強敵との別れ
今着ているのは遺体から頂戴した物だ(盗んだとも言う)。もし見覚えがあったら、遺体から取ったのがばれてしまうかもしれない。ここは正直に申告しておくか。
「あ、あの…」
「なんじゃ」
言いづらい。
「じ、じつは…」
「だからなんじゃ」
村長の目つきが鋭くなってきてる気がする。
「今着ている服は遺体からいただいた物なのです。逃げ出した時は肌着一枚で肌寒かったうえに、色も白っぽくてどうしても森の中で目立ってしまって…」
村長はじっとこちらを見つめ、しばらくしてから目を閉じてため息をついた。
ゲイン…さんはなんでもないように手を振った。
「死体の剥ぎ取りなんざ誰でもやってる。気にすんな」
「まぁ感心はせんがな。それで、デストの服もあるのか?」
「デスト?さんはどんな方で?」
「灰色の髪と茶色い目をしている。背はおぬしよりも少し高いくらいか。痩せても太ってもおらん」
「右手に古傷があったはずだ。」
右手の傷はわからないが…御者が灰色の髪だった。
「この上着がそうだと思います」
上着を脱いで手渡した。少し肌寒い。村長は受け取った上着を奥さんに渡した。
「メフィカ、これをメリッサに渡して確認してきてくれんか」
奥さんは無言で受け取ると出かけて行った。
「で、アジフ、だったか。盗賊どもは何人くらいでどんな装備だったんだ?」
「6人で全員馬に乗っていました。槍が3人、剣が3人で服装はぼろい毛皮を適当に巻いてる感じでしたね」
「騎乗が6人か…ナイルさん、これは村の手には余りますぜ」
ゲインさんが顔をしかめるが、村長が留める。
「まぁ待て、アジフ、盗賊はそれで全員なのか? アジトは何処にあるんじゃ?」
「すいません。街道で確認できたのは6人ですが、アジトに連れていかれたわけではないので、他に仲間がいるのか、アジトがあるのかどこなのかはわかりません」
「ふむ、すまんがそれを完全に信用するわけにはいかん。お前さんが盗賊の仲間で夜中に手引きされんともかぎらんしの。とは言え話はメフィカが戻ってきてからじゃな。ところでアジフ、飯は食べたのか?」
「いいえ、正直倒れそうです」
夕飯前に異世界へ来たのが昼ごろだと思われるから、2食抜いたことになるうえに、慣れない戦いと緊張に結構な距離を歩いた。ふらふらだ。
「そうか、たいした物はないがよかったら食べていくがいい」
そう言って村長が厨房から持ってきたのはパンとスープだった。パンはぱさぱさでスープは塩味のみでおまけに冷めていてお世辞にも味はよくなかったが、正直とてつもなく美味く感じた。
異世界へ来てから張りつめていた心がふっとゆるんで油断してしまったのか、ほろり、涙が出てしまった。
「おいおい、泣くほど美味いなんてことはないだろ?」
「なんじゃ、メフィカの料理にケチをつける気か」
「いやそう言う訳じゃねえが…」
「すいません。人の優しさの味がしたのでつい」
「それは美味くはないってことかの?」
「いえ、おいしかったです」
目をあわせて笑いあう。悪い人たちではなさそうだ。
話をしているうちにメフィカさんが帰ってきた。
「デストの服で間違いないそうよ。メリッサが泣いちゃってねぇ。わたし、今夜はもう少しメリッサについてるわ」
「アジフの話ではルディは殺されていないようじゃ。アジフそうじゃな?」
「はい、少年は縛られて荷台に乗せられているようでした」
「おそらく違法奴隷としてでも売り払う気じゃろう。急げば救出できるかもしれん。デストのことは残念じゃが、メリッサに気をしっかりもつよう励ましてやってくれ」
「わかったわ」
メフィカさんは力強くうなずくと、すぐ戻って行った。
「明日には遺体は残っておるまい、じゃがこれから調査に出るにはあまりにも危険じゃ。それでも何かが残っておるかもしれんし、明日の朝一番にでも調査に出てもらおう。同時にポワルソの冒険者ギルドに依頼を出さねばなるまい。護衛依頼の失敗報告と違約金の受け取りに行かねばならんかもしれんしの」
