第40話 おんせんの謎
「ドルさぁん、これいつになったら着くの? 何個山超えたんだろ」
「弱音を吐くとさらに辛くなるぞ」
「ひぃい!」
ルルがドルに愚痴を漏らしています。それもそのはず、ルル達が隠れ家を出て西の国「ビズ」に向かったのはいいのですが、歩き始めてから丸二日は経とうとしています。
彼女らは今山脈の中にいます。ひたすら山を登っては降り登っては降りを繰り返しています。もういくつ山を超えたか数えるのをやめたあたりでルルに限界が来ました。
「もう! 無理!!」
そう言って山道の脇にある平べったい大きな石に腰掛けました。足を伸ばし寝転びます。もちろんこれは、ルル大丈夫?そんなに疲れたなら少し休もうか?と同情を誘う作戦なのですが・・・。
誰も振り向いてくれませんでした。比較的先頭に近かったので、ルルが座ってからみんなが通り過ぎて行ったのですが、見向きもされませんでした。
「なんで、みんな歩いて行っちゃうの」
ルルは残念そうにしますが、他の皆はわかっています。山で辛い時に一度座ってしまうと、もうそこから動くことはできない謎の力をです。老若男女種族を問わず、山で座り込めばもう終わりです。
皆ルルの気持ちはわかりますがひたすら前に進んでいきます。ルナだけが声をかけてくれました。
「もう少しだよ、ルル」
「でもまだ全然山じゃん」
「あれ? 知らないの?」
「ん?」
「ビズは山に囲まれた場所にあるんだよ」
「そうなの!?」
ずっと山をいくつも超えた先にあると思っていたルルは少し気持ちが楽になりました。
ルルは跳ねるように飛び上がり、一番後ろにいたクフリの後をついていきます。
しばらく、山を歩いていくとついに「ビズ」が見えてきました。
「お! 見えたぞ」
先頭を歩くアバンが後ろに続く皆に伝えます。
「やったぁ! やっと休める!」
心のそこから喜びを叫ぶルルに対してアートは「ビス」の上に見えるあるものが気になっているようです。
「ドルさん、あの煙は何?」
山上から「ビス」の国を見下ろせる場所から見ていますが、「ビス」の至る所から白い煙が上がっています。
「あれは温泉の湯気じゃな」
「おんせん?」
「あぁ、ビスの国を収めている鬼の種族は物好きな奴らでな、この温泉のためにこんな山奥に国を作ってるんじゃ」
視線を再び「ビス」の方へ向けますが見慣れない光景です。あれは一体なんなんだ。アートの中には温泉への興味しかありません。
「ん、久しぶりに温泉に入れるわね」
体を上に伸ばしながらミーアが独り言を言っています。
おんせんは入るものなのか。アートの温泉情報が更新されます。
「お前もあれに入ったら、病みつきになるぞ」
普段あまり話しかけてこないあのクフリが楽しそうにアートに話しかけてきます。
「病みつきに?」
「あぁ、あの熱々の温度は最高だ」
「その中で酒を飲むのもおつじゃな」
「いいですねぇ」
クフリとバイスが温泉トークで盛り上がっています。アートは全くついていけませんが。
熱々?おんせんは熱いのか。まぁ湯気が出ているから熱いのか。ん?というより、湯気が出ているということは水、いやお湯なのか?
温泉のことを知っているようでさらに謎が深まっていく感じがしています。
「よし、さっさといくぞ! 温泉に!!」
アバンの掛け声で再び歩き始めます。目的が少し違ってきているような気もしますが。
「おっきい橋だね」
「そうねぇ」
ルルとアートは大きな橋を眺めています。ここは、「ビス」の国に入るための橋です。「ビス」は大きな堀に囲まれています。正確には堀ではなく国を囲むように流れている川ですが。
ルル達は今その川をわたり「ビス」へ入るための唯一の橋へ来ています。横幅は百人が横に並んで渡っても問題がないくらい広く、長さは反対側にいる人が豆粒に見えます。
「いくぞ」
ぼーっとしていた二人は声をかけられ、先をいくみんなについていきます。
橋の上にはたくさんの人がいます。見たこともない野菜を運んでいる竜人の商人や観光に来てると思われるいかにも金持ちそうなドワーフなどたくさんの人が歩いています。
その中の金持ちドワーフとすれ違った時にこんな会話がアートの耳に届きました。
「温泉よかったわ。お肌がすべすべよ」
奥さんドワーフが言っています。
「わしの肩こりも良くなったわい」
右腕をぐるぐる回して見せながら言います。
肌がすべすべになって、肩こりがなくなる? おんせんとは回復魔術か何かなのかな?
アートとすれ違う人のほとんどが温泉の話をしています。そんな人たちの話をククたびにおんせんとはなんなのか分からなくなります。
「それにしても凄い人だね、なんでこんなに人が多いんだろう」
まだ橋の上を歩いているだけで国には入っていないというのに、ククスとは比べ物にならないぐらいの人です。
「ここはねぇ観光都市なのよ。大陸中の人が観光で訪れるの」
ミーアも来れたことが嬉しいようで普段よりも声が弾んでいます。
そんな会話をしながら人混みをこえて、「ビス」の中に入りました。そこは、ククスの市場とはまた違った雰囲気の賑わいを見せています。そしてついに例の場所につきました。
「ここが今日泊まる温泉宿だ!!」
「「ほぇぇ」」
アバンが紹介したその宿はまるでお城のような建物でした。宿の前には大きな木の看板がついていて独特な書体で宿の名前が書いてあります。
アバンに続いてどんどんと入り口にかけられた布をくぐっていきます。そして最後にアートも入りました。
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