第41話 おんせんの真実

「いらっしゃいませ!」

 アバン達は威勢のいい挨拶で迎え入れられました。

「お待ちしておりました、エマリオ様ですね」

「はい」

「今日は貸切となっておりますのでごゆっくりおくつろぎください」

 各々が部屋に案内されていきます。

「エマリオってだれ?」

 聞いたことのない人の名前が呼ばれ不思議に思ったルルはアバンに聞きました。

「本名で予約できるわけないだろ、俺の偽名だよ」

「あぁなるほど」

 納得したようで腕を組んでうなずいています。

 貸し切りの理由は、ハーフの仲間として過ごしてなんとなくわかります。

 ルル達女性陣は、三人で一部屋。アートとクフリが同じ部屋で他の三人で一部屋の全部で三部屋です。貸切といえど、元々そんなに大きな宿ではなかったため全員が予約すれば貸し切りになってしまうのです。

「お風呂の準備もできてますので、いつでもご入浴いただけます。それでは、失礼します」

 丁寧な接客をしていた女将が部屋から出る際に言った一言でアートが気付いてしまったようです。

「おんせんってもしかしてお風呂なの!?」

 同じ部屋のクフリに聞きました。

「今まで知らなかったのか? まぁお風呂みたいなもんだな」

 驚いたアートは何か考えた後、また質問します。

「皆なんでお風呂がそんなに楽しみなの? お風呂に入るためにわざわざこんな山奥に来なくても」

 温泉を知らないアートの純粋な疑問でした。

「まあ、入ってみればわかるさ。 タオルと着替えを持ったら早速いきますよ」

 アートを早く温泉に入れ、感想を聞きたいクフリは普段見せないような笑顔で微笑んでいます。

 宿に置いてあった浴衣に早速着替え、準備万端です。


「これが、おんせん!!」

 アートは温泉の前にたち固まっています。目の前に広がるお湯からは白い湯気が立ち上り風に乗って熱気が伝わってきます。

「何を突っ立っておる、早よ進まんか」

 いつの間にか後ろにいたバイスに急かされます。

 石で囲まれたお湯にゆっくりと近づきそっと足から入ろうとします。

「小僧!! 湯船には体を洗ってから入れ!」

 それを見ていたバイスに注意されてしまいました。

 温泉のルールなど知らないアートは見様見真似でバイスの後ろをついて歩き同じ行動をしていきます。

 謎の熱い部屋やつめたい水のお風呂に入ったのもおそらく儀式か何かだと思いながらアートはついていきます。

 そして、ようやく湯船の前にたどり着きました。

「バイスさん! もう入っても?」

 待ちきれないアートはいつもよりテンションが高く、餌を前にした子犬のようです。

「おう、体を洗ったら入ってよかったんじゃが、なぜわしの後ろをついてまわったんじゃ?」

「あれは必要な儀式なんじゃ?」

 お互いが何をしているのかを理解していなかったようですが、ついに謎のおんせんに入れるアートはそんなことに構っている暇はありません。

 足の爪先からゆっくりとお湯に入り、肩までつかります。

「どうですか? 初めての温泉は」

 先にお湯に使っていたクフリが嬉しそうに尋ねます。

「最高です! これが温泉なんですね」

 クフリの顔がさらに嬉しそうになります。普段はエルフとオークの半種族ハーフレイスであるため布で口元を隠していますが、流石に温泉に入る時は外します。そのせいもあってかいつもより表情が豊かに見えます。

「なんだお前、温泉入ったことなかったのか」

 温泉の岩の陰から完全に出来上がったアバンが出てきました。

「アバンさん飲み過ぎですよ」

 クフリが止めようとしますが止まる様子はありません。

「アバン! わしにも分けろ!」

 バイスも参戦します。

「わはは、のめのめ」

 男湯は宴会となってしまいました。


「すごく体が健康になる感じがするよ、このお湯」

「何言ってるのよ、まだまだ若いのに」

 ルルが何気なく言った一言にミーアは口を尖らせています。

「ミーアさんだって若いでしょ」

「うふふ、ありがとねぇ」

 褒められて口元が緩んでいます。

「え? ミーアちゃんはひゃぶぇぼぼボボ」

 何かを言おうとしたルナがお湯に沈められています。普段のおっとりしたミーアからは想像もできないようなスピードでルナの頭を掴みに行っていました。ルルも今の言葉を聞いていたら命がなかったかもしれません。思わず唾を飲み込みました。

「でも、こんなにゆっくりしてていいの? 隠れ家に行ってカイさん?に合わなくても」

 ここにきた本来の目的を見失いかけていたルルは思い出したように言いました。

「あぁそんなこと気にしなくてもあいつならすぐに会えると思うわぁ。どうせここら辺を遊びまわってるわ」

「そうなの?」

「カイさんは温泉にいつでも入りたいからこっちの隠れ家に残った人だからね、多分その辺の温泉にいると思うよ」

 ルルの中でカイという人の印象は完全に遊び人で定着しました。一体どんな人なのか少し楽しみになってきました。

「そんなことより」

 ミーアはルルの後ろに忍び寄り後ろから抱きしめます。

「羨ましいわぁ、こんなにすべすべの若い肌」

 遠慮なしにルルの体を撫でまわします。

「くすぐったいよ」

 体をくねらせながら抵抗しますがミーアからは逃げられません。

「私もこんな肌に戻りたいわぁ」

 ルルの肌を撫でながら少し残念そうな顔をしています。

「仕方ないよ! ミーアちゃんはひゃぶぇぼぼボボ」

 何も学ばないルナはまたお湯に沈められています。

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