三章 『正直で素直な盗人』
no,1
「大変な事実に気づいたぞ」
「ぜぇぜぇ……何ですか?」
また殲滅に時間が掛かっている間にカッビィーの数が増えていた。
リンクと言う襲われている仲間を助ける能力を持つカッビィーはとにかく集まって来る。
そして殲滅力の全くないサラが延々と剣で叩き続けるのだ。そう延々と。
「お前の職業を一度として聞いていなかった事実だ。さあ言え」
「言ってませんでしたか? "シーフ"と言うらしいのですが……何の職業か良く知らないんです」
「良し分かった。この犯罪者」
「いきなりわたしを罪人扱いしないで下さい!」
「俺を殺そうとした過去はもう忘れたのか?」
「……犬でも馬鹿でも犯罪者でもお好きにお呼び下さい」
その頬に涙の川を作ってサラは全てを受け入れた。
もう開き直ったというか、現実を受け入れたと言っても良い様子だ。
「……それでシーフって何なんですか?」
「確か盗人とかだったな」
「……わたし盗みとかしてません!」
「俺に文句を言うな。つか嫌なら転職しろ」
「……わたしたちは転職できないんです」
「そうなの?」
「はい。陸上に来た時に、海での生活が反映されて職業が固定されま……す」
「おい罪人。何をした? つか財宝を盗んだとか言ってたな?」
「あれは一族の物です。一族の物ならわたしの物です。自分の物なら盗みになりません」
とんでもない理論だが納得は出来る。遺産相続する前に遺産を使うのは罪では無い。
「本当に何もしてないんです。わたしはこれでもサンゴ細工とかが得意で良く作ってました」
「ほかには?」
「それぐらいです。食う寝る仕事と読書がわたしの日々の生活でした」
「話を聞く限り普通だな。つまりそれ以外で何かしていたのだな」
「何もしてません。わたしは真面目に細工とかしていただけです。でも良いサンゴは奪い合いで大変でした。みんないろんな場所にしまうので、それをお借りして作ったりするくらい真面目に」
「罪人。自白したな」
「……自白とかしてません! 何ですか!」
心外とばかりに彼女は吠えた。
犯した罪を理解していない相手にそれを説明するのは面倒臭い。
アオイはただ黙って……サラの肩をポンポンと叩いた。
「馬鹿にされるよりも心にズシッと来るのですが!」
「人は事実を把握すると気付くんだよ。自分の罪をな」
「もう! わたしが何をしたって言うんですか!」
「……他人がしまっている物を勝手に持ち出した。それを窃盗と言う」
「せっとう?」
「窃盗は罪です。立派な犯罪者です。分かりましたか大馬鹿者よ」
「……」
それはとても面白い表情を見せてサラは地面へと崩れ落ちた。
ようやく自分の行っていた行為を理解したのだろう。
「まあ悔い改めろ。お前は一生盗人だけどな」
「……アオイは優しい言葉をたまには思い出して下さい」
「お前以外には結構使うこともあるぞ?」
「わたしにも使って下さい!」
「……使う必要性を感じないな」
膝を抱えてサラはいじけた。
「ちわ~っす」
「いらっしゃい」
「……シーフ用の武器って何かありますか?」
「シーフね」
村に唯一の商店にアオイとサラは来ていた。
中型の剣はシーフ向きじゃない無いっぽいので他の物を探しに来たのだ。
ただここはあくまで商店。扱っている商品は基本日用品がメインだ。
武器や防具は最低限の物しか置いていない。
店主である商人はごく普通の中年男性だ。職業が商人なのかも怪しい。
「短剣が普通だと思ったけど」
「短剣ですが」
「……短剣は嫌です。敵との距離が近いから怖いです」
死活問題と言っても良い気持ちだった。
敵と戦うのは怖い。出来るだけ離れて戦いたい。それがサラの本心だ。
アオイは即座に馬鹿にデコピンを食らわせて黙らせた。
「お勧めの短剣は?」
「嫌なんです~。どうか短剣以外で」
「ああうざい」
腰にしがみ付いて懇願して来る彼女が本当に邪魔だ。
戦うのが怖いなら冒険者などに成るなと言いたい。
彼女の場合はもう海に帰れないらしいから地上で生きる手段として最終的な選択肢だったのだろう。
「短剣以外は何が?」
「……そうですね。弓とかは?」
「弓ですか? 弓は専門の職業が居ましたよね」
「ええ。狩人ですね。でもシーフも使えるんですよ。手先が器用なら」
「おい残念美人。手先は器用か?」
「褒められた気がしないのですが」
「真っ直ぐ馬鹿にしているからな」
「しくしく……手先の器用さなら自信あります。細工物なら一番でした」
「なら弓で」
勝手に弓と矢を買って、持っていた剣を売却する。
差し引きマイナスだが……アオイは替わりに支払いを済ませた。
二人は店を出る。
新しい弓と矢にサラは上機嫌な様子だ。
どこか踊り出しそうな雰囲気すら漂わせている。
「なあ馬鹿?」
「何ですか?」
「それ……足らなかった代金返せよ」
ピタッと足を止めて青い顔を彼に向ける。
ブルブルと全身を震わせてサラは彼を見た。
泣き出しそうな顔でだ。
「贈り物じゃないんですか?」
「はっ。笑わせるな。何を記念しての贈り物だ?」
「……そうですね。アオイはそういう人でしたね」
素直に地面に両膝を降ろし、サラは迷うこと無く土下座した。
「もうお金なんてありません。知ってますよね?」
「頭を下げながら開き直るお前の精神も結構凄いと思うけどな」
「開き直るしかないじゃないですか!」
「で、どうする?」
「……一生懸命働いてお返しします」
(C) 甲斐八雲
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます