドを出てきた。

時空属性とかないのだろうか、ものは試しだゲインに聞いてみようか。


「なあ、見た目以上に物が入る鞄ってないものかなぁ」


「あぁ、あるぜ」


 マジックバッグあるのか!! でも…お高いんでしょう?


「そりゃあ便利だ! いくらくらいするんだ?」


「迷宮産の魔道具でどこかの国宝だったはずだ。世界に1つしか見つかってなかったと思うがな」


 お値段…プライスレス…


「戦争で1発逆転の奇策に使われてな、有名な昔話だったと思うぞ」


「そりゃあどうしょうもないな。ところで火の属性がなかったから着火の魔道具が欲しいんだが、高いのか?」


「贅沢言うな。水は一番の当たりじゃねえか。おまけに2属性もありやがって。火打石でも叩いてやがれ」


「あれー? ゲインさん1属性しかないんですかー?」


 足を蹴られた。


「魔道具屋まで案内してやっから自分で確認するんだな!」


 なんだかんだで面倒見のいいやつだ。


「ただ、魔道具はたけぇからな? あれば便利だが」



 案内された魔道具店は表通りの広く綺麗な店だった。

様々な魔道具が整然と使い方と共に並んでいる。着火の魔道具、水の出る水筒、風の出る筒、明かりを灯すランプ、火の要らない鍋、風がそよぐテント、携帯シャワー、風向きの護符、簡易かまど、ぽかぽか寝袋、湯の湧くバスタブなどなど…

 魅惑の品々がてんこ盛りだったが、圧倒的にお金が足りなかった。最も安価な着火の魔道具でも金貨1枚。日本円に換算すればライター1個10万円である。庶民に手が出る値段ではない。



「経済格差に絶望した」


魔道具店を出るとゲインが肩を組んできた。


「魔道具なんざ金持ちの道楽みたいなもんよ。それで、せっかく街まで来たんだ。今夜は娼館でもいかねぇか?」


 ゲインの顔に「ゲヘヘ」って書いてある。

しかし、衛生管理もへったくれもないご時世なのだ。回復魔法も病気には効かない。健康第一だ。


「病気がこわいからな、やめとくよ」


「なんだよしけてんなぁ~まぁしゃあねえ、今夜も飲むぞ! 今日はお前のおごりな!」


「昨日餞別とか言ってなかったか? 結局割り勘じゃないか」


「細けぇこたぁいいんだよ! ほら、行こうぜ!」



 その後、ゲインがやっぱり行くなって言いだしたり、黙って行かせろって言い張ったりで殴り合いになったりしたが、仲直りして夜中まで飲みなおした。

 翌日はゲインが村へ戻るので、朝食を取り見送りに待っていたのだが、いつまでたっても来ないのでたたき起こしたりした。


「しまらないなぁ」


「まぁ気にすんなってことだ」


 肩を叩かれた。


「気にするのはお前のほうだろ」


 力強く握手をした。


「またいつでも戻ってこい。ルヤナはいつでも歓迎する」


「じゃあな」


「ああ、またな」


 気持ちのいい奴だ。ああ、くそっ、うるっときちまった。いい歳してみっともない。ゲインは一度だけ振り返り拳を突き上げ帰っていった。


 さあ、俺も前に向いて進まなければ! 鎧が出来上がるまでは旅には出られない。今日はギルドに行って依頼を受けよう。



 冒険者ギルドへと足を進めると、ギルドの周りは昨日とは比べ物にならないくらいの人数に溢れていた。

 金属鎧に大剣を持つ者、フードを被り杖を持つ者、弓、大槌、メイス、盾、槍、短剣様々だが、一番人気は剣のようだ。使いやすいしな。


 年齢層が明らかに低いGランク依頼の掲示板の前は一層にぎやかだった。あそこに混ざるのか、とため息を一つつき後方から依頼を眺める。ほとんどが街中とその周辺の依頼だな。


 城壁の修理、荷物の配達、倉庫の整理、引っ越しの手伝い、家の掃除、道路の清掃などなど。薬草採取はG、F共通の常設依頼か。お、下水処理場のスライム駆除なんて面白そうだ。今着ている装備は下取り予定なので受けないが。

 ……しかし、どれも安い! 平均で銀貨1枚~3枚ほど。なかには大銅貨5枚なんてのもある。今泊まっている宿が食事別で銀貨3枚。3食食べると1日で銀貨5枚は必要で完全に赤字だ。



 宿のランクを下げるか、食事のランクを下げなければ採算がとれない。Gランク冒険者ってのがどれほど厳しいかよくわかる。


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