第2話 飛ばされた先

「お前の力じゃ私は止められないぞ!」

「くそ! 俺だって! お前を止めることぐらい!」


 伊織が黒いフードの女性に再度近づくと、伊織の腹部に凄まじい衝撃が走った。伊織は吹き飛んだわけではなく、その場で衝撃波を受けていた。その衝撃波は黒いフードの女性が伊織に放ったものであり、伊織は着ていた鎧が弾け飛び、口から血を吐いていた。


「ぐはぁ……何だこれは……」

「知らないの? 魔法とは違う気というやつだよ」

「気って……そんなの聞いたことがない……」

「そりゃそうよ。 今まで鎖国していて私のいる国の情報は外に出ていなかったからね」


 そう言った黒いフードの女性を見て、第二王女は攻めてきている敵国の仲間ねと呟いた。その第二王女の呟きを聞いた黒いフードの女性は、それはどうかしらねととぼけた。


「もうこの国は落ちるよ。 攻めてきた国に落とされるから、抵抗しないで」


 黒いフードの女性が先ほどとは違い、ドスの聞いた声で第二王女に話しかけた。すると、第二王女は私のところに来ても何も出ないわよと言う。しかし第二王女の言葉を聞いた黒いフードの女性は、あなたの首から下げているネックレスが必要なのよと言う。


「もしかしてあれを使う気なの!?」

「そうよ! この国に隠されている古代兵器で、世界を手に入れるのよ!」

「そんなことはさせないわ! これは私が死んでも絶対に渡さない!」


 第二王女がそう叫んだ瞬間、外で何かが爆発した音が何度も聞こえた。


「町を攻撃してるの!? なんて酷いことを!」

「これから占領する国の国民とか知ったことではないでしょう! こっちだって命を懸けているんだ! 来てもらう!」

「私は王族よ! 国民を守る義務があるの!」


 第二王女が黒いフードの女性に叫ぶと、部屋の中に一人の男性が慌てて入って来た。


「美桜! 大丈夫か!?」


 その男性は夕凪団長補佐よりも少しだけ年齢が高く見える、この国の第一王子である凪であった。その男性は青色と白色の混じった服を着ていた。顔は美桜と呼ばれた第二王女に口元が似ている美桜を男にしたらというイメージをした顔をしている。


「お兄様! 気を付けてください侵入者が二人います!」

「外で戦っている夕凪団長補佐に聞いた。 その目の前の女がもう一人の侵入者か!」

「侵入者侵入者うるさいよ! 第一王子の凪王子も来て侵入したことはもうバレているんだから手段は選ばないよ!」


 黒いフードの女性は懐から短剣を取り出すと、美桜と呼ばれた第二王女に腹部を刺そうとした。


「こいつ! 美桜!」


 第一王子が美桜と名前を叫んで走るも、既に短剣は美桜のすぐ前に迫っていた。美桜は自身の死を覚悟して目を閉じるも、自身の腹部に短剣が刺さる気配がなかった。美桜はゆっくりと目を開けると、自身の前に伊織が立っているのが見えた。


