第4話 祠での出来事
翌日、リリが自分のクラスに向かっている最中。
ヒソヒソと、どこからともなく声が聞こえてくる。
「あれが噂の……。」
「69だったらしいわよ…。」
「本当に魔王の娘なのか…?」
うぅ…気分が悪くなりそう。
聞こえてくる陰口は、あの日、お父様が言っていた罵倒たちと似ていて、クラスに
ーーー
ガラガラ、と、教室のドアを開ける。
教室はどんな大惨事になっているのだろうかと思っていたが、案外、教室の中は綺麗だった。
特殊クラスと言っても、普通クラスと違いはないのですわね。
「お!主役のお出ましだぞ!」
急に誰かが話しかけて来たので、リリは思わずビクッと、肩を震わせてしまう。
い、一体なんですの?
声がした方を向くと、大柄の男性が数人の取り巻きと共に、リリのことを見ていた。
「あれが魔王の娘だってよ!」
「流石!魔王の娘さまはお強いです!ってか?」
「ギャハハハ!」
い、嫌味ですの?!
リリが特殊クラス行きになった理由なんて十中八九わかるだろうに……わざわざ聞こえるように皮肉を言ってくる男たちに、リリはカチンと来た。
「あら、あなた達だって素晴らしいじゃありませんの。」
「何言ってんだ?あいつ。」
「特殊クラスに入るとは思ってなかったから、気が変になったんじゃないのか?」
「はっ!やっぱお嬢様なだけあるな。」
しっかりしなさいリリ!こんな所でめげていては、お父様を見返す事なんて夢のまた夢よ!
自分を励まし、言われるままにならないように、リリは反論する。
「
「あ?なんだと?」
い、言ってやったわ!私を馬鹿にするくらいなら、もっと自分を高めてなさい、バーカ!
言い返せたことにほっとしていたのも束の間、大柄な男は、リリの胸ぐらを掴んできた。
「ちょ!ちょっと、何をするんですの?!」
「お上品ぶってる魔王の娘さんに、世の中の厳しさってもんをわからせてやろうとしてんだよ!」
大柄な男は、リリ目掛けて拳を振るう。
しかし、その拳はリリに届くことはなく……。
バシッ!
「なっ!お前は!」
「ちょっとちょっと〜、なーにしてるんですかね?」
「あ、あなたは……。」
昨日、リリの前に測定をして、10万を叩き出したフードの男が、大柄な男の拳を掴んでいた。
「ちょっとした挑発でそこまで怒るだなんて、魔力だけじゃなく、器も小さいんだな?」
「ぐっ!」
フードの男に言われたことに、何も言い返せていない大柄な男だったが、その顔色はミルミル青ざめていく。
フードの男は、掴んでいた拳を握り潰す位、強い力で掴んでいた。
メキメキと、なってはいけない音が聞こえてくる気がするのですが……。
パンパン!
と、誰かが手を叩く音がした。
皆が音の先を見ると……
「皆さん!席につきなさい!これからホームルームを始めますよ!」
特殊クラスの担任の先生がいた。
た、助かったわ……。
目の前の出来事が怖くて動けなかったし、そもそも力の差的に、自分では止められそうに無かったので、担任の先生が来てくれて、リリはほっとした。
「では、今日から特殊クラスの授業全般を引き受けます、シェスと申します。」
やっぱり、普通クラスとは、授業の仕方がちょっと違うのですわね。
その後、今日は授業もなく、ちょっとした自己紹介だけして、帰りのホームルームとなった。
ーーー
帰りのホームルーム終わり、自分の部屋へ帰ろうとしていた時。
「おい、てめぇ、ちょっとこい!」
「きゃあ!」
突然、見知らぬ男に引っ張られ、リリは人気のない教室へと連れ込まれた。
「ほ、本当になんなんですの?!」
「ぺらぺらとよく喋る口だな。」
はっ!と、鼻で笑ってくる男。
尻餅をついたまま、リリは男に抗議する。
「わ、
「何か用があるだぁ?そんなの、一つしかないに決まってるだろう。」
男はまたもや笑みを浮かべ、リリの顔すれすれに炎の魔法を放つ。
炎の球は、顔にこそあたらなかったものの、リリのウェーブのかかったプラチナブロンドの髪を焦がした。
「あ……。」
大事にしていた髪、城のメイドから、母親によく似た髪色だと言われていた髪。
唯一、母親とのつながりを感じていた。
毎晩、見た事も無い母親の顔を思い出しながら、手入れをして来た髪。
「どうせ大した魔力もないくせに、一丁前に王女様気取りやがって!」
そんな男の声も聞こえず、リリは焼け焦げた髪の毛を見つめていた。
そんな…どうして…?
