第39話 鬼の国へ

「ガラさん! 無事ですか?」

 ミーアを見失いずっとキョロキョロしているガラにセミスがかけ寄ってきました。

「あぁ、すまねぇまた逃がしちまった」

 悔しそうに俯いてしまいました。

「これからどうしますか? ひとまずこのお店をどうにかするとして、すぐに追いかけますか」

 セミスは壊れてしまったお店を眺めながら呆れた顔をしています。たった一撃でこの威力の攻撃を出せるところは見習わなければいけないと思いましたが、自分はもっと周りのことを考えて行動しようと肝に銘じたことでしょう。

「あやまって! 金おいて! おうぞ!」

「だんだんガラさんが悪者に見えてきました」

 勢いよく立ち上がると、体をくるりとお店の方へ向け店主だと思われる男の獣人がいるカウンターに向けて歩き出します。

 その大きな体と歩くたびに響く地面の振動のせいで、店主や周りの客は恐怖していることでしょう。皆の顔がそう訴えています。

 ガラがカウンターの前までくると、店主を見下ろすような構図になりました。店主は思わず小さな悲鳴をあげます。すると、ガラは勢いよく床に両膝と頭を床につけて店主に平伏したポーズになりました。

「すみませんでしたぁぁぁ!!!」

 これは知る人ぞ知る、鬼族に伝わる謝罪のポーズです。残念ながらそのポーズの意味は店主には伝わっていなかったみたいですが・・・

「ひとまずこれを修復代に使ってください」

 膝をついたまま体を起こし、腰についていた大きな袋をカウンターにおきました。ものすごく大きな音を立てて置かれた袋を店主は恐る恐る覗きます。するとそこには、なかなか目にする事のできないような大金が入っていました。数えてはいませんが、おそらく店を改築した後に支店を建ててもまだ余裕があるぐらいの大金です。

「こんなに・・・」

 あまりの多さに言葉を失ってしまいます。

「もし、足りなければいくらでも騎士団に請求してくれ。ガラの名前を出せば聞いてもらえると思うから」

 ガラは真剣に謝りますが店主はそれどころではないようです。袋を持つ手が小刻みに震え、何かうらがあるのではないかと頭が混乱している真っ最中です。

「い、いえ。とんでもないです! こんなにいただければ充分です」

 声が裏返ってしまっていますがそれを聞いたガラは少し安心したようです。

「そうか、それならよかった。 それじゃあ俺たちはここらで失礼するよ」

 国で一番怖い笑顔を見せたガラは立ち上がると店を後にしました。

「どっちに行ったかわかったか?」

「はい、恐く北西方面かと」

「すぐに向かうぞ」

「「了解!!」」

 すぐさま、目的地を決め指示をだすと出発しました。


 ルル達はすでに隠れ家へと到着していました。

「なにぃぃ!! 隠れ家がバレてて、あのでかいのが追ってきてるだと!?」

「そうなの、なんでバレたのかしら?」

 隠れ家の中はすでに大騒ぎです。ククスで一番目をつけられてはいけないやつに目をつけられ、隠れ家までバレている。もうこれは、この場所をからにして逃げ出すしかないのです。

「せっかく気に入っておったのに」

 バイスがものすごくめんどくさそうな顔をしてひたすら文句を言っています。隠れ家の引っ越しとなると一番負担がくるのはバイスなのです。今の隠れ家を作るのにもかなりの時間がかかっており、バイスは相当気に入っていたはずです。

「残念だが移動するしかないようだ」

 アバンも少し残念そうです。

「次はどこにいくの?」

 唯一引越しを楽しみにしていたルナはウキウキで聞いてきます。

「西にある鬼の国『ビズ』に行こうと思う」

 まるで、前から考えていた事のように、するりと答えます。

「ほぉう、なんで?」

「西にいるカイ達に逢いにいくという理由にかこつけて居候する」

「おぉいいねそれ」

 もう一度隠れ家を作る気はどうやらないようです。仲間の隠れ家に上がり込み住み着く計画が出来上がっています。

「じゃあ、もうすぐにでも出発して方がいいな。バレてるならすぐにきそうだしな」

「そうじゃな、おそらく犬の獣人らしき騎士が調べてるのだと思うが」

「全員荷物をまとめろ、必要なものだけでいい。最低限持ったら出発だ!」

 アバンが指示を出し、皆はされぞれ自分の支度をするために散っていきました。


「よし、全員揃ったな。忘れてるものがないかよく確認しとけ、戻ってはこれないからな」

 全員が隠れ家から外に出て、木の扉の前に集まっています。

「ミーア、臭い消しと姿隠しを頼む」

「はぁい」

 ミーアが扇を一つ取り出し何か意味があるような振り方をしました。しかし、見た目には何の変化も起こりません。

「これ、何か変わったの?」

 臭い消しと聞いて、自分の匂いを嗅ぎながらルルは尋ねます。

「私たちにはわかるようになってるけど、他の人からはわからないわ。匂いも見た目もね」

 そう言って優しくミーアは微笑みますが、美形すぎるのがいけないのか不気味にも見えてしまいます。

「それじゃあ! しゅぱーつ!!」

 ルナの掛け声とともに新天地へ向けて出発しました。


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