「き、君! なんで!」

「俺は新米ですけど、騎士ですから……国民を守るのと同時にあなたも命を懸けて守らないといけないですからね……」


 伊織は腹部に刺さっている短剣を引き抜くと、目の前にいる黒いフードの女性の腹部を力強く蹴った。


「ぐぅ! 死ぬ間際で邪魔して!」

「守るのが俺の仕事だ!」


 伊織は腹部と口から大量の血を吐き出して床に力なく倒れると、伊織たちがいる部屋に夕凪団長補佐が慌てて入って来た。


「大丈夫ですか! 遅れて申し訳ありません!」


 部屋の中に入って来た夕凪団長補佐を見た黒いフードの女性はあいつは殺されたのかと察した。すると黒いフードの女性が懐から懐中時計を取り出して時間を見始める。


「何を見ている?」


 凪が黒いフードの女性に話しかけると、黒いフードの女性が大きく笑い始めた。


「私の侵入がバレて一定時間が過ぎると、総攻撃が始まる決まりになっているんだ!」


 黒いフードの女性は部屋内にある窓の側に近寄る。


「ネックレスはこれから来る仲間に任せるわ。 私はこれで失礼するわね!」

「待て! お前たちの目的は侵略なのか!?」


 凪が黒いフードの女性に近寄って聞こうとすると、黒いフードの女性は窓を突き破って外に出た。


「第二王女のネックレスに神聖王国の侵略……これで理解するでしょ」


 そう言い残して、黒いフードの女性の姿が見えなくなった。凪は姿が見えなくなるのを見ると、倒れている伊織に近づいた。


「まだ息がある! 助けられる!」


 凪の言葉を聞いた美桜は、すぐに助けないとと屈んだ。しかし美桜が屈んだ瞬間、建物が激しく揺れて三階の廊下が爆発した。


「とうとうここも攻撃するか! どうするか……」


 凪は自身の顎の指で掴んで悩んでいると、美桜に話しかけた。


「美桜! お前はそのネックレスを守るんだ! 絶対に敵に奪われるな!」

「分かった! 絶対に奪われない! お兄様はどうするの!?」


 どうするのかと言われた凪は、ここでお前たちを送り届けると言う。


「送り届けるってどういうことですか! お兄様も一緒に!」


 美桜のその言葉を聞いた凪は、既に王たちは殺されていると言った。


「お父様たちが!? どうして!? まだ王宮にはあの二人しか侵入者がいなかったんですよね!?」


 美桜のその言葉を聞いた凪は、騎士団の中に裏切り者がいたようだと美桜たちに言う。裏切り者と言う言葉を聞いた夕凪団長補佐は、裏切り者ですかと呟く。


「そうだ。 裏切り者をは必ず君たちを追いかけてくる! 美桜を守って国を救ってくれ! 頼んだよ!」


 凪が救ってくれと言った瞬間に、騎士団の数十人と侵攻してきている敵国の部隊が入って来た。


「裏切りの騎士団員の部下と、侵略している北方連合の兵士か……」


 その姿を見た凪は、伊織を夕凪団長補佐と共に抱えて美桜の側に移動させる。


「君たち三人がこの国の未来を切り開く! 頼むぞ!」


 凪はそう言いながら、美桜たちの地面に魔法陣を発生させてその場から転移をさせようとしていた。


「君たち三人に未来を託す! 北方連合を倒して、侵略された国々と神聖王国を取り返してくれ!」


 凪は美桜と夕凪団長補佐に言うと、伊織を含めた三人の足元の床に魔法陣が展開された。その魔法陣を見た美桜は、お兄様も一緒にと叫んだ。


「私はダメだ! ここで騎士団と北方連合の兵士を止める必要があるからな!」


 凪はそう言いつつ、魔法陣を発動させる。すると、美桜たちの身体が次第に消えていった。


「まずい! 第二王女たちが消えるぞ! 取り押さえろ!」


 騎士団の数人が剣を手にして近寄ろうとすると、凪が風の魔法である風刃を発動して、迫ってくる騎士団の足元の床を抉った。


「これ以上近づくのなら、この刃で攻撃をするぞ!」


 凪は脅しをしていると、横目で転移をし終えた美桜を見た。


「無事に行けたようだな……さて、私は投降をする。 これから私をどうするつもりだ?」


 凪が投降をすると、部屋の中に一人の男性が入って来た。


「お前が……お前が裏切り者だったか!」


 凪が裏切り者の名前を言う前に、裏切り者の男性が凪の腹部を殴り気絶させてしまった。殴った男性は部下と北方連合の兵士に指示をすると、静かに部屋を出て行く。凪により強制的に転移をさせられた三人は、深いどこかも見当がつかない森の中にいた。美桜が周囲を見渡している間に、夕凪団長補佐が伊織の怪我の具合を見ていた。


「腹部に裂傷と内臓損傷……確かに息はありますが、私では手の施しようが……」


 夕凪団長補佐が歯を食いしばって伊織を見ていると、美桜が伊織の側に近寄ってくる。


「私のために命を懸けてくれたんだよね? なら、これを使わないと」


 美桜は伊織に話しかけながら、ポケットに入れていた小さな美桜の指先と同じ大きさの白い石を取り出した。


「美桜様!? もしかしてその石は!?」

「そうよ。 王族にもしもの時が訪れた際に使う、国で数百年に一個取れるか否かの希少な再生の石よ」


 再生の石は惑星を巡る魔力や気が溢れた際に、たまたま溢れた先にあった石が魔力や気の力を溜め込んだ奇跡の石である。王族は自国の領地内にその奇跡の石が発掘される事を知っていたので秘密裏に採掘し、王族に配っていたのである。


「私も話には聞いたことがありますが、まさか目にする事が出来るとは!」


 夕凪団長補佐が驚いていると、美桜が石を伊織の身体に置き、置いた石に自身の魔力を流した。すると、奇跡の石が眩い光を数秒間放つと、勢いよく砕け散った。

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