no,3

 寒さに震えながら推理していても解決しない。

 何より遺跡の奥……その入り口は物陰にでも隠れてて見えないのだろうか、地下の方にハッキリと危ない敵の反応がある。


 それが動き出す前に離れた方が良いとアオイは判断した。


「良し帰るか」

「迷子だと言う事実を忘れてますね?」

「馬鹿と一緒にするな。俺は頭が良いと言ったろ」

「……ならどうすれば帰り道が分かるんですか?」


 口から出まかせだろうと言う雰囲気たっぷりなサラの物言いに、アオイは相手をマントの外へと追い出した。


「寒いです。凍えます」

「戻る前に地面を見ろ」

「地面?」

「ここが遺跡なら人の出入りがある。つまり自然と足跡で道が出来るんだよ」

「そうなんですか」

「少ないシーフの見せ場だ。優れた目で地面を見つめて足跡を探せ。つかその手のスキルあるだろ?」

「鍵開けとか罠捜索とか罠解除とかならあるんですけど」

「頑張れ盗人」

「……」


 全身全霊で不満を訴える相手に、アオイは澄んだ笑顔で無視した。

 しくしくと泣きながら地面にしゃがみ込んだ彼女は、ジッと見つめて足跡を探した。


「こっちですね。あっちに向かう足跡の数が多いです」

「良し行くぞ」

「って、入れてください! アオイ一人で行くなんてズルいです」

「お前よくそんな恥ずかしい言葉を普通に言えるな?」

「なに言ってるんですか。寒いです」

「はいはい」


 定位置に戻ったサラはホッと息を吐いて……マントの中で相手の手を握った。

 大丈夫。夢で見たのと違いちゃんとその手を掴まえることが出来た。


「歩き難いんだけどな」

「寒いのは嫌です」

「何か出て来たら危ないだろうに」

「平気です。アオイが守ってくれますから」

「その他人任せな感じが腹立たしい」

「だから揉まないで下さい! ってお尻はダメです!」

「こんなことしてないでさっさと帰れと思うんだよな」

「やってる本人が言わないで下さい!」


 もっともな意見なので、サラの背を押し歩き出した。




 戻った村は静まり返っていた。

 良く分からないがエスーナの店に冒険者が集まっているので、『自分ここの住人ですが何か?』と言った面持ちでアオイたちは突入した。


「アオイ!」

「サラフィー!」

「はい?」

「ただいまです」


 カウンターの側に居たエスーナとキッシュが弾かれたように二人に駆け寄り抱き付いた。

 やはり弾力は大切だと……エスーナに抱き付かれるアオイは心底思った。キッシュに抱き付かれても喜びが少ない。やはりクッションは大切なのだ。


「よく無事だったわね」

「自分日頃の行いが良いですから」

「「……」」

「外野も含めてなぜ全員が静粛するのか理由を述べよ!」

「「……」」

「黙秘かよ!」


 滑った恥ずかしさもあり、手当たり次第に喧嘩を売りたくなったが……エスーナが全力で抱き付いて来ているので許すことにする。

 やはりクッションは大切なのだ。怒りを抑制する緩衝材にもなる。


「で、何がどうなったんですか?」

「分からないのよ。ここ数日やけに寒くなって来たと思ったら、昨日の夜に一気に冷え込んで」

「ですね。途中で凍死体を幾人か見ました」


 彼のその発言で外野がザワザワと騒いだ。


「……それはどの辺?」

「遺跡っぽい所ですかね。戦士風の中年男性と魔法使い風の中年女性、あとそこから少し離れた場所に戦士風の青年が」

「戻っていないパーティーがあるからそのうちのどれかだと思うわ」

「戻ってない?」

「ええ。遺跡の中に入っていたと思うパーティーは数日前から」


 商人の言葉にアオイは首を傾げた。

 ちょっと腑に落ちない。


「俺たちが遺跡から戻って来た最後として……その前にあそこから帰って来たパーティーは?」


 エスーナに問いかけると言うより、食堂に居る冒険者に問いかける言葉だった。

 ザワザワと話し合いしばらくすると結論が出た。


「三日前の朝が最後か」

「そうみたいね」


 カウンターの席に腰かけてとりあえず食事を頼む。

 今朝から何も口にしていない事実を思い出し、アオイも自分が緊張していたのだと痛感した。


 暖かな飲み物を先に貰い、サラと二人で飲み干して一息入れる。

 ただこちらを見るエスーナとキッシュの視線が、彼としては妙に気になる。

 椅子を動かしてすぐ隣……くっ付かんばかりの位置に居るサラを見る目が暖かい。


「それから中に入る者が居ても、出て来る者は居なかった」

「そうなるわね」

「……三日前って何かあったか?」

「確か一番ベテランのパーティーが最下層に到着したって話が出てたわね」

「ラストアタックして返り討ちか」

「どうしてそう思うの?」

「遺跡の奥からヤバい敵の気配がするから」

「危機感知のスキル? あれってステータスのレベルで相手を計るからあまり意味が無いわよ」


 そう。エスーナの言う通りだ。

 仮にレベル10の者が使えば、11以上の相手は全て反応する。


 ため息一つ吐いて……アオイは危機感知スキルを使った。何の反応も無い。

 当たり前だ。自分のステータスはMaxなのだから。


「ここでそのスキルを使うとさ、何の反応も示さない訳よ」

「……本気で言ってるのアオイ?」

「ああ本気。どうやら俺がこの中で一番ステータスレベルは高いらしい」


 ザワッと食堂内の空気が変わった。

 この手の反応が嫌いだから手の内を曝さないのだが……緊急事態なら仕方ない。




(C) 甲斐八雲

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