第3話 水郷村

 砕け散った石を置いていた伊織の身体を見た二人は、伊織の肌着から見える裂傷が次第に消え始めた。その傷口が治っていくのを見た美桜は、内臓の損傷も治ったのだろうと安心をした。


「これで目が覚めるはずよ……」

「騎士団員のためにありがとうございます」


 夕凪団長補佐が美桜に頭を下げると、やめてと言った。


「国に攻め込まれてしまい、国を失いました。 今は三人でなんとかしないといけないの……仲間として動きましょう……」


 美桜は家族を失いながらも、国を取り戻すことを第一に考えていた。そのため、夕凪団長補佐には仲間として上下関係なく接して欲しかった。その言葉を聞いた夕凪団長補佐は、わかりましたと言い、美桜の目を見た。


「私は夕凪琴葉です。 改めてよろしくね」


 琴葉が美桜に名前を言うと、美桜もよろしくねと笑顔で返した。二人の中に何か絆のようなものが生まれたと感じている最中、伊織が重い身体に鞭を打って立ち上がった。


「ここは……どこだろうここ……」

「あ、目が覚めたのね! よかったぁ……」


 美桜が伊織に屈んで話しかけると、琴葉が凪様が転移の魔法で助けてくれたんですと伊織が倒れてからの経緯を説明した。説明を受けた伊織は地面を殴って不甲斐ないと自身を責め始めた。


「俺がもっと強ければ!」


 伊織が叫ぶと琴葉が伊織の頬を叩いた。伊織はなぜ叩かれたのか理解出来ずに琴葉のことを呆然と見つめた。


「俺が、私が、自分一人の力で国が救えるわけがないじゃないですか! 私だってもっと強ければと思いますが、私一人の力なんてたかが知れてます! 王宮で一人の侵入者に手こずっていたんですから!」


 琴葉が真剣に感情を込めて言う言葉を聞いて、伊織は自分はなんて浅はかだったのだろうと感じていた。


「すみません……俺が馬鹿だったです……」

「一人でするみたいに仲間と協力をしていけばいいんです! 何本の矢は簡単に折れないんですから!」


 胸を張って言う琴葉を見て、伊織は少し印象が変わったと感じた。


「さて、これからどうしましょうか? ここにいても始まらないですし」


 琴葉は美桜を見て話し始めると、伊織は自身が肌着と短パンだけなのに気がついた。


「何か寒いと思ったら肌着と短パンだけだ! あの黒いフードの女に鎧を砕かれたから!」


 伊織は身体を摩っていると、美桜がとりあえず歩いて村か町に行きましょうと言った。


「国を取り戻す算段がまだない以上迂闊には動けないわ。 敵は北方連合なのは明白だから、敵を討つ仲間を集めたり、同盟を結んで討ち倒すしかないと思うわ!」


 美桜が考えを説明すると、琴葉はそうですねと同意をした。


「さて、どっちの方角に行きますか?」


 琴葉が伊織と美桜に話しかけると、二人は唸って考え込んでしまっていた。その二人の様子を見ていた美桜は、あっちに行きましょうと暗い森の方を指さした。三人がいる場所は、草木が生い茂る森の深部といえるような場所であり、神聖王国の側にこのような森があることは三人共知らない。


 この場所は一体どこなのか美桜は知りたいと考えていたし、もし同盟を結べる国があれば万々歳だと思っていた。しかし美桜たちは歩き続けているものの、一向に何も見えない。見えるのはただの草木ばかりである。


「一向に何も見えないわね……本当にここがどこなの……」


 美桜は垂れてくる汗を拭いながら足が痛いわと小さく呟いている。琴葉はどこかで休憩をしましょうと言うも、その休憩場所すら見つからない始末であった。


「喉が渇いた……お腹もすいたなぁ……」


 伊織がふらふらとおぼつかない足で歩いていると、前を歩く美桜が川だと叫んだ声が聞こえた。


「川!? 川あったの!?」


 伊織は両足に力を入れて勢いよく走り出すと、目の中に綺麗な川が映った。


「これで少しは休憩が出来ますね」

「やっと食べ物も食べれそうね。 少し安心したわ」


 美桜と琴葉が食べ物と言っていたので、伊織はどこにあるのと二人に聞いた。すると、美桜がそこにいるわよと笑顔で川を指差した。伊織は指差された川を見ると、魚を素手でと叫んだ。美桜は叫んだ伊織に一緒に魚を取りましょうと言った。


