第37話 因縁
「あらぁ、何か私たちに用かしら?」
ルナの後に続き店から出てきたミーアが言いました。まだドルとアート、ルルは店から姿を見せてはいません。
「俺たちはハーフとハーフが、かくまっていると思われる二人の姉弟を探している。心当たりはないか?」
セミスは明らかに狙ってルナとミーアに話しかけてきています。村には多くの人が住んでいるのに二人にだけ聞くのは違和感があります。
「知らないわぁ、ここしばらくハーフの話なんて聞かないからねぇ」
それでもミーアはシラを切ります。
しかし、ここでセミスたちが引き下がるわけはないのです。セミスたちの部隊はあの木下にある隠れ家からルナが姉弟と一緒に出てきていたのを確認していました。正確には木は魔術によって見えなくなっていたので、何もない草原から急に五人が現れたように見えましたが。
「悪いがこれは質問ではない、尋問だ。答えてもらおう」
「あらあら、怖いおにぃさんねぇ」
そんなやりとりをルルたちは店のドアの隙間からのぞいていました。
「セミス兄たちどうしてここがわかったんだろう?」
ルルが不思議そうに考えています。
「おそらくあの後ろの犬の獣人じゃろう、優秀な追跡ができるものなんだろう」
「見て、ダットたちもいるよ。騎士団には入れてんだね」
アートがセミスの周りに立っているダットたちを見て少し嬉しそうな声を出します。
「ドルさん、ミーアさんたちは大丈夫なの?」
自分たちは隠れてミーアさんたちを身代わりのような状態にしているのが、アートは申し訳なく感じているようです。
「大丈夫じゃ、まぁ見ておれ」
「久しいな、化狐」
ミーアたちを囲むようにして並んでいた騎士団の後ろから一際ガタイの大きな男が現れました。
「あらあら、私はもうあなたには会いたくなかったのだけれどねぇ」
ミーアの顔は笑顔ですが目が笑っていません。
「そんな悲しいこと言わないでくれよ、昨日の敵は今日の友というだろ?」
ガラは豪快な笑顔を浮かべながらミーアの前に出てきます。
「あなたは死ぬまで敵でしかないわ」
ミーアの表情がだんだん険しくなっていきます。
「これはまずい男が出てきた」
店の扉の後ろでドルは少し焦り始めました。
「誰なのあのでかい人」
そんなドルを見ていたルルが聞きます。
「あやつは、ガラという名のオーガ族の男だ。ククスの騎士のなかで戦闘能力だけで言ったらおそらく一番強い」
「え!? 大丈夫なのミーアさん」
「ガラにとってミーアは大陸で一番相性が悪い相手じゃ、昔からなぜかミーアに勝つことにこだわって挑んでは負けておったな」
「何それ、変わった人だね」
不思議な人だと思いながらも、一番強い騎士に勝ってしまうミーアさんは一体何者なのかと気になっています。
「さぁて! 今回は勝たせてもらうぞ、お前らこいつとはタイマンでやるから手を出すなよ!」
そう言って周りの住民たちを避難させるように指示を出します。
「一体なんの恨みがあって私に付き纏うのかしら」
心底嫌そうな顔でため息をつきます。
「恨みなどない! 理由など一つしかないだろ!」
「はぁ、昔から話が通じないわね、構えなさい叩きのめしてあげるわ」
そういうと、どこからか扇を二つ取り出しました。右手と左手にそれぞれ一つずつ持ちます。
「よっしゃぁぁぁぁ!!! 久しぶりに本気が出せるぜぇぇ!!」
どれほどの因縁があるのか、ガラは周りの目はお構いなしに雄叫びをあげました。
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