no,2
「もしパーティーメンバーを募りたいなら紹介するわよ?」
「いえ結構です」
「ん?」
「また頭をかち割られるのが嫌なのでもしばらくは一人で」
「……そうね。まあ出来なくは無いでしょうけど」
カウンターを出たエスーナは、食堂の壁にかかる物を数枚剥した。
「神官が一人で出来る仕事なんて、こんな素材集めの仕事くらいかしら」
「……」
受け取り見てみる。
皮っぽい物に文字が書かれていた。羊皮紙と言われる物だろう。
内容は全て素材集めだ。
薬草、キノコ、枝など絵柄と特徴が書かれている。
「この辺りは人が住むには辺鄙な場所だから自然が多いの。だから大きな街から素材集めの仕事がたくさん舞い込むのよ」
「へ~」
「まあパーティーを組んで素材集めは色々と効率悪いから、駆け出しの初心者ぐらいしかやらないわ。そんな人たちは宿に泊まると儲けが出ないから基本野宿なの」
「ならこの店の収入源は?」
「食堂がメインかしら。たまに宿泊するお客さんが居る程度」
「もしここで生活するとしたら?」
「そうね。一日銀貨50枚で良いわ。朝夕の食事も欲しいなら銀貨100枚」
彼は自分が持つ小袋を相手に差し出す。
受け取ったエスーナは中身を自分の掌に並べた。
アオイはそこから1枚だけ回収しておく。無一文は流石に怖い。
「金貨2枚ね。本来なら20日だけど……サービスで22日にしてあげるわよ?」
「それでお願いします」
「ええ。それと今着ている服なんだけど……一応他のお客さんが置いてったままの服だから戻しておきたいのよね。たぶん死んでると思うけど帰ってくるかもしれないから早く返してね」
そんな人の服を着るのはちょっとなので、アオイは早く着替えたくなった。
「金貨1枚で服とかどうにかなりますか?」
「それだけあれば服から何から揃えられるわよ。でも装備品までは難しいかも知れないわね」
「神官の装備って?」
質問されてエスーナは少し考え込んだ。
「……武器を持っている姿は見たこと無いわね。持ってても棒みたいに長い杖かしら?」
「魔法使いみたいな装備ですね」
「そうね。でも後衛ってそんな感じかしら。あとは短い杖とか」
「で着る方は?」
「それは色々ね。鉄の鎧とかも着ている人が居たわね。神官は数が少ないから比較的皆が守ってくれるのよ」
「なら軽装でも問題無いですね?」
「問題は無いけど……防御力は無いわよ?」
「ヒールがあるんで問題無いです」
「……記憶が無いから言っておくけど、スキルは使用回数があるわよ?」
根が良い人なのか、彼女は真面目な感じでそう言って来た。
だがアオイは気軽い感じで受け答える。
「大丈夫ですよ。敵の攻撃を避けて逃げれば良いんですし」
「だから避けるのにも限界があるでしょ? それとステータスに自信があるの?」
「見方も知りません」
「はぁ~。良い? 心の中でステータスと念じて」
「で?」
「項目ごとに数字が見えるでしょ? それを増やすのにも経験値が必要なの。経験値はスキルとも兼用だからどちらかを集中して増やすとバランスが悪くなるわよ」
ゲームみたいだな。それがアオイの素直な感想だった。
昔……子供の頃にやったネットゲームがこんな感じだった気がするのだ。
アオイは確認したステータスを見て笑った。
自分らしい数字の振り方だった。これならどうにかなる。
「経験値は、この仕事を受けてやれば増えますか?」
「……増えるわよ」
もう諦めた感じで、彼女は質問に応える姿勢を見せる。
ある意味商人の鏡なのかもしれない。
「その依頼書を持って素材を集めてここに届けてくれれば、私が確認をして依頼達成の処理をするわ。そうすれば貴方に経験値と見合った報奨金が入る。でもどちらも微々たる物よ?」
「だろうね。でもこれ全部受ければ良いんでしょ?」
「……はぁ?」
「素材集めの仕事を全部受けるってこと」
「無理じゃ無いけど……」
会話をしながら適当に心の中で色々と念じた結果、アオイはその可能性に気づいていた。
「"
「思い出したの? ええそうよ。ステータスレベルが高ければ"袋"の容量は増えるわ」
「他に増やす方法は?」
「商人は職業柄増やせるわ。他の職業は無理ね。消耗品などを背負い袋に入れるくらいかしら」
「左様で。バック」
宣言すると手の中に袋が生まれた。
中を見てみると空だ。ただ容量は結構ありそうに見える。
ステータスのレベルに順じているならそれもそうだ。
「この中に入れられるのって?」
「素材以外の生ものはダメよ。人も入れられないわ」
「あら不便」
「人を入れて何をする気なのよ?」
「そりゃ~俺も男ですから」
「……奴隷商人紛いのことは捕まったら"しけい"よ? よってたかって石を投げられて殺されるわよ」
「そっちの"私刑"か。まあそんな商売する気も無いけどね」
話が過ぎて随分とゆっくりした食事となったが、アオイは出された料理を全て胃袋に納めた。
血が足らないのかまだ少しふらつくが、彼はカウンターに手を着き立ち上がる。
「よっと」
「……早速素材集め?」
「いえ。今日は買い物をして明日から行こうかと」
「それが良いわね。もし買い物に行くなら声を掛けて」
「理由は?」
「私も一人でこの店を回しているから忙しいのよ」
「……」
「今食べた食事分くらい手伝ってくれても文句は無いはずよね?」
「商売上手だ」
その皮肉に、一体いくらの値段か解らないが……エスーナが良い笑顔を向けて来た。
(C) 甲斐八雲
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