「一緒にですか!? 美桜様が魚を取るなんてはダメですよ!」

「いいの! 今の私は一人の仲間としているんだから、一緒に色々なことをするのよ」

「で、ですが……」

「本人が言っているんですからいいじゃないですか。 それに美桜はあなたと同い年ですよ?」


 同い年と言われた伊織は、嘘でしょと驚いてしまう。伊織から見たらどう見ても自身より年上のような落ち着き方をしていたので、自身と同い年とは考えていなかった。


「同い年なの!? 嘘でしょう!?」

「本当よ。 私は伊織君と同い年よ」

「知らなかった……」

「神聖王国に暮らす国民なら姿を見たり年齢を知っていてもおかしくないと思うんですけど?」


 琴葉が伊織に知らなかったのと聞くと、伊織はその辺は興味がなかったから知らなかったと話す。


「騎士団員だったのだから、それぐらい知ってなさい!」

「ご、ごめんなさい!」


 二人のやり取りを見ていた美桜は楽しそうだと感じていた。


「こんな笑い合える平和を取り戻さないと!」


 空を見ながらそう考えていると、美桜は川の中に入って魚を手掴みしようとし始める。それを見た琴葉は周囲を警戒してますから、早く行ってくださいと伊織に命じた。伊織はその言葉を聞いて、すぐに美桜のもとに駆けだす。伊織は美桜の横に行くと、美桜がそっちに行ったわと叫んだ。


「こっちですか!? どこですか!?」

「足元!」

「こいつかあああ!」


 伊織はそう叫び、魚の側面を手で叩いて川岸に弾いた。


「良いわよ! その調子!」

「はい! 分かりました!」


 伊織はそう言い、美桜が追い詰めた魚を弾いて合計十匹捕まえることが出来た。琴葉がその魚を見ると、伊織に任務完了ですねと言った。


「結構取れましたね! 火を焚いておいたので、焼き魚にして食べましょう!」


 琴葉は動いている魚を掴むと、どこからか拾ってきていた木の棒を魚の口から入れて燃えないように焼き始めた。琴葉は篭手と鎧を脱いで、着ていたラフな格好になった。琴葉は茶色いシャツにデニムのショートパンツをを履いており、鎧を脱いでもどこでも行ける格好となっていた。


「夕凪団長補佐もラフな格好をしていたんですね」

「結構鎧の下はこんな感じですよ。 ていうか、もう団長補佐でもないですし団長補佐って名称は付けなくていいですよ」

「あ、そうよ! 私も様とか付けなくていいから! 今は皆が仲間よ!」

「あ、ありがとうございます!」

「ほら! 焦げちゃうわよ!」


 琴葉が焼き魚を一つ取って伊織に渡し、伊織も焼き魚を取ってそれを美桜に渡した。美桜たちは焼き魚を食べると、湧き水が側にあったのでその水を飲んで休んでいた。伊織たちは食事を終えて休憩をしていた。この辺りはどこなのか、周囲には何があるのか話し合っているが、一向に答えは出ていない。また、金銭も持ち合わせがなかったのでどこかの村や町があれば鎧を売ったりして金銭を稼いでおきたいとの話も出た。


「川があるということは、どこかに村や町があってもおかしくはないはずです」

「そうですよね……だいたいはあるはずなんですけど……」


 美桜は二人に下流に向けて歩こうと言い、川の流れに沿って川岸を歩いて行く。川岸を歩いて数十分が経過すると、空に昇っている煙が見えてきた。


「煙よ! 人がいるはずよ!」

「やっと見てきましたね! 行きましょう!」

「はい!」


 伊織が大きく返事をすると、三人は走り出した。

走った先には人口が数百人しかいない村と思える集落が見えた。村の入り口には水郷村と書かれており、川の下流に建てられた村という感じであった。


「小さな村って感じだけど、ここで情報収集をしましょう」


 美桜はそう言って二人を先導する形で村の中に入った。三人は水郷の村の中に入ると、一人も外を歩いておらず静かすぎると感じていた。


「もっと活気があると思っていたけど、なにこれ……誰も歩いていないし仕事をしている風景も見えないわ……」

「何かあるんですかね? どこかの家に聞いてみますか?」


 琴葉が美桜と話していると、伊織は村の中心部に池があるのに気が付いた。

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