第33話 一難去ってまた一難

 ルナに指名され立ち上がったのは背の低い男です。人間やエルフの背が低いやら高いやらに混ざって話ができないほど身長が低いです。

 男は椅子の上にたち両腕を前に組んで自分の存在をアピールしてきます。

「俺の名前は、バイスだよろしく」

 男は座り、食事の続きを始めました。

「それだけ!?」

 ルルとアートが思っていたことを、ルナが代弁して叫んでくれました。

「いいだろうがよ」

 バイスと名乗った男は一言でしか返してくれません。

「もぉー!! 私が代わりに自己紹介しちゃうよ?」

「勝手にやれ」

 肉にかぶりつきそれを酒で流し込んでいます。もう自己紹介などには興味がないようです。

 ルナによるバイスのための自己紹介が始まりました。

「この人はね、西の製造の国からやってきたドワーフなんだ!」

 なんとなく、見た目で分かってはいましたがやはりドワーフでした。

「少し! いや、かなり? 気難しい人だけどいい人だから気にしないでね」

 ルナが苦笑いながらチラッとバイスの方を見ますが聞いているのか聞いていないのかわかりませんが、全く興味を示しません。

 そんなルナを不憫に思ったのかアバンも口を挟みます。

「バイスはうちの技術担当だ、武器やその他の道具などはほとんどバイスが作ってくれたものだ。 お前たちが今使ってる食器やフォークも手作りだぞ」

 アバンが二人の手元を指差し、二人が手元の食器に目をやると、繊細な作りを改めて実感させられます。さっきまではルナが作った豪華な食事で飾られ、食器には目が行っていませんでしたが、よく見るとがたつきが少なく真っ直ぐ綺麗にできています。おそらく、これを市場などで売ればかなりの高値がつくはず。

 物づくりに関してあまり詳しくないルルやアートが見ても技術力の高さがわかります。

「あとは・・・。バイスさんのことよく知らないや!」

 眩しい笑顔でよく知らないと豪語します。持ち前の明るさを持ってルナが話しかけたとしてもおそらくバイスは自分のことを話してはくれないのでしょう。

「ちなみにバイスも半種族ハーフレイスじゃないぞ」

 最後にアバンの付け足しで自己紹介が終わりました。

「それでは次ぃぃ!!」

 ルナが元気いっぱいに次の人に順番を回しますが、誰も立ち上がりません。

「あれ? そうだった! 今、物資調達に行ってるんだった。 ここにはもう一人いるんだけどまた後でね!」

 二人の前で手を合わせ謝るようなポーズをとっています。

「それじゃあ、ハーフは。1、2、3、4、・・・」

 アートが人数を数え始めます。

「6人なんだ」

納得したように言いましたがアバンに否定されました。

「いや、もっといるぞ。 ここの隠れ家を拠点としているのが6人。お前らも合わせて8人ってだけでな。 他の場所には他の隠れ家があって、そこにいる人たちも合わせればかなりの数がいるはずだ」

 ルルたちに教えるというよりかは、自分に言い聞かせるように言っているように聞こえます。


 それからしばらく、ルルとアートそしてルナの主に3人の雑談と食事が終わりました。


「もう、お腹に入らない」

 苦しそうな声をしたルルが、横に長いイスに寝転びながら口を抑えています。

「確かに美味しかったけど、お姉ちゃんは加減を知らなすぎだよ」

 アートに叱られますが、それどころではないようで返事すら返ってきません。

「まったく!」

 アートが起こっていると、台所と思われる方からルナの声が聞こえてきました。

「二人ともー! この隠れ家の探検に行かないかい?」

 食事の片付けが終わったのかタオルに手を拭きながら飛び出してきました。

 待ちに待った隠れ家探検のお誘いに、ルルは返事ができず拳を突き上げて参加の意思を伝えます。

「おぉ! やる気十分だね! アートもいくでしょ?」

「はい!」

「よっしゃ! 行くぞー!!」

 3人の隠れ家探検が始まりました。ルルは歩くのもキツそうにしていますが、自業自得です。

 

 大きな木下に作られているこの隠れ家にはなんでもありました。

 先ほどみんなでご飯を食べたリビングを中心として、アリの巣のように広がり様々な部屋があります。武器や食料をしまう大きな倉庫はもちろん、バイスの工房やベッドの置いてある寝室、お湯が出ているお風呂まであります。おそらくすべてバイスが作っているのでしょうが、物凄い技術力です。木下の地下にお湯のでるお風呂を作ろうと考える人はまずいないでしょう。

 そして、最後にきたのはルルが期待していた木の上でした。木の中には住んではいませんでしたが、木は見張りようとして使われているようです。ちゃんと、降りてきたはしごとは別のはしごが付いていて頂上まで登ることができました。

「うわぁすっご〜い」

 隠れ家を歩き回ったおかげでお腹がだいぶ楽になってきたルルが、上からの長めに感嘆の声をあげます。

 木の頂上からは沈んでいく大きな夕日が見えました。今日の朝、処刑されそうになっていただなんてとても思えません。

「でしょでしょ、私もここお気に入りなんだ!」

 ルルと二人で景色を眺めながら盛り上がっています。二人はどうやら気が合うようです。

「でも、隠れ家なのにこんな大きな木って目立たない?」

「二人ともきた時に見たと思うけど、魔術を使って隠されてるから、存在を知ってる人にしか見えないし入れないようになってるんだよ」

 確かにここに来た時、クフリが魔術を使うまでは何もなかったのに、急に木が見えるようになった記憶があります。

 そんなことを話していると、ルナがどこか真剣な声音で話始めました。

「二人とも、今まで大変だったよね。 半種族なのは知られてなかったかもだけど、スラム街で幼い頃から・・・」

 そう話すルナの目には少しですが涙が浮かんでいるように見えます。ルルたちのことを考えて泣いてくれる、とても優しい人なのです。

「ドリィさんから育てられたと思うけど、これからは私たちにも甘えてもいいんだからね」

 笑顔でそう言うと、ルルが抱きついてきました。

「ルナさぁぁん!!」

「おぉ! よしよし、可愛いやつめ」

 二人は笑いながら、じゃれあっています。

「アートも来ていいんだぞ、ほれほれ」

 少し照れ臭いアートは笑って誤魔化します。

「ルナさん! あれ」

 急にアートが木下を指差しました。

 じゃれあっていた二人が目線を向けるとそこには一人の少女がいました。

「あの人がもう一人?」

「いや、違う。知らない子だ、アート下にいる四人にこのことを知らせてきてくれる?」

「わかった」

 アートはすぐにはしごを駆け下りていきました。

「私は何をすれば?」

 ただならぬ雰囲気にルルも手伝いを買って出ます。

「ルルは反対方向を見張って! 他にもうろついてる人がいないか見て! いたらすぐに知らせて」

「はい!」

 ルルも木の反対側を見張りにいきました。

「なんで、この場所をわかってるんだ? アバンさんがつけられたとは考えにくいし」

 ルナは先ほどの少女を見張りながらも、様々な可能性を考えています。結論は出ないのですが。

 どうやら、ルルたちには休む暇もないようです。



 

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