旅立ち
それから1年が経過した。
「アオォォォーーーン」
フォレストウルフの遠吠えが聞こえる。コイツらが昼間から森に出て来るのは珍しい。
「ちッ」
採取していた薬草を袋に放り込み、森を見渡しながら村の方向へじわじわ後退する。ちらっと見えた。来てるな、2匹、いや3匹か。
ようやく手になじんだ片手剣を抜き放ちつつ、できるだけ開けた場所へ移動する。
真っ先にかけてきた一体が開けた場所にそのまま飛び出して、全速力のまま跳び掛かってくる。それにあわせてこちらも横にかわしつつ、できるだけ身体を深く沈め、下から首筋へと切りつけた。
「キャンッ」
声を出し、すれ違いざまに後方へ落ちていった。
手応えはよかったし、立ち上がれていない。出血も多いしあれは片付いたな。
ちらっと確認し、周囲を確認する。
フォレストウルフにしては連携してこなかったし、安易に跳躍する無用心さ、まだ若い個体だったのかもしれない。
後から来た2匹は安易に開けた場所には出てこずに、森の木々の間をオレを中心とした対角になるようにぐるぐる廻る。フォレストウルフはこれが厄介なんだよなー。2匹で済んだのは運がよかった。3匹だと難易度が違う。
対角のうち1匹が死角に入ったタイミングで2匹同時に突っ込んでくる。
「なめるな!」
見えていたほうのフォレストウルフへ突っ込み返して、不意をついた一瞬の横面に盾を叩きつけた。
すれ違いざまに振り返ると死角から出てきたもう一匹がちょうど跳び掛かってくるところだった。
大きく開けた口に剣を突き入れると、口内から後頭部へ突き抜けた。しかし、勢いはそのまま落ちてきたので、剣を手放し横に避けた。
体勢をたてなおした最後の一匹がかかってきそうだったので、盾をだしてけん制する。さっき盾でぶっ叩いたのが効いたのか下がってくれ……いや、違う!
横から最初に切りつけたフォレストウルフが襲ってきていた。後ろに下がりつつ前足を盾でさばいて回避する。
やはり始めの一撃がずいぶん効いていたようで弱々しく、すぐには立ち上がってこなかった。
その隙に距離を取り、後ろ腰につけた短剣を抜く。
まだHPが残っていたか……
そう、HPは決して無意味ではなかった。体力と言うよりは生命力に近い。生きる力といってもいい。戦闘中に疲れたからって減ったりはしないが、極度の飢えや渇き、病気で減ったりはする。生命維持に重要な器官が傷つけばゼロになる。HPが残っていれば生きていられるのだ。
まぁ、あの出血ではどのみち助からないだろう、血も重要な器官だからな。とは言え、2対1の状況に戻ってしまったのは仕方ない。
今度はこちらから攻撃する。まだ元気なフォレストウルフに走りより、相手が身構えたところへ短剣を投げつける。
意表をつかれたのか、大きくよけた隙にこちらも反対側に跳び、フォレストウルフの死体から片手剣を回収する。傷ついた一匹がそこへ襲ってきた。
「フッ」
今度は正面から切り降ろし、とどめをさした。
残った1匹は唸りながら周りをうろうろした後、去っていった。
「ふぅ」
一息ついて剣の血を拭う。
フォレストウルフの肉はそれほどおいしくない。せいぜい干し肉にするくらいだ。ロープを取り出して若い個体だけ木に吊り血抜きをし、内臓を除いておく。取り除いた内臓ともう一匹は魔石を取ってスライムの餌だ。1匹持ち帰るのがやっとだからな。
スライムは茶色の粘体のような姿をしていて、真ん中の盛り上がった所をペシペシ叩くとぼろぼろと崩れる。魔石が残るらしいのだが、小さすぎて見つけられない。
この1年でなんとか剣も使える様になってきた。
農業もしつつ、剣の稽古・薬草類の採取・加工・ゴブリン狩りとあわただしく過ごし、1週間でわずか2日しか休めないほどのいそがしさだった。なお、この世界の1週間は6日だ。
魔石を確保するため、ゴブリンとも積極的に戦いレベルも8へ上がった。
「ステータスオープン」
名前 : アジフ
種族 : ヒューマン
年齢 : 42
Lv : 8
HP : 96/96(+25)
MP : 19/19(+4)
STR : 31(+5)
VIT : 28(+4)
INT : 11(+1)
MND: 19(+4)
AGI : 22(+3)
DEX : 12(+2)
LUK : 7(+1)
スキル
エラルト語Lv2 リバースエイジLv3 農業Lv3 木工Lv1 解体Lv2
採取Lv2 盾術Lv1 革細工Lv2
称号
異世界よりの来訪者 農民
訓練した割には剣術スキルは得られなかった。調薬スキルも。なぜだ。
しかし、いまでは片手剣で安定してフォレストウルフやゴブリンを狩れているので、成果がなかったわけではないと思う。MPも増えたので今年は5.7歳若返りできる。そしたら36歳だ!
半年ほど前から村のみんなへ村を出る事を知らせて回って、惜しまれつつも理解してもらった。リバースエイジのリキャストタイムも明け、昨日は宴会もしてもらった。
そして今日、旅立ちの日だ。
門には村人全員が見送りにきてくれていた。
正直、過ごしやすい村だった。
何をするにもみんなで協力し、楽しい事もつらい事もわかちあってきた。
4年前にくらべ人口も増えて、これから発展しようって勢いと明るさもあった。
みんなに手伝ってもらいながら、苦労して建てた住み慣れた家もある。
仲良くなったやつらもいる。
・・・でもすまん、行かなきゃならないんだ。
本当の理由は伝えられないが。
門を出て振り返り、深々と頭をさげた。
「みなさん、お世話になりました! さんざんお世話になったのに、死ぬ前にもう一度故郷が見たいなんてわがままもゆるしてもらって申し訳ない気持ちもあります。このルヤナ村で過ごした日々のこと、流れ者の私をあたたかく受け入れてくれた皆さんのこと決して忘れません。4年間、ほんとうにありがとうございました!」
「これが最後みたいな事言うなよ!また遊びにくればいいんだからさ!」
泣き笑いながらズーキも言う。
「旅の無事を祈っておるぞ」
なんだかんだお世話になった村長のナイルさんとメフィカさん。
「お前の畑はオレが守ってやるから必ず様子見に来いよ!」
農民のなんたるかを教えてくれたディックさん。
皆が笑顔で見送ってくれる。
ゲイン、いま泣かれたらこのあと街まで送ってもらうのに恥ずかしいじゃねぇか、バカだなぁ。
前を向いて、一歩進み、振り返り、大きく声を出した。
「みなさん、行ってきます!」
あたたかい拍手と「いってらっしゃい」に送られて、見えなくなるまで何度もふり返り手を振った。
うん、いつになるかわからないし、何歳になってるかもわからない。
たとえ知ってる人がいなくても必ずまたここに来よう。
そう、心に誓って新しい人生のための一歩を踏み出した。
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