幕間

 客がいなくなると、見計らったように店の電話が鳴る。


「……はい」


 電話の先は客ではない。しかし、よく知る相手だった。


「そうか。見つからんか。……別に攻めているわけではない。だが……ああ、分かっているならいい」


 客には決して出さない声色で指示を出す。

 その姿は、きっと常連には信じられないだろう。


「連れの男は殺せ。だが決してエーデルワイスは傷付けるなよ。あれがいなくなっては元の木阿弥だ」


 普段から人情溢れた性格とは程遠いが、殺せと命じるほど非道ではない。

 店主もそれを自覚してる。だから客にはこの姿は見せられない。


「引き続き捜索を続けろ。ではな」


 切ろうとした店主を通話相手は慌てて止めた。


「なんだ? ……ああ、八百万か。あの店は放っておけ」


 何故、と相手から疑問が返ってきた。


「送り先はそうだったかもしれんが、その前に連れ去られたのだろう? であれば人を割く必要はない。それにあそこの主はたちが悪い。敵に回す必要がなければ関わるのはよせ」


 では必要であれば?


「ああ……その時は追って指示する」


 納得いかない様子ではあったが、渋々ながら了解と告げて電話を切った。

 店主も受話器を置いた。

 そして口から浅く長く続くため息が流れた。


「……もう少しだ。もう少しで……」


 からんころん。

 店主の心中などお構いなしに新たな客が扉を叩いた。


「いらっしゃい。お好きな席へ」


 出迎える表情に、先程までの影はなかった。

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