明日への課題


「アヒャヒャ…ハァハァ、いや、ともかく面白ぇもんが見れたわ、おつかれさん」


「そのまま笑い死にしてしまえばいいのに」


おっと、口に出てたか。


「いや悪かったって、そう言うな。まぁ、あれだ、まず攻撃を待ちすぎだな、わざわざ相手にチャンスをやるこたぁない。剣の間合いじゃ槍は取り廻せなくってひたすら受けるだけになるぞ。あと、盾を構えるとゴブリンぐらいの高さだと槍が通せなくなるが、それでも構えた体勢から足を狙えたはずだ。まぁそれ以前に相手が振りかぶって全力で隙だらけなのに、槍で刺さないで盾を構えて待ち受けるとか意味が…ブフッ」


「言ってることはその通りだが、笑いすぎて台無しだ」


「さっさと魔石を抜いてもう一回やるぞ」


 ゴブリンにかぎらず魔石はだいたい心臓の辺りにある。胸を開いて魔石を取り出した。ホーンラビットよりほんの少し大きいかな? パチンコ玉くらいだ。

 ギルドに討伐報告をするときは、右耳を切っていくらしい。ルヤナ村にはギルド出張所はないが。

ゴブリンの剣はかなりボロいので、鉄の足しに村の鍛冶へ持っていくことにした。


「いや~ゴブリンの利き腕なんて気にしたことなかったぜ」


「低レベルかつ無駄に高度な駆け引きだったな」


「ああ、当分酒のネタ話にはこまらねぇな」


 だから笑いすぎだっての。


 しばらくもしないうちに今度は2匹の棍棒を持ったゴブリンと出会った。1匹はズーキが弓で射殺し、もう一匹が棍棒を振りかぶって向かってきたので、盾を半身にかまえ槍を突き出すと、相手の勢いもあってドスッと突き刺さった。あまりにもあっさりだったので、納得できないでいると。


「よし、次は2匹同時な」


 と言われた。


 2匹同時に相手をしたら、1匹を突き刺してる間に横から襲われ、槍を手放して逃げまわっていたら、ズーキが笑いすぎで弓の狙いが付けれなくなってゲインに助けられた。


 再チャレンジの2匹同時では右側のゴブリンを先に片付け、左の盾で攻撃をかわし槍を抜いて無事に2匹とも倒せた。


 合計5匹のゴブリンを倒したところで体が軽くなるような感覚があった。久しぶりのレベルアップだ。ステータスを確認すると、Lv6になっておりMPは増えなかったが、盾術のスキルを入手していた。


 さっそく盾術を使ってみたかったのだが、時間切れでこの日はこれまでにした。


「こんなに笑ったのいつ以来か。アジフ、お前はすげぇヤツだ」


「それほめてないだろ」


「「そんなことねぇって」」


 絶対うそだ。まだ目が笑ってやがる。

とはいえ、無事に帰れたのは2人のおかげなので門で礼を言った。


「今日はゴブリンへの恐怖心を克服し、無事に帰ってこれた。ゲイン、ズーキ、2人のおかげだ。ありがとう」


「よせよ、みずくせぇ」


「それはよかったが、ゴブリンは環境や数で思わぬ脅威になる。ランクの高い冒険者がゴブリンにやられるなんて珍しい話でもねぇ。“ゴブリンを笑う者はゴブリンに笑われる”。冒険者の格言だ。忘れるなよ」


「アジフを笑う者はアジフに笑われるぞ」


「そりゃいけねぇな! 今日の祝杯がてら試してみねえとな」


「お前ら昨日も飲んでたじゃねえか! 今日は疲れたから少しだけだぞ」


結局2人はいつも通り飲んだくれたので、途中で抜けて帰ってきた。


 それにしても今日は多くの収穫と、同じくらい反省点のある1日だった。もちろんゴブリンと対峙できるようになったのが一番の収穫だが、レベルアップにスキル獲得、今の戦闘スタイルと装備の問題点など。

