no,2
「アオイの体は暖かいですね」
「……俺の世界だと、手とか暖かい奴は心が冷たいんだとさ」
「ん? ならアオイの心は冷たくても、これぐらいのことが出来るほど優しいってことですね」
「何か恥ずいことを言われたからおっぱい揉んで誤魔化そう」
「ちょーっ! 直はダメです! 手が冷たい! 折角温まってるのに!」
キャンキャン騒ぐサラを連れ、アオイはゆっくりと歩き続ける。
使えそうなスキルをいくつか使ってみるが……特にこれと言った反応を示したのは一つだけだった。
"危険感知"
自分より強力な敵が居る場合にのみ危険を知らせてくれるスキル。
ステータスMaxのアオイからすれば、そんな敵などおいそれ居ないはずだった。
そのはずだったのに……反応が出て止まらない。
たぶん確実に1体、とんでもなく強い敵が居ることは間違いなさそうだ。
「アオイ?」
「ん」
「あそこに何か見えます」
「見えんぞ?」
「これでも目は良い方なんです」
自慢気な様子にイラッとしたので、アオイは胸を揉んで黙らせた。
とは言え行く宛も無いから言われた方向に向かい進んで行くと……それが目に飛び込んで来た。
遺跡っぽい感じの石柱が地面に突き刺さっていた。
元々は屋根か何かを支えていた柱だったのかもしれないが、今では見るも無残な状態になっている。
地面に倒れていたり、斜めになっている物もあれば、半ばから折れたり砕けたりしている物もある。
足元に転がっている人の頭ほどの石に気を付けながら、二人は辺りの様子を確認しつつ奥へと向かう。
霧が濃くなっている。まるで吐き出し口のように……霧が遺跡の奥から流れて来る。
「アオイ」
「何か見えたか?」
「……」
顔を背けマントの中に隠れたサラが、彼の胸に抱き付きブルブルと震える。
その様子から良くない物が見えたことぐらい判断できた。
ゆっくりと相手を促すように歩を進め……ようやくアオイの目でそれを確認した。
「凍ってるな」
「……」
一瞬閉じられていたマントの前が開いたかと思ったら、ピシャッと閉じられた。
確認して現実を理解したのだろう。地面の上に転がる凍死体の存在を。
二人で息を合わせてしゃがみ、アオイは軽く地面に横たわっている死体を確認した。
中年男性だった。装備は悪くない。感じとしては剣士か戦士と言った感じだ。
ただこの手の職業が一人で冒険するとは思えない。
ゆっくりと辺りを見渡すと……もう一つ倒れているモノを見つけた。
確認したら今度は中年女性だった。
装備の感じからして後衛職……魔法系のスキル持ちかもしれない。
二人と言うのはおかしいからもう何人か転がっている可能性もある。
だがアオイはそこで捜索を打ち切った。
遺体を見つけても何も出来ない。いや出来るとすれば埋葬することくらいだ。
この世界には……"蘇生"のスキルは無いのだから。
「見つけた死体は二つ。どっちも凍っていた」
「……今日は寒いですからね」
「良し馬鹿よ。俺の手が冷たくなってきたから温めろ」
「いや~! 背中に入れないで! 足! ってどこに入れようとしてるんですか!」
「挟めれば温まるかと」
「そこはダメです。色々とダメですから!」
マントの中で必死に体を捻って回避するサラとじゃれていたら温まって来た。
やはり人間最後は、互いに肌を寄せ合って温めるのか一番らしい。
「俺もお前も凍死して無いだろうが」
「ほえ?」
「焚火で暖を取っててもあの熱量ならたかが知れてる」
「ならどうしてですか?」
「考えられるのは……距離か悪夢だな」
「距離? 悪夢?」
「距離は遺跡と俺たちが居た場所の距離のことだ。凍死するほど寒くない場所に居たって可能性だ」
遺跡から離れた場所で二人は足を止めて状況を確認する。
モンスターの類が全身に霜を乗せて凍り付いている様にも見えた。
気づき確認すると、マントの端などが霧で濡れて凍りだしていた。
「で、もう一つの可能性が悪夢だ」
「悪夢ですか?」
「ちなみにお前が見た悪夢な……あれって呪いなんだわ」
「そうですか。だからあんな飛び切り怖い物を見せられたんですね」
「そうなるな」
「誰がやったのかは知りませんが、初めて"殺意"を覚えた気がします」
「俺のことをブスッと刺した記憶は排除したのね」
「もうバッチリ忘れてました!」
サラの両頬を手で挟んで暖を取る。
冷たい手に驚いた彼女は……対抗したが相手の力に負けてしくしく泣いた。
「たぶん悪夢の呪いは受けた者を強制的に眠らせるんだと思う。で、この霧と冷たさで相手を凍死させるんだろうな」
「手の込んだ攻撃ですね。アオイの嫌がせって、いや~! 頬を引っ張らないで下さい!」
「意外とモチモチしてて触り心地良いのな」
「止めてください。そんなに触らないで」
顔を振って抵抗するのでアオイは手を離した。
「ただ人を殺して回る意味が分からんな」
「アオイでも解らないこととかあるんですか?」
「おいおい。俺ってば頭は良いけどこの世界の知識が足らないのよ」
「ならわたしにお任せください。どんな質問でもお答えします」
「人間の子供ってどうしたら出来るの?」
「即答で何て質問して来るんですか!」
「ねえどうしたら出来るのさ?」
「知りません!」
その返事の仕方は知っていると言ってる様な物だった。
(C) 甲斐八雲
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