予想はしていたが、やはり冒険者がいてギルドがあるのか。なら、せめて子供が助かるように協力したい。
「あの!」
声を上げると2人がこちらを見た。
「ギルドに依頼するならこれをたしにしてもらえせんか?」
ポケットから金貨らしきものを1枚出してテーブルの上に置く。
「おめぇ、金貨じゃねえか! よく盗賊どもに取られなかったな!」
「少なくとも6人以上の盗賊の盗伐依頼じゃと、最低でも金貨3枚以上はかかる。ありがたいが、よいのか?」
しっかりとうなずく。なんて言っても、もともと自分のお金じゃないのだ。
「さて、この状況じゃ盗賊が討伐されるまでお前さんを野放しにするわけにはいかん。夜は錠付きの小屋に泊まってもらうが、よいか?」
「もちろんです。屋根があるだけでありがたいです。それで…ここまで良くしてもらって厚かましいのですが、お願いがあるのです」
「なんじゃ、ゆうてみぃ」
「財産もなく、装備もなく、行くあてもありません。なんでもします! この村に置いてもらえませんか?」
机に頭をこすりつけて全力で頼み込んだ。盗賊を見て、角ウサギと戦い、冒険者として戦うなんて今は無理だとわかった。それなら、なんとか生き残る方法を探さなければならない。 たとえみっともないと言われても。
「うむぅ…人手は足りとらんが…まぁ盗賊が退治されれば考えてやろう」
「ありがとうございます! よろしくお願いします!」
ゲインさんにつれられて行ったのは納屋の様な小屋だった。
「壺を置いとくから用はそこでしな」
扉を閉められ真っ暗になると、疲れがたまっていたのだろう、気を失うように眠ってしまった。
翌朝たたき起こされ、パンとスープをもらってから腰に縄を付けられ遺体の場所へ案内することになった。
村を出る時に小学生か中学生くらいの子供たちが村を出ていくのに出会い、ゲインさんは子供たちに
「盗賊がいるかもしれねえから森に近づくんじゃねぇぞ」
注意して子供たちは気軽な様子で返事をしていた。
「子供だけで大丈夫なのか?」
「あいつらは立派な狩人だ。危険はわきまえているさ」
とのこと、異世界スパルタだな。
盗賊に会う事無く遺体の場所までくると、遺体は嘘の様に無くなっていた。魔物が食べ、残りはスライムが食べてしまうらしい。ただ、3人の数点の所持品が散乱していたのでそれを回収した。金属も時間をかけて溶かすらしく、金貨は残っていなかった。
村へ戻ると、少年たちが獲物を持って戻ったのに出くわした。それはあの角のあるウサギで、しかもそのウサギの左頬には縦に真新しい傷がついていて
「その傷は君たちが付けたのか?」
「いや、はじめからついてたぞ、なぁ?」
「ああ、俺たちじゃない」
と言うので思わず。
「
もの言わぬ骸にしがみついた。
どういう事かたずねられたので、昨日の熱い戦いを語ると、
「ホーンラビットにそんな大げさな」
笑われてしまった。弓の一射から短剣で一撃だったらしい。
納得いかない点もあるが、アレの名前はホーンラビットでよかった様だ。予想通りすぎる。
盗賊は冒険者の手によって討伐されたらしいが、依頼をうける冒険者がいなくてその間にも他に被害が発生、事態を重く見た隣町のポワルソの冒険者ギルドが近隣のDランクパーティに応援を要請、冒険者が到着して討伐されるまでに時間がかかってしまった。やっぱりあるんだな、冒険者ランク。
アジトまで殲滅したそうだが、ルディ君はすでに売られてしまっていたそうだ。一応行方はさがしてみるそうだが、闇市場にながれた奴隷を探すのはほぼ無理らしく、メリッサさんはそりゃもう泣いて泣いて。毎日外まで聞こえてきてかわいそうだった。
なにができた訳でもなかったのだが、一応心の中で(すまない)とつぶやいた。
ともあれ、無事に盗賊が討伐されたので、村で仕事がもらえる事になった。
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