 盾の修理もしなくちゃならないが、近い間合いに潜らせないようにすると盾が生きてこないし、近づかれると槍が使えない。兵士の様に槍同士で戦うならまだしも、後々冒険者をやろうと思うなら剣の方がいいかもしれない。


 剣で槍と戦うには3倍の段位が必要なんて言うけれど、盾を組み込むとどうなんだろうか。

 こんどゲインに聞いてみよう。


 で、後日聞いてみた。


「武器の相性なぁ、単純に言えば槍は両手剣に強く、槍と片手剣/片手盾はどっこい、両手剣は片手剣/片手盾に強い。盾/槍は集団戦に強い、が、」


「やはり間合いの長い槍が有利か?」


「まぁ聞け、両手剣は使用している金属が多く、強力な魔法付与に耐えられる。始めは不利でも強くなるほど有利になると言われている。盾持ちは対魔法、対弓戦闘で優位があって人気だ。両手剣も幅広な刀身であれでもなかなかの防御力だ。槍は魔法付与が攻撃力に優れ、はまれば無類の強さを誇るときもあるが、バランスが難しい」


「魔法かぁ~」


「特殊な武具を除いたあくまで一般論だが、槍や両手剣は個人の資質を問われる武器だな。あ、盾/槍の集団戦闘は範囲魔法のえじきになるので廃れたぞ」


「防御の盾と攻撃の槍の組みあわせは良いように思えるんだが?」


「悪くはない。盾があって片手だと、槍は突きくらいしか使えないから応用が利かないけどな」


「確かに」


 結論から言うと、片手剣/片手盾の組合わせで試してみることにした。ゲインにお願いして基本の稽古をたまにしてもらっている。毎日は身体が持たないのだ。


 剣は村では売ってないので、ゲインが街に行く時に買ってきてもらうように頼んだ。どうせ武器の見立てなんてできないし。知識も無ければ鑑定スキルで「む!? これは」なんて掘り出し物を見つけられたりもしない。

 

 買ってきてくれたのはいわゆる“ロングソード”に分類される基本的な一本だ。これがなかなか重くて、今のところ素振りと手入れの練習用になっている。


 お値段は金貨2枚。全財産の半分ほどだ。3年働いた割に少なく思えるかもしれないが、村の生活は基本自給自足&物物交換なので現金収入は少ない。


 貨幣価値は


銅貨  :黒パン1個=銅貨5枚

大銅貨 : 銅貨10枚 (100円くらい?)

銀貨  :大銅貨10枚(1000円)

大銀貨 : 銀貨10枚 (1万円)

金貨  :大銀貨10枚(10万円)

大金貨 : 金貨10枚 (100万円)

白金貨 : 大金貨10枚(1000万円)


 物価基準は黒パンだ。戦争が起これば上がるし豊作が続けば下がる。日本円換算は参考程度。

  硬貨というのははっきり言って重い。持ち歩くのは大変だ。大硬貨はそれを軽減するためにあるので額面よりも含有金属がはっきりと少ない。


 それでも流通するのは敵性勢力も含め全国家が額面での交換を保証しているからだ。どこかの勢力が鋳潰してインチキしそうなもんだが、それをやると確実に神の怒りに触れるらしい。通貨保証とは神様も意外とマメだ。


 今までは物物交換でよかったのだが、これから街に向かうとなれば現金が必要だ。この村で手に入れられる物で換金可能な物は主に「毛皮」「食料」「魔石」「木材加工品」「魔物素材」等。


 「毛皮」「食料」「木材加工品」は定期的に街に売りにいかねばならず、村にはそれぞれの担当がいるので難しい。魔物素材は素材が売れるほどの魔物を狩れないので無理だ。


 残るは「魔石」だけなのだが、じつはメフィカさんに教わった技がある。薬草や毒消し草、麻痺消し草など薬草類の葉っぱを乾燥させて、葉脈や茎を丁寧に取り除いた物を薬研で粉末状にした物を、街の調薬士へ持って行くと買い取ってくれるらしいのだ。なお、薬研はメフィカさんに借りた。

 しかも才能があれば、その作業でスキル調薬が取れるかもしれないそうだ。



 これはやるしかない!


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