第38話 化狐
ミーアは体の前で腕を交差させ扇を構えました。それはルルの目には、戦う時の姿勢には映りません。まるで綺麗な舞を踊る時のようなポーズをとります。
一方ガラは、腰を落とし低く構えます。前屈みになって今にも突撃していきそうです。
「いくぞぉ!!」
ガラがミーアへ向けて突撃しました。あの巨体からは想像もできないような速さで走っていきます。ものすごい質量の突進は凄まじいパワーを持っています。おそらく、そこらへんの家にぶつかって行ったら余裕で穴が開きます。
「うぉぉぉ!!!」
大きな声の掛け声と共に前へ前へと突き進んできます。しかし、ミーアは動揺
などは一切見せずにガラを見つめます。
「毎回同じ始まり方ね、何も学習しないのかしらこのデカブツは」
そう言って扇で口元を隠し、くるりと一回転しました。すると、今までルルたちや周りとあまり変わりのなかった服装が、とても綺麗な赤色の服装に変わりました。
西の国の女性が来ていると言われている着物によく似ています。袖口がとても広く、背中に伸びる布はとても長いです。きらびやかな装飾は普段の生活ではまず見かけないようなものばかりが付いています。とても、戦うときに着るような服装には見えません。あれでミーアは戦えるのでしょうか、ルルは扉の後ろから見守りながら心配していました。
「
ぼそりとミーアが呟きましたが特に何も起こりませんでした。先ほどと同じように口元を扇で隠したまま一歩も動きません。
「まずい!!」
ドルは何かを感じたのかルルとアートを抱え、隠れていた店の扉から離れます。
「ふぁいぃぃぃ!!!」
不思議な掛け声と共にガラはミーアへの突進を決めました。しかし、ぶつかった瞬間ミーアの体は花びらとなって散っていきます。勢いが殺せず、そのまま前の建物に突っ込みました。
「なぁぁぁ!!!」
ガラも止まろうとしましたが、それは叶わず先ほどまでルルたちが息を潜めていた扉を破壊し店を半壊させた時に倒れ込むようにして止まりました。
「くっそいてぇぇぇ」
瓦礫の中から起き上がったガラは頭をぶつけたらしく、さすりながら立ち上がります。
「うわぁぁ、やっちまった」
店の惨状を見てガラのテンションが見るからに下がっていきます。反省の気持ちはあるようです。
くるりと店の方を振り返り綺麗な九十度での謝罪をしました。
「すみませんでしたぁぁぁ!!」
謝罪の声は異常に大きく、店にいた飲んだくれたちの頭にはよく響きました。
「お怪我のある人はいませんか? お店の方は必ず弁償させてもらいます!!」
見た目の怖さとは裏腹に礼儀正しく謝ります。壊したのはガラなのですが。
「よぉぉしぃ!! 再会だぁぁ!!」
再びミーアのいた方へ振り返り気合を入れ直しますが、そこにミーアの姿はありませんでした。
「ありぃ?」
ガラは首を傾げます。あたりを見回しても姿が見当たりません。
「また化かされたぁぁ!!!」
両手で頭を抱えその場に膝から崩れ落ちます。どうやら、昔からミーアには今のように流されてきていたようです。
「あのままだったら、私たちのところにぶつかってきてたね」
村の細い道を走りながら、ルルは先ほどのことを考え安堵しています。
「ごめんねぇ、ルルちゃん達。後ろのことなんて何も考えてなかったわぁ」
ミーアが軽く顔の前で手を合わせ、謝るような仕草をとります。もう先ほど身につけていた綺麗な衣装は身につけていません。
「大丈夫だよ、ドルさんがかわしてくれたからね」
ドルの方を見てニッコリと笑います。
「でも、なんでミーアさんはククス最強の騎士なんかに追われてるの?」
先ほどの現場からいち早く離れ、騎士団にまた見つかる前に逃げます。追われているのに五人は楽しそうに雑談をしながら逃げます。
「私にもわからないわぁ、戦争の時にあってからずっと付き纏われてるの。毎回さっきみたいに逃げてるんだけどねぇ」
ミーアもよくわかっておらず不思議そうにしています。
「まぁみんな無事でよかったわぁ」
「でも、どうするんだ? 隠れ家がバレてるような口ぶりだったが」
ドルはセミスが話していたことを思い出します。
「引越しかぁ久しぶりだなぁ」
ルナに関してはもう引っ越す前提で話しています。
「まぁ帰ってから話しましょう」
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