いつの間にか、リリは無意識に涙を流していた。
しかし、男は無情にも、座り込んでいるリリに近づいてくる。
「あのクソ魔王、人間なんて種族とっとと滅ぼしちまえばいいものを、いつ迄も生かしやがって!」
男はしゃがみ、リリと目線を合わせようとしている。
そして、男はなおも続ける。
男には、リリが自分の言葉を聞いていようがいなかろうが、そんなことはどうでもよかった。
「おまけに!親父がそのことを指摘した途端、親父を幹部の座からはずしやがった!」
ー大事なのは….ー
「おかげで俺は笑い者だ!…だからよお。」
ーか弱く、魔王の庇護下に入っていない...ー
「どうせお前みたいなやつは父親に見捨てられてんだろ?だったらいいよなぁ?」
ー
「っ!」
リリはゾクッと嫌な汗を流す。
本能的に、ここにいては危険だと思ったのだ。
「うわ!」
今まで放心状態だったリリは、自分の身を守る為、目の前の男を精一杯の力で押し除けた。
反撃されるとは思っていなかったのだろう。
男は突然のことに反応が遅れ、そのまま尻餅をついてしまった。
その隙に、リリは自分の寮室へと走り去っていった。
ーーー
バタン!…ガチャ
扉の鍵を閉め、ドアに背を向けながら、リリは下を向く。
なんとか逃げ切った……。
ただただ今は、自分が生きている事を確認したかった。
学生とはいえ、魔法とは本当に危険なもので。
簡単に……魔族ですら、簡単に
「はぁ……なんでこんなことになったのかしら…。」
ツカツカとベットまで歩いて行き、そのまま勢いに任せて、ベットへと倒れ込むリリ。
そこに、使い魔の白蛇が寄って来た。
「あら。……あなたはいつも、私を慰めてくれますわね。」
シャー、と、独特の鳴き声を出す白蛇を撫でながら、リリは気分を晴らす方法を考える。
しかし…今は体を動かす事もだるい。
だが…いつまでも、こんなに沈んだ気分でいるわけにもいかない。
先ほどのことを考えなくて済むように、リリは考える。
「そうですわ…散歩をすれば、少しは気分も晴れるかも…。」
この学園にも花壇はあったはず。
……メイド達が、お母様も、花が好きだと言っていましたわね。
リリはのっそりとベットから起き上がると、来ていた制服から、私服に着替え、お気に入りのポシェットに、ハンカチ、ティッシュ、救急セットを入れ、外に出ようとする。
シャー!
「あら?あなたも散歩に行きたいの?」
シャー。
「そうね……ここ最近、部屋の中にいてばかりだったものね……いいわ。一緒にいきましょう。」
白蛇を連れて、今度こそ、散歩に出発したリリだった。
ーーー
「とってもきれいなお花達ね。」
思い描いていた花壇の数十倍は面積のある、いっそ花畑と呼んだほうがいい場所に、リリは来ていた。
もっと珍しい花はないか、気になって、進んでいくが…
『立ち入り禁止』
「あら?」
立ち入り禁止の立て札があり、リリはちょっとがっかりする。
本来なら、ここで引き返すべきなのだろうが、リリは引き返したく無かった。
このまま引き返して仕舞えば、さっきの小tを考えてしまいそうだし…他の嫌な事も、思い出してしまうかもしれませんわ。
「ちょっとくらいなら……いいわよね。…別に、怪しいことをするわけでもないもの。」
リリは看板の先へと、進んでいく。
ーーー
「あら、黒いユリ。珍しいものね。」
いっそ心が洗われるほど、黒ユリは太陽の光を浴びて、きれいに輝いていた。
城の花壇では見る事の無かった花々に、リリは見惚れていたが…
「……?、あれは?」
視線を逸らした先に、何やら小さい……
石碑?でも…ここからじゃ、遠くて何が書いてあるかわかりませんわ。
自然と吸い込まれるように、リリは石碑の方へ歩いて行く。
ーーー
遠くから見て石碑だと思っていたものは、祠の一部だった。
祠の周りには、黒い彼岸花がたくさん植えられていた。
しかし、花のことなど気にも止めず、リリは祠の横にある石碑の文字を読む。
「ええと……『もっとも多くの人間を殺し、天使すらも殺して回った初代魔王、ここに眠る。』……お墓かしら?」
リリが呑気に考え事をしていると………
シャー!!!
「ど、どうしたの?!」
突然、連れて来ていた使い魔の白蛇が、苦しみ出した。
今前見たこともないほど、白蛇は苦しみもがいていて、リリはどうしていいのかわからなかった。
しかし……ピクッと一度体を震わせた後、白蛇は急に動かなくなった。
「し、しっかりして!」
リリが蛇の体を揺すると同時に、今まで喋ることのなかった蛇が喋り出した。
「ああ………5千年ぶりの
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