第36話 追跡部隊
時間は少し遡り、ルルたち姉弟の処刑が妨害されハーフに逃げられてすぐのお話です。
「シーラ支部長!! ご無事ですか?」
アバンたちがルルとアートを連れ逃げ去ったのを見たセミスはすぐに処刑台の上にいるシーラの元に駆け寄りました。
「うっ! 何とか持ち堪えている、すまないが一度騎士団を集めてくれ、話がある」
アバンの斬撃により腕の骨まで真っ二つに割れ、すでに限界寸前のシーラですが、組織を収めるものとしてやるべきことはまだあります。
今にも落ちそうな腕を何とか抱き抱えながら、他の騎士団が見える場所まで歩いていきます。
「シルもダメだったか・・・」
膝を抱えうずくまっているシルを見て落胆の声を漏らします。しかし、緊急事態です。治療の前にやらなければいけないことが多すぎます。
「シーラ支部長、全員聞く準備が整いました」
「助かる」
重い足をなんとか前へと進め、他の騎士団が見える一まで移動しました。
腕から大量の血を流し辛そうにしているシーラを見て、現状が把握できていなかったものたちも、この状況の緊急性を感じました。
「騎士団全員に次ぐ! ハーフの元副リーダー、アバン・カミラスによってルル・マキシス、アート・マキシスの二名が逃亡した」
集まっている騎士団がざわつき始めました。特級戦犯だとはいえ、ククスの最高戦力であるシーラを前にして逃亡を成功させるなんて。騎士団の雰囲気は一気に不安に包まれます。
「よって、今より特例を発令する。この事実を他の同盟三国に伝えたのち、我々ククス支部ではハーフ捜索のための部隊を編成する。怪我をしていない騎士は住民の安否確認を。それでは、各自行動に移れ」
集団から、息の揃った威勢のいい返事が聞こえそれぞれが自分の役割を果たすために動き始めます。
騎士団が動き始めたのを確認したあと、シーラはその場に崩れ落ち膝をつきます。
「シーラ支部長!!」
セミスが驚き駆け寄ってきます。
「すまんセミス、俺の腕をツタで縛ってくれ」
「わかりました」
腰についた小物入れから種を取り出すと地面に落として指を鳴らしました。種が爆発したように伸びていき、シーラの体に巻きつくように育ち両腕をキツく縛りつけました。
「助かる、あっちで倒れてるシルの救助も頼めるか?」
「了解です」
セミスが倒れているシルの元へ走り出すと、一度呼び止められました。
「セミス、あとで支部長室まで来てくれ話がある」
軽く頷き返事をして、シルの救助へ向かいました。
コンコン
扉をノックする音が支部長室に響き渡ります。
「入れ」
シーラが入室の許可を出すとセミスが扉を開けました。
「失礼します」
セミスが部屋に入ると、目の前には何人かの騎士が集められていました。
「皆よく集まってくれた、先ほども言った通りだがハーフはまだ動いていた。15年前の戦争で事実的には解散されたとなっていたが、今日見たようにまだ存在している」
集められたメンバーは緊張した面持ちでシーラの話を聞いています。
「そこで、君たちはこれから部隊を組んでもらいハーフの捜索に当たってもらう」
先ほどの広場でも部隊を編成することは聞いていたので当てめられたメンバーは薄々気づいていたようで、驚きの声はあげません。一人を除いてはですが。
「ぶたいぃぃ!?」
間抜けな声が支部長室全体に広がりました。
「やめろダット! 支部長の話を遮るな」
マールに怒られ少し反省したようにダットは俯いています。
「かまわんよ、何か質問があればすぐに聞いてもらってかまわない」
それを聞きダットはすぐに質問します。
「部隊って強い奴が集められるんだろ? なんで俺らが集められているんだ?」
処刑騒ぎのせいでうやむやになっていましたが、騎士団へと合格し入団が決まっていました。しかし、この特別な部隊に入ったばかりである自分たちが呼ばれる理由などわかりませんでした。
