農民的冒険者生活



その中で選んだのは…


 草むしり Rank: G

畑の雑草を抜いてください。

報酬:銀貨2枚

北集落 ロジット


 これだ。暖かくなってきたこの季節、雑草はよく伸びる。農業スキルを活かせるし、慣れた作業だ。

 薬草の採取も考えないでもなかったが、薬草依頼はこうだ。


 薬草採取 Rank:F・G 常設

薬草1束:銅貨5枚

薬草10枚で1束。状態により金額が変わります。

50束にて依頼達成とします。


 一本の薬草で葉っぱは数枚取れる。10束で銅貨50枚。100束で銀貨5枚。

薬草採取は慣れたものなので、単純な作業量なら不可能ではないが、それは村ならの話だ。街から薬草の取れる森までは距離がある。移動を含めて1日で帰ってこれる距離は決まっている。決まった距離の中で多くの人数が採取したら競争率が高そうだ。森の状態を見てからにしよう。



 草むしりの依頼票を剥がすと、近くにいた少年が声をかけてきた。


「おっさんがGランク依頼持ってくなよー」


金髪を短髪にした勝気そうな少年だ。腰には剣を下げている。


「すまんが、これでも君たちと同じGランク冒険者だ」


「いい歳してGランクかよ! だっせぇ!」


「冒険者が本業ではないのでな、ただ草むしりがしたいなら譲るぞ?」


「農民がいやで冒険者になったんだ! 畑仕事なんてしねぇよ!」


 少年は気が済んだのか掲示板に目を戻した。がんばれ、少年。



 依頼票を受付に持っていくと。ポンっとハンコを押してくれた。さて、農作業か。1度宿に戻り準備をして、食堂で黒パンを1個買い鞄に突っ込む。北門まで行って、そこから街の外へ出た。

 北門を出て集落へ向かう。街の外にあるだけあって、がっちりとした石垣の中に4軒の家が建っていた。


 適当な扉を叩くと、中から女性が出てきた。


「冒険者ギルドの依頼で来ました。ロジットさんみえますか?」


「畑に出てるよ」


 こちらの年齢を見て少し怪訝に思ったようだが、畑の方向を教えてくれた。畑に向かい、作業をしている男性に声をかける。


「ロジットさんですか?」


「ああ、俺がロジットだが、何か用か?」


「冒険者ギルドから草むしりの依頼で来ましたアジフです」


 依頼書を出すとロジットさんはかなり驚いたようだ。


「思ってたよりずいぶんと若くなかったんでな。しかし農作業する格好には見えないが大丈夫か?」


「大丈夫です」


 鞄から手拭いを2枚出し、1枚は頭に巻いて1枚は首にかける。鞄と短剣と剣を畑の脇に置いた。革の上着を脱いで言った。


「なるほどな。あっちの畑とその隣。2面を頼む」


 こっちは農業Lv3の農民称号持ちだ。その程度はちょろい。

ディックさん仕込みの技が冴えわたり、昼前には終わらせて抜いた雑草をまとめて山にした。


「終わりましたよ」


「ん? いくらなんでもそんなに早く終わらないだろ。こっちは金払ってんだから手を抜かれちゃ困るってもんだ。これだから冒険者は…ん!?」


 ロジットさんが見たのはきっちり雑草の抜かれた畑と、抜かれた雑草の山。



「いや、すまねぇ。甘く見てたわ。なぁ、あんたもう1面やってくれたら昼メシも出すがどうだ?」


「それはありがたい。是非やらせてください」


 再び草むしりの技がうなったが、さすがに昼まで中腰だと腰にきた。レベル補正があるとは言え、張り切りすぎたか。いててて……。


3面終わらせると昼頃になったので、ロジットさんの家でお昼をごちそうになることにした。


「おーい! こちらのアジフさんにも昼メシを出してくれー!」


「あら、あんたがそんなこと言うなんて珍しいね」


「これは奥さん、申し訳ない」


「なに、予定より進めてもらって助かったよ。本職って言われても不思議じゃない仕事っぷりだった」


「ああ、農民称号があるから」


「なんだ? 同業か? でも冒険者なんだろ?」


「旅に出た元農民なんですよ。それで、ロジットさん相談があるんですが…」


「なんだ? 聞くだけ聞いてみようじゃないか」


「穫り頃のルル豆がなりっぱなしになっているように見えました。収穫の人手が足りないのでは?」


「ふ、わかっちまうか。さすがだな。いつもは隣の家と協力しているんだが、奥さんの実家の父親の具合が悪くてな、人手が足りねえんだ。ギルドに依頼を出してもシロウトの手じゃ朝市には間にあわないしな」


