第35話 酒豪

 マシアを連れたルルたち四人は隠れ家から一番近くにある村へ向かっていました。

「私、村に行くの久しぶりだなー」

 そう答えたルナはマシアと手を繋ぎ楽しそうに先頭を歩いています。

「ルナお姉ちゃんも村に来たことあるの?」

「たまぁにだけどね」

 そんなん二人の後ろを少し離れて、ルルとアートそしてドルが歩いています。

「なんで私たちが半種族ハーフレイスだって教えてくれなかったの?」

「見た目はただの人間だったからの、普通の種族として生きていけるならそっちの方が楽だと思っていたからな」

「そうなんだ」

「すまないな、まさかあんな形でもう一つの種族が出てくるとは思わなかった」

「もう大丈夫だよ! そんなに謝らないで」

 ルルはただの興味で聞いたのですが、昨日までのことをドルはかなり悔やんでいるようです。そんな空気を読んでかアートが話題を変えようとします。

「そういえばドルさん、ドリィって呼ばれてたけどどっちが本物の名前? ドルさん? ドリィさん?」

 ルルも気になっていたらしく強く頷いています。

「本当の名前はドリィじゃが、別に呼びやすい方で読んでくれ、今まで通りで何も問題はないぞ」

「じゃあ、ドルさんで」

 笑いながら答えたアートにつられ、ドルも笑顔になります。

「あっ!! みえてきたよ!」

 ルルたちの前を歩く二人からそんな声が聞こえてきました。

 五人の前方に見えてきたのは、獣人たちが集まって暮らす村です、村と言うには少し大きい気もしますが街としてしまうと、管理などが大変になるそうで村として自由に暮らしています。



 五人が村に入ると、そこはかなり賑やかでした。この村でも朝一のような文化はあるらしく今はそれの終了間際といったところでしょうか。

「すごい! 思ったよりも人がいるし、朝から大賑わいだね」

 ルルのテンションが跳ね上がります。

「そうだねぇ、朝ごはんも食べないで早くから出てきたからお腹が空いたよね。屋台で何か食べてから探そっか」

「「賛成!!」」

 仲良し兄弟の息のあった返事が聞こえてきました。

 各々が好きなものを食べ朝のお腹ごしらえを終えました。

「ふぅ〜。食べたね、マシアちゃんミーアちゃんがいるお店を教えてもらえるかな?」

「わかった!」

 元気なこえで返事をした少女は村の奥の方を指差しました。

「よし! いこー」

 またもや、ルナとマシアを先頭に五人は歩き始めました。


 しばらくして、大きな店の前に到着しました。中からは酔っ払いと思われる声が多く聞こえます。まだ、一日は始まったばかりだと言うのにかなり大勢いる気がします。

「うわぁミーアちゃんいそう」

 ルナがそんなことを呟きながらお店に入っていきます。扉を開けて店に入ると店の中心で何やら人だかりができています。何かを囲むようにして円のように囲んでいます。

「何してるんだろあれ」

「多分あそこだな」

 ドルがやれやれといった表情を浮かべています。

「見てきてみろ」

 そう言われて、ルルとアートは酔っ払いの集団の隙間を縫って進み、その中心へと到着しました。そこへいたのは獅子の立て髪を持った屈強な男と背が高く体の線が細い狐か何かの女性でした。

 二人は酒の入った大きなグラスを持って睨み合っています。

 すると突然、周りの観客たちが大きな声でカウントダウンを始めました。

「「3! 2! 1! 0!!」」

 カウントダウンが終わると同時に二人はグラスの中に入った酒を一気に体の中に流し込みます。

 大歓声の中、狐の女性が先にグラスをテーブルにおきました。すると周りからは、さらに大歓声が起こります。あまりのうるささに、ルルたちは耳を抑えました。

「まさか、あの人が?」

 アートがルルに言った言葉も周りの声にかき消されルルの耳までは届きませんでした。

「これで百人斬り達成だぁ!」

「あの姉ちゃんとんでもねぇ!!」

 周りからそんな声が聞こえてきました。

 話題の中心である狐の女性は周りへにこにこしながら手を振り歓声に応えます。男という生き物は単純で綺麗な女性に笑顔を向けられるだけで、テンションが上がってしまうものなのです。

 そんな光景を目の前で見ていた二人は、その女性に見つかってしまいました。

「あらあら、可愛い子たちがいるじゃない。このお店はまだ君たちには早いんじゃないかしら?」

 近寄ってきて話す狐の女性はびっくりするくらい酒臭く、顔の前で話されるだけでこっちが酔ってしまいそうです。

「ミーアさんですか?」

 酒の匂いに耐えながらルルが聞きました。

「あら、どうして私の名前を?」

「迎えにきたんですよ」

「むかえ?」

 ルルは集団の後ろにいるドルたちの方を指差します。

 ルナがそれに気づき右手をぶんぶんこちらに向けて振って見せます。

「それじゃあ、あなたたちが新入りちゃんね。 よろしくね」

 笑いながら二人の頭を撫でてきました。

「むかえに来てくれたことだし、今日はもう帰りましょうか」

「でも、お金がな・・・」

 ルルの言葉を最後まで聞く前にミーアは後ろをくるりと振り返りました。そして、細い腕を上にあげ皆の注目を集めます。

「みんな〜あとはよろしくね〜」

 笑顔で手を振ると、周りにいた男たちからはまた歓声が上がりました。どうやら支払いは終わったようです。

「さあ、いきましょう」

 軽い足取りで集団を抜けドルたちのもとへ向かいます。

「お待たせ」

「お待たせじゃないよ! もう! ミーアちゃんのせいで昨日マシアちゃんがどんな怖い思いをしたと思ってるの!」

 ルナが腰に手を当てわかりやすくミーアを叱ります。

「あらぁごめんなさいね」

 そう言いながらマシアの頭を撫でています。

「ありがとうね、私なんかのために」

「ううん、いいよ」

 マシアはあまり気にしてはいないようです。

「それで、支払いはもういいのか?」

「みんなが払ってくれるって」

 ミーアは後ろの男集団を見て笑っています。

 かなりの高額を払う覚悟をしてきたドルでしたがその覚悟は無駄に終わったようです。

「それじゃあ、帰りましょうか」

「またきてね!」

「マシアちゃんこのお店の子?」

「そうだよ!」

「じゃあ、ここでお別れだね。寂しいけどまたくるね!」

 この街で大きな酒場はマシアの家でもありました。ルルたちはマシアに別れを告げると、酒の匂いが漂う酒場のドアを開け外に出ました。

「止まれ!!」

 ルナが先頭になり外に出た瞬間でした。何者かに呼び止められました。

「純血の騎士団ククス支部 第二上級騎士 セミスだ。 話を聞かせてもらおうか」


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