「初任務にこんな大きな仕事を任せてしまって申し訳ないと思うが、騎士団でこのレベルの仕事を受けれるのはあまりいないんだ。 だから、最終試験を見ていて私が優秀だと感じた三人にきてもらった」
二人の横にはクヤも並んでいます。
「上級騎士の指示を聞き、彼らをサポートしてくれればいい」
クヤとマールは初任務と重大な責任に、プレッシャーを感じていますが、ダットは相変わらず何も感じてなさそうです。疑問が解決しスッキリしたようです。むしろ、優秀と言われ誇らしげに腕を組んでいます。
「他に質問がある奴はいるか? この部隊に入るのは強制じゃない、嫌だと思ったら抜けてもらっても責めはしない。 セミスと新人たちはあの姉弟の友人だろうし・・・」
少し言いにくそうに言いましたが、とっくに抜けるというものはいないようです。
「わかった、それではメンバーは六人で決定だ。早速で悪いがお互い軽く自己紹介をした後、すぐに捜索任務に取り掛かってもらう」
「待ってください支部長!」
セミスが話を遮ります。
「なんだ?」
「六人なら一人足りないのでは?」
そう言われて他のメンバーも周りを改めて見ましたが、シーラを合わせて六人しかいません。
まさか、支部長のシーラが部隊に入るわけはないと思っての疑問でした。
「おぉ、すまない。最後の一人はククスの最後の上級騎士だ。そろそろ遠征から帰ってくるはずだが」
すると、まるでタイミングを合わせたかのように支部長室の扉が勢いよく開かれました。
「遠征から帰ったぞ! 久しいな支部長!!」
大声で挨拶? をしながらズカズカと突き進みシーラの前まで来ました。かなりの大男でセミスよりもはるかに背が高く、筋肉質の体です。
「どうした!? 支部長その腕は!!」
シーラのグルグルまきになっている腕の包帯を見て驚きます。
「報告は聞いているんだろう、そんなに驚くな」
「聞いてたけど、本当だとは」
「嘘をつく理由などない」
支部長であり四騎士の一人であるシーラとなれなれしく話していて誰も話に入っていけません。
「この男が、部隊のリーダを務める。自己紹介をしろ」
シーラに言われくるりと振り向くとまたまた大声で自己紹介を始めました。
「第一上級騎士のガラだ。この部隊のリーダーを務めることとなった、オーガ族最強の男だ! よろしく!!」
自己紹介を終えると強面の顔でニッコリと笑いました。笑っても少し怖いです。
「ククスに三人しかいない上級騎士が二人も・・・」
ガラの自己紹介を聞きぼそりと呟いたのは、セミスと新人三人の他に集められていたもう一人の男です。
独り言のように呟いたのを聞き逃さなかったガラはその男に自己紹介をするように指名しました。話の進行をシーラから奪っていますがシーラは慣れているようです。
「はい、第一中級騎士のモカサと言います。犬の獣人なので、おそらく捜索担当として部隊に呼ばれたはずです」
モカサと名乗った犬の獣人はシーラの方をチラッと見ながら言いました。ガラの後に自己紹介をしたせいでもあるのでしょうが、あまり覇気がないように感じてしまいます。
「はい! 次ぃぃ!!」
ガラはどんどん振っていきます。セミス、クヤなど一通り自己紹介は終わりました。
「よし、それじゃあよろしく頼むぞ! 何かあったらいつでも言ってくれ」
新しいハーフ捜索部隊の自己紹介が終わり正式に六人の小隊が出来上がります。
「早速だがこの六人には動いてもらう。逃げたアバン及びハーフの足取りを追ってくれ、無理な戦いではないと判断した場合のみ戦闘とハーフのメンバーの拘束を許可する。頼んだぞ」
「「了解!」」
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