魔力操作



 冒険者プレートを受け取り、 背後を振り向くと


「ゲインさん! アジフさん! 久しぶり!」


 ルヤナ村を出てポワルソで冒険者をしている2人の少年だった。強敵ともの仇でもある。


「ロイド、シッテ久しぶりだな。元気そうでよかった」


「ああ、こないだFランクに上がったんだぜ! ほら見てくれよ」


 銅色の冒険者プレートを誇らしげに見せてくる。


「すごいじゃないか! がんばってるな!」


「だろ! でも、アジフさんいまさら冒険者なんてどうしたんだ?」


「あぁ、旅に出ることにしたんだ」


「どっか行っちまうのかー。村がさみしくなるな」


 この街で冒険者をするわけにはいかない。顔見知りもいるし、村からもしょっちゅう人が来る。


「少しだけな、お前らもたまには村に顔を出してやってくれ、無事な顔を見せればみんな喜ぶから」


「ルヤナは俺らの狩場だからな! ゴブリン殲滅するぜ!」


「おいおい、奥地に2人は危険だぞ。行くなら俺とズーキにも声かけろよ」


「わかってるって! そんな無茶しないよ」


「どうだかな。2人ともメシは喰ったのか? 一緒にどうだ」


「「ゲインさんのおごり?」」


「しょうがねえなぁ」


 予想していたトラブルもなくギルドを出ると、4人で食事をした。



「もう少し何かあると思ったんだがなぁ」


「ん? どういうことだ?」


「こう…ギルドの酒場で酔っぱらった冒険者に「おいおい、いい歳したおっさんが冒険者なんてやめとけ」とか絡まれたり」


「それくらいの事はどこかで言われるかもしれねぇが、冒険者で身をたてる若者でもねぇだろ。あと、酔っぱらって受付に近づくと怒られるからお前も気をつけろよ。」


「ま、そりゃそうだな」


 肉たっぷりの若者が好きそうな食事をゲインがおごらされ、ロイドとシッテと別れた。



「次は魔術師ギルド行くぞ!」


 腹の苦しそうなゲインを引っ張り魔術師ギルドへ向かう。若者に張りあって食べるからそうなるんだ。


 魔術師ギルドは庭のない大きめの屋敷のような建物で、扉を開けて入ると受付カウンターが2つ設置されていた。

 カウンターに座るのは青い髪をしたまじめそうな青年で、近づくと声をかけてくれた。


「魔術師ギルドへようこそ。今日はどのようなご用件ですか?」


「生活魔法の習得を頼む」


「適性により得られる魔法は選べませんが、よろしいですか?」


「かまわない」


 早く魔法くれー!


「料金は調査後に提示しますので、その後にご検討ください」


「ん? 金貨1枚じゃないのか?」


ゲインの方を振り向くと。


「俺の時は金貨1枚だったぞ」


「歳を取るにつれて魔力操作のスキルを取得するのに必要な材料が増える傾向にあります。若い方ならたいてい金貨1枚で済むのですが」


「わかった。とりあえず調査を頼む」


「フィーユさーん。生活魔法お願いしまーす」


 受付の青年が奥へ声をかけると、足元まである深いコートをかぶった長身で痩せた眠そうな目をした男性が出てきた。杖も持っていかにも魔法使いっぽい。


「フィーユです。よろしくお願いします。まず魔力操作の取得調査をさせてもらいます。こちらへどうぞ」


案内された床には半径1mほどの魔法陣が描いてあった。


「魔法陣の真ん中にいてください。立ってても、座っててもいいです」


 魔法陣の真ん中に立つと、フィーユさんは背後に回り背中に手を当てた。

んー? 何かじんわりくるようなそうでもないような?


「固いですねー、こちらの魔法陣に移ってもらえますか?」


 示されたのはもう少し大きな魔法陣…を1つ飛び越えた、2.5m程の魔法陣だった。

魔法陣の中に入ると、再び背中に手を当てられる。


お? さっきよりじんわりくる気がするぞ?


「まだ固いですか、最大の魔法陣の使用だと金貨2枚になりますがどうします?」


 き、金貨2枚だと!? 相当厳しくなるが、魔法はなんとしても覚えたい。ここは行ってしまえ!


「お、お願いします」


 横で見ていたゲインがあきれた顔をしている。


「わかりました。では始めます。体内の魔力が動くのが感じられたら、魔力の動きに集中してください」


 フィーユさんはそう言って魔法陣の数か所の円の中に魔石を置いていった。1つ1つがゴブリンの魔石の2倍くらいありそうだ。すべて配置すると、再び背後に回り背中に手を当てた。


<カンッ>

 背後からおそらく杖をついたであろう音がすると、魔法陣が眩しいほどの光を放ち、魔石が薄っすら黒い煙を放ちながら消えてしまった。

 おお!? 体の外側がじわじわごわごわする気がするぞ、これが魔力か?


「こ、これはっ!?」


 背後のフィーユさんからあせった声が上がる。

え!? なに? まさか魔力が膨大すぎてびっくりしたとか?


「魔力がこり固まりすぎてびくともしません! あなたも自分で動かすよう協力してください!」


 肩こりじゃないんだから。外側のじわじわを意識して動かすように集中する。


「だ、だめだ!手に負えない!キジキ君!応援!応援をお願いします!」


 受付の方から何やらガタガタばたばた音がする。階段を降りて来る音が聞こえ、お爺さんが小走りに入ってきて正面に立ち、両手を差し出して胸に当ててきた。そのとたん、


 身体の中の何かにヒビが入りガラガラと崩れ、身体の中が壊れたかのように思ったら、へその辺りを中心に身体中を何かがぐるぐる廻ってる気がする


(なんだこれ!? 熱い! ぐるぐるして気持ちわるい…)


「よし! 解けたな! その身体をめぐっているのが魔力じゃ! 流れを感じ取り自分で動かすように意識するのじゃ」


(中心のへその辺りからぐるぐる廻って身体の隅々を巡ってまた帰ってきてぐるぐるまわって、そう、血液のようにぐるぐるぐるぐる…)


 魔法陣の光が徐々に消えていくと、あれ程水のようにさらさらながれていた魔力が、粘度が上がるようにとろとろになり、ねばねばになり、もちもちになり、また固まってしまった。

 だが、へその奥の方のほんの僅かな場所だけ、少しだけ柔らかい気がする。


 気が付くと魔法陣の光は消えてしまっていた。


「どうじゃ? 魔力操作は得られたか?」


 問われたので、ステータスを開くと、



魔力操作Lv1


魔力の操作に補正がかかる。



スキルを獲得していた。


「ありがとうございます! 無事獲得できました」


つい手を取って、感謝を述べた。


「お、おう。よかったのう。なじむまでしばらくの間は意識して魔力をうごかすといい。ワシはここのギルドマスターでメラットと言う」


「マスター、すいません。お手を煩わせてしまって」


「なに、仕方ない。近年稀に見る固さだったからの。こういった固いのは外側からじわじわ行くよりも、一気にガンっと行ったほうがいいんじゃ。勉強になったじゃろ」



 ゲインの野郎また笑ってやがる。


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