no,2
全力でプンスカ怒るサラにアオイは声を出して笑っていた。
相手の気持ちぐらいは分かっている。ちょっとからかっただけでこれだ。
本当に見てて飽きないし、一緒に居て安らぐ。
「はいはい分かりました。俺が悪かったですよ」
「そうです。アオイが悪いんです」
「……悪いと言ってる相手に抱き付いて来るのはどうでしょうか?」
「良いんです」
ギュッと抱き付いて来た相手がブルブルと震えている。
こんなに緊張する必要なんてないのに……でも愛の告白だから緊張するものか。
そう認識したらアオイも緊張して来た。本当に今更だが。
早まる動悸を押さえつけながら、とりあえずこの状況を打破するべく……相手の尻へと手を伸ばした。
鼓動が一回大きく脈打った。
「おまっ! 服は?」
「……良いんです」
「意味が分かりません!」
「良いんです。ってお尻触ってるじゃないですか!」
「生尻があったのでつい」
お尻から背中へと手を動かしてみるが……相手は何も身に付けていなかった。
部屋に入った時に気づかなかった。いつもより足が見えるな程度だった。
ギュッと抱き付いて来るサラが顔を真っ赤にしていた。
「アオイは絶対に行きます。ならわたしはその邪魔をするんです」
「あ~。分かった行かない。これで良いだろ?」
「行きます。行くんです。だってわたしの夢は変に当たるから!」
「あ~そうなの?」
「はい。だからキッシュにだけ言ってたんです。でもいつも当たるから怖くて怖くて」
「大丈夫だって。アオイさんは死にませんから。つかもう一回死んでますしね」
「でもダメです。アオイは行きます。そして……消えて無くなるんです。見ました。夢で」
涙が止まらない。
ボロボロと零れる涙が彼女の頬をずっと転がっている。
それは見ててアオイの胸を締め付ける。とても苦しいぐらいに。
「だから邪魔するんです。絶対に行かせません」
「全裸の意味が分からんがな」
「意味はあります。エッチなアオイなら……その……ずっとエッチしていれば行けないはずです」
「違う意味で逝きっぱなしになるわ!」
「良いんです。アオイが居なくなるよりかはずっと良いんです」
意を決した様子で彼女は起き上がり、アオイの上に跨った。
中身は本当に色々と残念な部分もあるが……その顔やスタイルは本当に素晴らしい。
一糸纏わぬその姿にアオイは完全に見入ってしまった。
「そんなに見ないで下さい!」
「もう言ってることがハチャメチャだな!」
「恥ずかしいものは恥ずかしいんです!」
正論だ。
ただ両腕で覆うように胸を隠す仕草など……逆に色っぽく見えるから不思議だ。
「もう今からアオイを眠らせません。毎日エッチして燃え尽きてベッドの上で死んでてください!」
「何日かしたら本当に死ぬぞそれ?」
「世界が滅びるか、アオイが燃え尽きるか勝負です!」
「だったら世界を救うために行かせてくれよ。少なくてもそっちの方が建設的だ」
「ダメです! アオイが一人で死んだら……一緒が良いんです!」
「だったら二人で一緒に行けば良くないか? 巻き添えにするのは正直あれだけど」
「良いんですか?」
キョトンとした様子でサラは彼を見た。
気が抜けた拍子で降ろされた腕からこぼれ出る胸にアオイの理性が飛びかけた。
「あれだろ? 死ぬなら一緒が良いとか言いたいんだろ?」
「……はい」
「分かった。一緒に死んでやるから来い」
「良いんですか?」
「誰が困るんだ?」
問われて困った。確かに誰も困らない様な気がする。
「でも普通……こんな時は、『お前は残れ』とか言う場面じゃ?」
「物語に感化され過ぎだ。俺は来たいと言う者を置いてくほど人間出来て無いよ」
「そうですね。それがアオイですね」
「もしダメだったら見捨てて逃げるけどな」
「ア~オ~イ~!」
「それで良いなら好きにしろ」
「はい。好きにします」
問題解決とばかりに彼の上から退こうとしたサラだったが……動けなかった。
「アオイ。何か終わったら恥ずかしさの方が勝って来て」
「だろうな。全裸を晒している馬鹿を見上げるのは悪くない」
「いや~! 放して下さい! って何故ガッチリと両手を掴むんですか?」
「揺れる胸が大迫力」
「もうアオイ! 放して下さい!」
「いやだ」
「……嫌ですか?」
「嫌だな」
「……どうしても」
「離したくない」
そっと自分の身を屈め……サラは相手の顔へと近づく。
離してくれないから。どうしても相手が離してくれないから。
零距離となって二人はキスしていた。
ん~と背伸びをしてアオイは部屋を出た。
ベッドの上では燃え尽きたサラがぐっすりと寝ている。
「行くのか?」
「行くよ」
「あの子は泣くぞ」
「それでも良いさ」
「そうか」
「なあキッシュ」
「何だ」
「……後始末頼んで良い?」
「頑張り過ぎだ。馬鹿者」
「人魚の血って精力増強にも効くのな。若いのにビックリだよ」
「さっさと行け。そして死んで来い」
アオイに齧られた手首を軽く触りキッシュはサラが寝ている部屋へと入って行った。
それを見送りアオイは食堂へ向かう。
カウンターの中にはエスーナが居た。
「行くの?」
「はい」
「……次は私の番だと思ったのに」
「なら帰って来たらお願いします」
「そうね。その時はおねーさんの全力を見せてあげる」
「なら俺も全力で迎え撃ちましょう」
「楽しみにしてるわ」
ボロボロと涙を溢して彼女は笑った。
頭を掻きつつアオイは顔を上げた。
「逝って来ます」
(C) 甲斐八雲
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