「今日依頼を出してもらえれば、明朝手伝えますよ?」


「アジフさんならありがてぇ。報酬は今日と同じで銀貨2枚…いや3枚でいいか?」


「2枚でかまいません。その代わり教えてほしい事があります」



 依頼票に完了のサインを貰い、ロジットさんの家を出た。

街の外周の低い石垣を越えて、外の森を左回りに回っていく。


 薬草や山菜はほとんど残ってない。少し残っているのは全部採らないようにしているのだろう。だが、毒消し草と麻痺消し草はかなり生えている。毒消し草は葉っぱに、麻痺消し草は根に薬効がある。収穫しながら進むと薬草も少し採れた。


 街の外周の1/4ほど進むと、ロジットさんの情報通り地面に足跡があった。

ロジットさんに聞いたのは「この辺りの農家でなにか困っている事はないか?」だ。

西の畑に鹿が出たと聞いたので調査に来たわけだ。

 そのまま引き返して西の集落へと向かい、集落の人に尋ねた。


「ギデルさんはいますか?」


「ギデルならほら、そこだよ」


教えてもらった人に声をかける。


「ギデルさん。私は冒険者のアジフと言います。ロジットさんからこちらの畑に鹿が出て困ってると聞いてきました」


「ん? まぁそうだが…鹿退治は狩人の領分じゃないのか? 街に狩人はいないから隣村の狩人に頼もうと思っていたんだが、なかなかついでがなくてな」


「もし冒険者ギルドに依頼してもらえるなら、私がやってみてもいいですか? 1匹につき成功報酬後払いでもいいですよ」


「まぁ、それでもいいなら頼んでもいいぞ。ん~1匹につき銀貨2枚。上限は5匹でどうだ」


「鹿をもらえるなら、その金額でいいですよ」


「ああ、かまわないぞ」


交渉成立だ。握手をした。


「ただ、お金を預かるわけにもいきません。一緒に冒険者ギルドに来てもらってもいいですか?」


「おう、じゃ行くか。おーい、ちょっと街行ってくるぞー」


 ギデルさんと西門を抜け、ギルドに向かった。受付に行き、ギデルさんが受付嬢に声をかける。


「依頼をしたいんだが」


「はい、ご利用ありがとうございます。どういったご依頼でしょうか?」


 俺と話す時の4割増し営業スマイルだな。


「鹿の駆除を頼む。成功報酬で1匹銀貨2枚。上限5匹。獲物は冒険者取りだ」


「その金額だと相場より少し安くなります。受注されるかわかりませんよ?」


「心配いらねぇ。この人が受けてくれるそうだ」


 肩をバシッと叩かれると、受付嬢がこちらをキッと睨んだ。


「わかりました。委託金として銀貨11枚お願いします。依頼完了時に余剰金が発生した場合はギルドまでお越しください」


「おう、じゃあ頼んだぜ」


「ギデルさん、明後日からかかりますので」


 ギデルさんがギルドを出ていくと、受付嬢が依頼票を作りハンコを押して渡してきた。


「あまり勝手な交渉をされても困るのですが」


「そういった規約は説明されませんでしたので」


 ロジットさんから預かった依頼票と委託金銀貨2枚大銅貨2枚を渡す。受付嬢は渋い顔をしながらも依頼票を作ってくれた。


「こちらも受注を?」


「ええ、お願いします。それとこれも」


 完了サインの入った依頼票と冒険者プレートを渡すと、依頼票に完了のハンコが押され、新しい依頼票にもハンコが押された。

 銀貨2枚と共にプレートを返してもらい、依頼票を受け取ってから、森で採取した薬草、毒消し草、麻痺消し草をカウンターへ置くと


「これの納品はできますか?」


「納品と買取りは買取りカウンターでお願いします」


 たまったうっぷんを晴らすかのように、そっけなく突き返された。


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